風の聖獣 白虎との契約その3
白虎の周りに、風が激しく巻き起こった。
今までで、一番強い風が。
竜巻が、白虎を中心に発生した。
「これが、俺の全力だ」
白虎の声が、竜巻の中から響いた。
「受け止められるか、風木ムツミ」
ムツミは構えた。
風を、全身に纏った。
残った霊力を、全て風に込めた。
「……受け止めてみせる」
ムツミは、呟いた。
「あたしの全てで」
白虎が動いた。
竜巻と共に、ムツミに向かった。
巨大な竜巻が、ムツミに迫った。
全てを飲み込む勢いで。
ムツミは両手を前に出した。
風を、放った。
「《風壁》——!」
風の壁が、展開した。
でも。
白虎の竜巻が、強すぎた。
壁が、軋んだ。
ひびが、入った。
「——っ」
ムツミは、必死に風を維持した。
でも、霊力が足りない。
壁が、砕けた。
竜巻が、ムツミを飲み込んだ。
「ムツミ——!」
玄弥が、駆け出そうとした。
でも、葛葉が玄弥を止めた。
「待て」
「でも——」
「まだじゃ」
葛葉の目が、真剣だった。
「ムツミは、まだ諦めておらん」
竜巻の中、ムツミは風に翻弄されていた。
身体が回転し、方向感覚が失われた。
上下がわからなくなる。
でも——。
ムツミは、目を閉じた。
風を、感じた。
——風の流れを、感じろ。
葛葉が、百年前に言った言葉を思い出す。
——風は、感じるものじゃ。
ムツミは、風の流れを感じた。
竜巻の中心が、どこにあるか。
風が、どこから来て、どこに行くのか。
わかった。
ムツミは、風の流れに身を任せた。
抗わずに流れに乗った。
すると、竜巻の中心に辿り着いた。
そこは、静かだった。
風が、止まっていた。
白虎が、そこにいた。竜巻の中心に。
「……よく来たな」
白虎の声が、静かだった。
「ここまで来れるとは」
ムツミは、白虎を見た。
息が荒く、霊力がほとんど残っていなかった。
全身が傷だらけで、立っているのがやっとだった。
でも——。
「……まだよ」
ムツミは、風を集めた。
最後の風を。
「《風刃》——」
小さな風刃が、形成された。
今までで、一番小さな風刃。
でも、その刃は鋭かった。
百年の修行の全てが、込められていた。
ムツミは、その風刃を白虎に向けた。
でも、放たなかった。
白虎を、じっと見た。
「白虎様」
「なんだ」
「あたしは、あなたと契約したい」
「……」
「道具としてじゃない。仲間として」
ムツミは続けた。
「あたしは、百年修行した」
「……」
「強くなった。でも、それでもあなたには勝てない」
「そうだな」
「でも、だからこそ」
ムツミは、笑った。
「あなたと一緒に戦いたい」
白虎は、ムツミを見た。
その目が、優しくなった。
「……お前、面白い奴だな」
「そう?」
「ああ」
白虎は、少し笑った。
「俺より強い相手と戦いたいって言うのか」
「そうよ」
ムツミは、頷いた。
「あたし一人じゃ勝てない相手と、あなたとなら戦える」
「……」
「だから、一緒に戦って」
白虎は、少し黙った。
それから、竜巻が止まった。
風が静かになる。
二人は、地面に降り立った。
みんなの前に。
白虎は、ムツミに頭を下げた。
「風木ムツミ」
「はい」
「お前の覚悟、確かに受け取った」
「……」
「俺と、契約を結ぶか」
ムツミは、涙が出そうになった。
でも、笑顔で答えた。
「はい」
ムツミは、頷いた。
「喜んで」
白虎の身体が、光る。
そして白い光が、ムツミを包んだ。
光が、ムツミの身体に入っていく。
胸の中心に、流れ込んでいく。
ムツミの身体が、軽くなった。
風に包まれているような感覚だった。
心地よかった。
光が、消え白虎の姿も、消えた。
ムツミの胸に、白い紋章が浮かんでいた。
白虎の紋章が。
「……契約、完了じゃ」
葛葉が、満足そうに言った。
「よくやったのう、ムツミ」
ムツミは、自分の胸を見た。
紋章が、静かに輝いていた。
「……白虎様が、いる」
ムツミは、呟いた。
「私の中に」
玄弥が、駆け寄った。
「お疲れ様、ムツミ」
「ありがとう、西園寺」
ムツミは、笑った。
「やったよ、あたし」
ミユキとナギサも、駆け寄ってきた。
「すごかったわよ、ムツミ」
「本当に、すごかったです」
ユカリも、駆け寄った。
「む、ムツミさん、か、かっこよかったです」
「ありがとう、みんな」
ムツミは、その場に座り込んだ。
力が、抜けた。
でも、心が満たされていた。
朱雀と青龍が、ムツミの肩に降りてきた。
「お疲れさまばい、ムツミ」
朱雀が言った。
「よう頑張ったね」
「よくやりました」
青龍も、頷いた。
「白虎も、あなたを認めました」
ムツミの胸の紋章が、光った。
そして、小さな白虎が顕在化した。
手のひらサイズの白い虎が、ムツミの膝の上に座った。
「……よくやったな、ムツミ」
白虎の声が、優しかった。
「お前は、強い」
ムツミは、白虎を見た。
涙が、溢れた。
「……ありがとう、白虎様」
「礼はいらない」
白虎は、ムツミの手に頭を擦り付けた。
「俺たちは、もう仲間だ」
ムツミは、白虎を優しく抱きしめた。
白虎も、嫌がらず、されるがままだった。
「これから、よろしくな」
「はい」
ムツミは、笑った。
「よろしくお願いします」
三体の式神が、並んだ。
朱雀、青龍、白虎。
残りは、一体。
玄武だけ。
玄弥は、ユカリを見た。
「次は、玄武だ」
「は、はい」
ユカリは、少し緊張した。
「わ、私も、が、頑張ります」
白虎が、ユカリを見た。
「玄武は、ちょっと変わってるぞ」
「へ、変わってる?」
「ああ。寝てばっかりだからな」
白虎は、笑った。
「起こすの、大変だぞ」
「で、でも、や、優しいんですよね」
「ああ、優しい」
白虎は、頷いた。
「無口だけど、優しい奴だ」
ユカリは、少し安心した。
「わ、わかりました」
六人は、立ち上がった。
三体の式神を連れて。
次は、玄武。
最後の聖獣。
玄弥は、前を向いた。
「行こう」
「うむ」
六人と三体の式神は、山を降りた。
玄武を探すために。




