表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
四聖獣編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

195/207

聖獣 玄武1


 ユカリは、玄武の前に立っていた。

 巨大な亀が、静かに眠っている。

「……げ、玄武様」ユカリは、もう一度呼びかけた。「お、起きてください」

 でも、玄武は目を覚まさなかった。

静かに眠り続けている。

呼吸をしているのかすらわからないほど、静かに。


 ムツミが、ユカリの隣に来た。

「起きないね」

「は、はい」ユカリは不安そうに玄武を見た。

 ミユキも近づいてきた。「もっと大きな声で呼んでみたら?」

「そ、そうですね」ユカリは深呼吸をして、大きな声を出した。「げ、玄武様——! お、起きてください——!」


 ユカリの声が、洞窟の中に響いた。

 でも、玄武は目を覚まさなかった。

 ピクリとも動かない。

「……ダメです」ユカリは肩を落とした。


 玄弥が、玄武に近づいた。

 甲羅を、手で叩いてみた。コンコンと。

「玄武」玄弥は呼びかけた。「起きろ」

 でも、反応がない。玄弥はもっと強く叩いた。ドンドンと。それでも、玄武は起きなかった。


 ナギサも試した。

 水を玄武の顔にかけてみる。「《水》——」冷たい水が、玄武の顔を濡らした。でも、玄武は目を覚まさなかった。

 ミユキが、炎を出した。「熱ければ起きるかしら」

「や、やめてください——!」

 ユカリが慌てた。

「げ、玄武様が、や、火傷します——!」


「冗談よ、冗談」ミユキは炎を消した。「本当にやるわけないでしょ」


 葛葉が、玄武を見た。

「……深い眠りじゃのう」

「そうね」

 ムツミも頷いた。

「どうすれば起きるんだろう」


 朱雀が、ミユキの肩から飛んで玄武の甲羅に降り立った。

「玄武——! 起きんしゃい——!」

朱雀は甲羅の上で跳ねた。

「いつまで寝とるとね——!」


 でも、玄武は起きなかった。

 朱雀がどれだけ跳ねても、叫んでも、反応がない。


 青龍も、玄武の近くに飛んできた。

「玄武、起きてください」

青龍の声が、静かに響いた。

 でも、玄武は目を覚まさなかった。

 白虎も、玄武の甲羅に飛び乗った。


「おい、玄武」

 白虎は甲羅を爪で引っ掻いた。

 「いい加減起きろ」

 でも、玄武は起きなかった。


 三体の聖獣が、顔を見合わせた。

「……困ったばい」朱雀が呟いた。

「どうしましょう」青龍も困った顔をした。

「こいつ、本当に深く眠ってるな」白虎も尾を揺らした。


 葛葉が、三体の聖獣を見た。

「お主ら、玄武を起こす方法を知らんのか」

「知らんとよ」

 朱雀が首を横に振った。

「玄武が寝たら、起きるまで待つしかなかけん」

「待つ? どれくらい?」


「数十年」青龍が答えた。

「数十年——!?」


 ムツミが驚いた。

「そ、そんなに待てないわよ——!」


 玄弥が、腕を組んだ。

「他に方法はないのか」

「……一つだけ、あるかもしれん」

 葛葉が口を開いた。

「一つ?」

「そうじゃ。精神に干渉するのじゃ」


「精神に干渉?」

ナギサが聞いた。

「そうじゃ。玄武の精神世界に入って、直接起こすのじゃ」

 葛葉は続けた。

「玄武は、身体は眠っておるが、精神はまだ活動しておるはずじゃ。その精神に干渉して、起こすのじゃ」


「でも、どうやって精神世界に入るんですか」

ミユキが聞いた。

「巫女が、入るのじゃ」

葛葉はユカリを見た。

「ユカリ、お主が玄武の精神世界に入るのじゃ」


「わ、私が?」ユカリは驚いた。

「そうじゃ。お主は玄武の器じゃ。玄武との繋がりがある。その繋がりを辿れば、精神世界に入れるはずじゃ」


 ユカリは、玄武を見た。

 巨大な亀が、静かに眠っている。

 あの玄武の精神世界に、入る。

「……わ、わかりました」ユカリは頷いた。「や、やってみます」

「大丈夫か」玄弥がユカリを見た。

「だ、大丈夫です」ユカリは笑った。「わ、私が、げ、玄武様を起こします」


 葛葉が、ユカリの背中に手を当てた。

「では、始めるのじゃ。ユカリ、目を閉じて玄武との繋がりを感じるのじゃ」

「は、はい」

 ユカリは目を閉じた。

 玄武との繋がりを感じる。

 さっき感じた、微かな繋がりを。


 繋がりが、見えてきた。

 細い糸のような繋がりが、ユカリと玄武を結んでいる。

「……か、感じます」

「よし。その繋がりを辿るのじゃ。

 玄武の精神に向かって、自分の意識を送るのじゃ」

「は、はい」


 ユカリは、意識を繋がりに沿って送った。

 玄武に向かって。玄武の精神に向かって。

 意識が、吸い込まれていく。

 視界が、真っ暗になった。


 次の瞬間、ユカリは違う場所にいた。

 暗い場所だった。

 どこまでも続く、暗闇の中。

 足元は、水のような何かが広がっていた。踏むと波紋が広がる。


「……こ、ここが、げ、玄武様の精神世界?」

 ユカリは、周りを見回した。誰もいない。

 何もない。ただ、暗闇だけが広がっていた。


 ユカリは、歩き始めた。

 どこに行けばいいのかわからなかったが、とにかく前に進んだ。足元の水が、波紋を作る。


 しばらく歩くと、光が見えてきた。

 遠くに、小さな光が。

 ユカリは、その光に向かって走った。


 光が、だんだん大きくなっていく。

 近づいていくと、光の中に何かが見えた。


 玄武だった。


 でも、現実世界で見た巨大な玄武ではなかった。

 人間くらいの大きさの、小さな亀だった。

 甲羅の上には、小さな蛇が巻きついている。


 玄武は、丸くなって眠っていた。

 静かに、穏やかに。


「……げ、玄武様」

 ユカリは、玄武に近づいた。

 手を伸ばして、玄武の甲羅に触れる。

「お、起きてください」


 でも、玄武は目を覚まさなかった。


 ユカリは、もっと強く揺さぶった。

「げ、玄武様——! お、起きてください——!」

 でも、玄武は起きない。


 ユカリは、困った。

 ——ど、どうすれば。

 ――ここまで来たのに、起きてくれない。


 その時、玄武の甲羅の上の蛇が、目を開けた。


「……うるさい」

 蛇の声が、低く響いた。

「誰だ、お前は」


 ユカリは、驚いた。

「あ、あなたは?」


「俺は、玄武の一部だ」

 蛇が答えた。

 「蛇の部分だ」 


「へ、蛇の部分?」

「そうだ。玄武は、亀と蛇が合わさった存在だ。俺は、蛇の方だ」


 蛇は、ユカリを見た。

「それで、お前は誰だ」

「わ、私は、土雲ユカリです。げ、玄武様を起こしに来ました」

「起こしに来た?」

蛇は、首を傾げた。

「なぜだ?」

「け、契約を結ぶためです」


 蛇は、少し黙った。

 それから。

「……契約か」

 蛇の声が、冷たくなった。

「また、契約か」

「え?」

「俺たちは、もう契約を結ばない」


「で、でも——」

「人間は、俺たちを裏切った」

蛇の目が、鋭くなった。

「契約を破棄して、俺たちを見捨てた」

「そ、それは——」

「だから、もう人間は信用しない」

蛇は、玄武の甲羅に頭を戻した。


「帰れ」

 ユカリは、焦った。

「ま、待ってください——」

「帰れ」

蛇の声が、響いた。

「お前には、玄武を起こす資格はない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ