炎の聖獣
阿蘇山に到着した。
六人は、山の麓に立っていた。
巨大な火山が、目の前にそびえていた。
「……いやでかいな」
玄弥が、呟いた。
「ああ」
ムツミも、頷いた。
「私たちあの頂上まで、登るの?」
葛葉が、山を見上げた。
「そうじゃ」
「かなりきついわね」
ミユキも、山を見た。
「でも、やるしかない」
六人は、登山を始めた。
山道を、ゆっくりと登った。
最初は、普通の山道だった。
木々が生い茂り、鳥の声が聞こえた。
でも高度が上がるにつれて、景色が変わってきた。
木々が少なくなり、地面が黒くなってきた。
そして火山灰が、積もっていた。
さらに登ると、熱が感じられるようになった。
地面から、熱気が立ち上っていた。
「……臭いし暑い‥」
ナギサが、額の汗を拭った。
「はい」
ユカリも、暑そうだった。
「あ、暑いです‥」
ミユキは、平気そうだった。
炎の使い手だからか、熱には強かった。
「皆に一応熱とか毒ガスとかを遮断する結界を張っているからな、それでも暑いな」
「もう少しだ」
さらに登った。
火口が、近づいてきた。
硫黄の匂いが、強くなった。
そして頂上に、着いた。
火口が、広がっていた。
巨大な火口が。
中には、真っ赤な溶岩が煮えたぎっていた。
「……すごい」
ムツミが、息を呑んだ。
「初めて見た、火口」
ミユキは、火口を見つめた。
その目は真剣だった。
「……ここに、朱雀がいる」
葛葉が、頷いた。
「そうじゃ。感じるのう」
「ええ」
ミユキも、頷いた。
「すごく強い気配を」
その時、火口の溶岩が動いた。
大きく揺れた。
そして溶岩の中から、巨大な炎が、溶岩から立ち上った。
そして、形を成していった。
巨大な鳥の形に。
赤い羽根、金色の目、長い尾羽。
——朱雀だ。
朱雀が、六人を見下ろした。
「……人間か」
低い声が響いた。
「久しぶりだな」
ミユキが、前に出た。
「朱雀様」
「……お前は」
朱雀の目が、ミユキを見た。
「炎下の巫女か」
「はい」
朱雀は、ミユキをじっと見た。
それから。
「なぜ、ここに来た」
「契約を結びに来ました」
「契約?」
「はい」
ミユキは、真っ直ぐに朱雀を見た。
「あなたと、もう一度契約を」
朱雀は、淡々と告げる。
「……契約は、破棄された」
「知っています」
「四家が、我らを見捨てた」
「知っています」
ミユキは続けた。
「でも、今は違います」
「何が違う」
「私たちは、あなたの力を必要としています」
朱雀の目が、鋭くなった。
「力が必要? それだけか」
「……」
「我らを、ただの道具として使いたいだけではないのか」
ミユキは、首を横に振った。
「違います」
「何が違う」
「私たちは、あなたと共に戦いたいんです」
ミユキは、真剣な顔で言った。
「道具としてではなく、仲間として」
朱雀は、少し驚いた顔をした。
「……仲間?」
「はい」
「人間と聖獣が、仲間だと?」
「そうです」
「……なら、証明してみせろ」
「証明?」
「そうだ。お前が、我と仲間になる資格があるか、試してやる」
朱雀の身体から、炎が溢れ出した。
火口全体に、炎が広がった。
「これより、試練を与える」
朱雀の声が、響いた。
「この試練を乗り越えられたら、契約を結んでやろう」
ミユキは、構えた。
「わかりました」
朱雀の炎が、ミユキに向かった。
赤い炎が、襲いかかった。
「《蒼炎壁》——」
ミユキは青い炎の壁で赤い炎を防いだ。
しかし朱雀の炎が、強すぎた。
壁が揺らいだ。
「——っ」
ミユキは、必死に壁を維持した。
でも朱雀の炎が、壁を突き破りそうになった。
「ミユキ——」
玄弥が、前に出ようとした。
だが、葛葉が玄弥を止めた。
「待て」
「でも——」
「これは、ミユキの試練じゃ」
「手を出してはならん」
玄弥は、歯を食いしばった。
葛葉の言う通りだった。
ミユキは、一人で戦わなければならない。
朱雀の炎が、さらに強くなった。
ミユキの壁が、砕けた。
「——っ」
ミユキが吹き飛ぶ。
地面に、倒れた。
「ミユキ——」
ナギサが叫んだ。
「っ‥」
ミユキは、立ち上がる。
身体が少し焼けている。
でも、まだ戦える。
「……まだよ」
ミユキは、炎を出した。
「《蒼炎刃》——」
青い炎の刃が朱雀に向かった。
朱雀は、炎の刃を羽で弾く。
「弱い」
朱雀の声が、冷たかった。
「その程度では、我の足元にも及ばん」
ミユキは、歯を食いしばった。
——朱雀の炎が、強すぎる。
——私の炎じゃ、勝てない。
朱雀が、また炎を放った。
さらに強い炎を。
ミユキは、避けようとした。
でも、速すぎて避けられない。
その瞬間。
ミユキの中で、何かが弾けた。
——負けられない。
——ここで負けたら、みんなを守れない。
ミユキは、両手を前に出した。
全ての霊力を、炎に込めた。
「《蒼炎・極》——」
青い炎が爆発した。
今までで、一番強い炎が朱雀の炎に、ぶつかった。
二つの炎が、衝突して混ざり合った。
激しく、ぶつかり合った。
ミユキは、必死に炎を維持した。
霊力が、どんどん削れていく。
でも。
負けられない。
「——っ」
ミユキの炎が、朱雀の炎を押し返した。
少しずつ。
でも、確実に。
朱雀が、少し驚いた顔をした。
「……ほう」
朱雀の炎が、消えた。
ミユキの炎も、消えた。
ミユキは、その場に膝をついた。
霊力はほとんど残っていない。
息が乱れる。
朱雀が、ミユキの前に降りてきた。
大きな翼を畳んだ。
「……見事だ」
朱雀の声が、柔らかくなった。
「お前の炎、確かに感じた」
ミユキは、顔を上げた。
「……ということは」
「ああ」
朱雀は、頷いた。
「お前と、契約を結んでやろう」
ミユキの目が、輝いた。
「……本当ですか」
「本当だ」
朱雀は続けた。
「お前は、我の炎を受け止めた」
「……」
「それは、お前が器として相応しいという証だ」
朱雀は、ミユキに頭を下げた。
「炎下ミユキよ」
「はい」
「我と、契約を結ぶか」
ミユキは、立ち上がった。
足が、震えていた。
でも真っ直ぐに、朱雀を見た。
「はい」
ミユキは、頷いた。
「喜んで」
朱雀の身体が、光った。
赤い光が、ミユキを包んだ。
光が、ミユキの身体に入っていく。
胸の中心に、流れ込んでいく。
ミユキの身体が、熱くなった。
痛くはなかった、ただ温かかった。
光が収束する。
朱雀の姿も消えた。
ミユキの胸に、赤い紋章が浮かんでいた。
朱雀の紋章が。
「……契約、完了じゃ」
葛葉が、満足そうに言った。
「見事じゃったのう、ミユキ」
ミユキは、自分の胸を見た。
紋章が静かに輝いていた。
「……朱雀が、いる」
ミユキは、呟いた。
「私の中に、朱雀がいる」
玄弥が、駆け寄った。
「大丈夫か、ミユキ」
「大丈夫よ」
ミユキは、笑った。
「むしろ、調子いいわ」
ミユキは、手を前に出し炎を出した。
青い炎が、出た。
しかしいつもと違う赤い光が混ざっていた。
「……朱雀の力が、混ざってる」
ミユキは、驚いた。
「すごい」
ナギサが、近づいた。
「おめでとうございます、炎下さん」
「ありがとう」
ムツミも、笑顔だった。
「すごいよ、ミユキさん」
「あんたたちも、頑張りなさいよ」
ミユキは、三人を見た。
「次は、あんたたちの番よ」
ユカリも、小さく笑った。
「が、頑張ります」
六人は、山を降りた。
朱雀との契約が完了した。
残りは、三体。
青龍、白虎、玄武。
玄弥は、空を見上げた。
青い空が、広がっていた。
——次は、青龍だ。




