日常への帰還
四聖獣との契約を終えて、一週間が経った。
六人は、炎下家の訓練場に集まっていた。
玄弥、葛葉、ミユキ、ナギサ、ムツミ、ユカリ。そして四体の聖獣、朱雀、青龍、白虎、玄武。
「では、今日は四聖獣との連携訓練じゃ」
葛葉が前に立って言った。
「お主ら、契約は結んだが、まだ聖獣の力を完全には使いこなせておらん」
「そうね」
ミユキが頷いた。
「朱雀の力、すごく強いけど、まだ制御が難しいわ」
朱雀がミユキの肩に乗った。
「そうたい。あんたとわたしの霊力を完全に融合させるには、もっと練習が必要ばい」
「完全に融合?」
「そうばい。今はまだ、わたしの力を借りとるだけやけんね。本当の融合ができれば、もっと強くなれるとよ」
青龍もナギサの肩に乗った。
「私たち四聖獣と巫女が完全に一体化すれば、とてつもない力が出せます」
「一体化……」
ナギサは自分の胸の紋章を見た。
「どうすれば、できるんですか?」
「訓練です。何度も何度も、一緒に戦って、お互いを理解する」
青龍の声が静かだった。
「それしか、方法はありません」
白虎がムツミの肩に飛び乗った。
「ムツミ、お前はまだ俺の力の三割も使えてないぞ」
「三割!?」
ムツミは驚いた。
「まだそんなに残ってるの!?」
「ああ。お前が本気で俺と一体化すれば、今の三倍は強くなれる」
「三倍……頑張る」
ムツミは拳を握った。
玄武がユカリの肩に乗った。
亀と蛇、両方が小さくなってユカリの肩に座っている。
「ユカリ、お前はまだ俺たちの力を怖がっている」
「こ、怖がってなんか——」
「怖がっているぞ」
蛇が言った。
「俺たちの力は、土と大地の力だ。重く、どっしりとしている。お前は、それを受け止めきれていない」
ユカリは俯いた。
「……す、すみません」
「謝るな、ただ慣れればいい。俺たちと一緒に、訓練すればいい」
「は、はい」
葛葉が手を叩いた。
「では、始めるぞ。まずは、ミユキから」
「はい」
ミユキは訓練場の中央に立った。
朱雀が空中に飛び上がる。
「ミユキ、わたしの力を引き出してみんしゃい」
「わかった」
ミユキは両手を前に出した。炎を灯す。青い炎が、手のひらに浮かんだ。
「《蒼炎・朱雀》——!」
炎が、朱雀の形を成した。赤と青が混ざった炎の鳥が、空中を飛ぶ。
でも、炎の朱雀はすぐに形が崩れた。
炎が散って、消えた。
「——っ」ミユキは歯を食いしばった。
「まだ、維持できない」
「焦るなや、焦るなや」
朱雀がミユキの肩に戻った。
「今のは、わたしの力を二割くらいしか使えとらん。もっと霊力を集中させんと」
「二割……」
ミユキは拳を握った。
「もっと、練習しないと」
次は、ナギサの番だった。
ナギサは訓練場の中央に立ち、青龍が空中に浮かんだ。
「ナギサ、私の力を感じてください」
「はい」
ナギサは目を閉じた。
青龍との繋がりを感じる。水の霊力が、流れてくる。
「《水刃・青龍》——!」
ナギサの手から、水の龍が現れた。
青く輝く龍が、空中を泳ぐ。
でも、すぐに龍の形が乱れた。水が散って、地面に落ちる。
「……まだ、制御が甘いです」
ナギサは息を吐いた。
「そうですね」
青龍が頷いた。
「でも、さっきより少し良くなりました。このまま練習を続けましょう」
ムツミの番。
ムツミは訓練場の中央に立ち、白虎が空中に跳んだ。
「ムツミ、俺の力を全部引き出してみろ」
「全部!? 無理よ——」
「やってみろ。できなくてもいい」
ムツミは深呼吸をした。それから、両手を前に出す。
「《風刃・白虎》——!」
風が集まり、白虎の形を成そうとした。でも、形が定まらない。風が乱れて、消えた。
「……やっぱり、無理」ムツミは肩を落とした。
「当たり前だ」白虎が笑った。「一週間で完璧にできたら、天才だぞ」
最後は、ユカリの番。
ユカリは緊張しながら訓練場の中央に立った。
玄武が地面に降り立つ。
「ユカリ、俺たちの力を使ってみろ」
「は、はい」
ユカリは手を地面に向けた。
土の霊力を集める。
「《土壁・玄武》——!」
地面から、土の壁が立ち上がった。でも、壁は小さく、すぐに崩れた。
「……や、やっぱり、ダメです」
ユカリは涙目になった。
「ダメじゃない」亀が言った。「さっきより、少し大きくなった」
「そ、そうですか?」
「ああ。少しずつ、成長している」
訓練が終わって、六人は休憩を取った。
木陰に座って、お茶を飲む。
「みんな、まだ聖獣の力を完全には使えてないのう」
葛葉が言った。
「そうね」
ミユキが頷いた。
「でも、少しずつ慣れてきた気がするわ」
「そうです」ナギサも頷いた。
「青龍様の力、最初より扱いやすくなりました」
「あたしも」
ムツミが笑った。
「白虎の力、すごく強いけど、楽しい」
ユカリは、玄武を見た。
小さな亀と蛇が、ユカリの膝の上にいた。
「げ、玄武様」
「なんだ」
「わ、私、ちゃんと強くなれますか?」
「なれる」
亀が答えた。
「お前は、強くなれる」
「俺たちが、鍛えてやる」蛇も言った。
ユカリは、少し安心した。
「……あ、ありがとうございます」
玄弥が、立ち上がった。
「そろそろ、戻るか」
「そうじゃのう」
葛葉も立ち上がった。
「今日は、ここまでじゃ」
六人は、炎下家の屋敷に戻った。
大広間で、炎下家当主が待っていた。
「お疲れ様です」
玄弥が頭を下げた。
「うむ」炎下家当主頷いた。
「訓練は、どうだった?」
「まだまだですが、少しずつ慣れてきました」
「そうか」
炎下家当主は、六人を見回した。
「実は、話がある」
「話?」
「ああ」の表情が、真剣になった。「各地で、妖怪の目撃情報が増えている」
玄弥の表情が、変わった。
「妖怪の目撃情報?」
「そうだ。ここ一週間で、全国各地から報告が上がっている」焰一郎は続けた。
「特に、強い妖怪の気配が感じられるそうだ」
「強い妖怪……」
葛葉が、口を開いた。
「……まさか」
「葛葉さん?」
「妖怪の王の、復活が近いのかもしれんのう」
その言葉に、全員が固まった。
炎下家当主は頷いた。
「おそらく、そうだろう」
「でも、まだ一年経ってませんよ」
玄弥が言った。
「鵺が言ってたのは、一年以内に復活するって」
「ああ。でも、一年以内ということは、もっと早く復活する可能性もあるということだ」
ミユキが、拳を握った。
「つまり、もうすぐ王が復活する?」
「その可能性が高い」炎下家当主は続けた。
「だから、お前たちには準備をしてもらいたい」
「準備?」
「ああ。いつ王が復活してもいいように、訓練を続けてくれ」
玄弥は、四人の巫女を見た。
みんな、緊張した顔をしていた。
「……わかりました」玄弥は頷いた。
「訓練を続けます」
「頼む」
その夜。
玄弥は、自分の部屋で窓の外を見ていた。月が、綺麗に出ていた。
——妖怪の王の復活が、近い。
——でも、俺たちはまだ聖獣の力を完全には使えていない。
葛葉が、部屋に入ってきた。
「玄弥」
「葛葉」
「考え事か」
「ああ」
葛葉は、玄弥の隣に来た。
「不安か」
「……少し」玄弥は正直に答えた。
「王がどれだけ強いのか、わからない」
「強いじゃろうな」葛葉は頷いた。
「鵺が、あそこまで王を恐れていた。相当な力を持っているはずじゃ」
「……そうだな」
玄弥は、霊装の刀を見た。
——俺も、もっと強くならないと。
翌日。
玄弥は学校に行った。久しぶりの学校だった。
(いつぶりだ?)
教室に入ると、クラスメイトたちが普通に過ごしていた。
勉強したり、話したり、笑ったり。平和な日常が、そこにあった。
——この平和を、守らないと。
玄弥は、そう思った。
昼休み。
玄弥は、屋上でミユキ、ナギサと一緒に弁当を食べていた。
「久しぶりの学校ね」ミユキが言った。
「そうだな」
「でも、なんか不思議な感じ」ナギサも言った。
「そうね」ミユキは空を見上げた。
「みんな、何も変わってない」
「……そうだな」
三人は、しばらく黙って弁当を食べた。
風が、気持ちよく吹いていた。
その時、玄弥の携帯が鳴った。
葛葉からだった。
玄弥は、電話に出た。
「もしもし」
「玄弥、すぐに来るのじゃ」葛葉の声が、緊迫していた。
「どうした」
「東京に、強い妖怪の気配が現れた」
玄弥の表情が、変わった。
「東京に?」
「そうじゃ。炎下家に来るのじゃ。すぐに」
「わかった」
玄弥は、電話を切った。
ミユキとナギサを見た。
「行くぞ」
「わかった」
三人は、学校を出た。
炎下家に向かって、走った。
何かが、始まろうとしていた。
妖怪の王の復活に向けて。
確実に、何かが動き始めていた。




