聖獣 玄武2
ユカリは、拳を握った。
――資格がない。
――そう言われた。
でも、ユカリは諦めなかった。
「……わ、私には、資格があります」
「何?」
「わ、私は、げ、玄武様の器です」
ユカリは、真っ直ぐ蛇を見た。
「け、契約を結ぶために、こ、ここに来ました」
「器だと?」
蛇は、ユカリを見た。
「お前が、土雲の巫女か」
「は、はい」
「……弱そうだな」
「ぐ、弱いです」
ユカリは認めた。
「わ、私は、弱いです。で、でも——」
ユカリは続けた。
「で、でも、強くなりたいです。げ、玄武様と一緒に、戦いたいです」
「戦いたい?」
「は、はい。わ、私は、今まで逃げてばかりでした。よ、妖怪が怖くて、戦えませんでした」
ユカリの目から、涙が溢れた。
「で、でも、みんながいてくれました。に、西園寺さんも、ミユキさんも、ナギサさんも、ムツミさんも、葛葉さんも」
「……」
「み、みんなが、私を助けてくれました。だ、だから、私も強くなりたいです。み、みんなを守りたいです」
ユカリは、玄武の甲羅に手を置いた。
「げ、玄武様。お、お願いします。わ、私と、契約してください」
蛇は、しばらくユカリを見ていた。
それから。
「……お前、本気か」
「ほ、本気です」
「本当に、玄武と戦うのか」
「は、はい」
ユカリは頷いた。
「わ、私、頑張ります」
蛇は、少し黙った。
それから。
「……玄武」蛇が、亀に呼びかけた。「起きろ」
亀が、ゆっくりと目を開けた。
金色の目が、ユカリを見た。
「……誰だ」
低い声が、響いた。亀の声だった。
「土雲の巫女だ」
蛇が答えた。
「契約を結びに来た」
「契約……」
亀は、ユカリを見た。
じっと、見つめた。
「……お前、泣いているのか」
「な、泣いてません」
ユカリは涙を拭った。
「な、泣いてなんか——」
「嘘をつくな」
亀の声は、優しかった。
「涙が、出ているではないか」
ユカリは、また涙が溢れた。
「……す、すみません」
「謝る必要はない」
亀は、ゆっくりと立ち上がった。
そしてユカリの前に、立った。
「お前、名前は」
「つ、土雲ユカリです」
「ユカリか」
亀は、ユカリの頭に顔を近づけた。
「なぜ、泣いている」
「わ、私……」
ユカリは、言葉に詰まった。
「わ、私、弱いです。だ、だから、げ、玄武様を起こせないんじゃないかって、ふ、不安で——」
「弱くない」
亀の声が、響いた。
「え?」
「お前は、弱くない」
亀は続けた。
「ここまで来たではないか。俺の精神世界に、一人で入ってきた」
「で、でも——」
「それは、強い証拠だ」
亀は、ユカリの涙を拭った。
優しく。
「お前は、強い。だから、泣くな」
ユカリは、亀を見た。
金色の目が、優しく自分を見ていた。
「……げ、玄武様」
「ああ」
「わ、私と、け、契約してくれますか」
亀は、少し黙った。
それから。
「……ああ」
頷いた。
「契約しよう、土雲ユカリ」
ユカリの目が、輝いた。
「ほ、本当ですか——!」
「本当だ」
亀は続けた。
「お前の覚悟、確かに受け取った」
蛇も、ユカリを見た。
「しゃーないか俺も、認めよう」
蛇の声が、柔らかくなった。
「まぁお前なら、玄武の器に相応しい」
「……あ、ありがとうございます」
ユカリは、涙を流しながら笑った。
亀と蛇の身体が、光り始めた。
「では、契約を結ぼう」
亀の声が響いた。
光が、ユカリを包んだ。温かい光が。
ユカリの意識が、現実世界に戻っていく。
光の中で、玄武の声が聞こえた。
「これから、よろしく頼む、ユカリ」
「は、はい——!」
次の瞬間、ユカリは現実世界に戻っていた。
洞窟の中、玄武の前に立っていた。
みんなが、ユカリを見ていた。
「ユカリ——!」
ムツミが駆け寄った。
「大丈夫——!?」
「だ、大丈夫です」
ユカリは笑った。
「げ、玄武様が、起きます」
その瞬間、玄武が動いた。
巨大な身体が、ゆっくりと動いた。
玄武が、目を開け金色の目が、ユカリを見た。
「……久しぶりだな」
低い声が、洞窟に響いた。
「人間と話すのは」
玄武の身体が、光り始めた。
黒い光が、玄武を包んだ。
光が、ユカリに向かって流れていく。
ユカリの身体に入っていく。
胸の中心に、流れ込んでいく。
ユカリの身体が、重くなった。
でも、安心する重さだった。大地のような、どっしりとした重さだった。
光が、消え玄武の姿も、消えた。
ユカリの胸に、黒い紋章が浮かんでいた。
玄武の紋章が。
「……契約、完了じゃ」
葛葉が、満足そうに言った。
「よくやったのう、ユカリ」
ユカリは、自分の胸を見た。
紋章が、静かに輝いていた。
「……げ、玄武様がいる私の中に」
玄弥が、駆け寄った。
「お疲れ様、ユカリ」
「あ、ありがとうございます」
ユカリは、笑った。
「や、やりました」
ミユキ、ナギサ、ムツミも駆け寄ってきた。
「すごかったわよ、ユカリ」
「本当に、よく頑張りましたね」
「ユカリちゃん、かっこよかった——!」
ユカリは、みんなを見た。
それから、涙が溢れた。嬉し涙が。
「……あ、ありがとうございます。み、みなさん」
朱雀、青龍、白虎が、ユカリの周りに集まった。
「お疲れさまばい、ユカリ」
朱雀が言った。
「よくやりました」
青龍も頷いた。
「玄武を起こすなんて、すごいぞ」
白虎も尾を揺らした。
ユカリの胸の紋章が、光った。
そして、小さな玄武が顕在化した。
手のひらサイズの、小さな亀と蛇が。
「……よくやったな、ユカリ」
亀の声が、優しかった。
「あ、ありがとうございます、げ、玄武様」
「これから、よろしく頼む」
「お前は、強くなれる」
蛇も言った。
「俺たちが、鍛えてやる」
ユカリは、玄武を見た。
涙が、また溢れた。
「……は、はい——! よ、よろしくお願いします——!」
四体の聖獣が、並んだ。
朱雀、青龍、白虎、玄武。
四聖獣が、全て揃った。
玄弥は、四人の巫女を見た。
ミユキ、ナギサ、ムツミ、ユカリ。
四人とも、胸に紋章を刻んでいた。
「……やったな、みんな」
玄弥は、笑った。
「四聖獣、全員と契約できた」
葛葉も、満足そうに頷いた。
「うむ。これで、準備は整ったのじゃ」
「準備?」
「そうじゃ。妖怪の王と戦う、準備が」
六人と四体の聖獣は、洞窟を出た。
外は、夕日が沈みかけていた。
空が、オレンジ色に染まっていた。




