巫女たちの成長
十年が経った。
ムツミは、風を自在に操れるようになっていた。
手を振るだけで、風刃が飛んだ。
足元に風を纏わせて、速く走れるようになった。
「見て見て、西園寺——」
ムツミが、笑顔で風を飛ばした。
的に当たった、真ん中に。
「当たった——」
ユカリは、まだ震えていた。
でも、十年前よりは、マシになっていた。
土を操れるようになった。
小さな土の盾を、作れるようになった。
「よ、よし」
ユカリが、土の盾を作った。
修行用妖怪の攻撃を盾で、防いだ。
震えながらも、防いだ。
「できた——」
ユカリの目が、輝いた。
「初めて、防げました——」
玄弥が、横に来た。
「よくやった、ユカリさん」
「あ、ありがとうございます」
ユカリは、顔を赤くした。
「で、でも、ま、まだまだです」
「十分だ。十年前とは、全然違う」
三十年が経った。
ミユキは、炎の制御が完璧になっていた。
青い炎を、髪の毛一本ほどの細さにできた。
精密な作業ができるようになった。
「《蒼炎糸》——」
ミユキが、細い炎の糸を作った。
それで、的に文字を書いた。
綺麗に、書けた。
「すごいわね、ミユキさん」
ムツミが、感心した。
「あたしには、まだ無理」
「あんたも、すぐできるわよ」
ミユキは、ムツミを見た。
「風の制御、上手くなってるもの」
ナギサは、水の応用技を習得していた。
水で分身を作れるようになった。
水で武器を作れるようになった。
「《水分身》——」
ナギサの隣に、水でできたナギサが現れた。
本物と、見分けがつかなかった。
「すごい——」
ユカリが、目を輝かせた。
「ナギサさん、すごいです——」
「ありがとうございます」
ナギサは、少し笑った。
「でも、まだ不完全です」
ユカリは、妖怪と戦えるようになっていた。
まだ震えていた。
でも、逃げなくなった。
「《土槍》——」
ユカリが、土の槍を作った。
修行用の妖怪に向かって、飛ばした。
槍が、妖怪を貫いた。
妖怪が消えた。
「や、やった——」
ユカリが、飛び跳ねた。
「初めて、倒せました——」
みんなが、拍手した。
ユカリは、涙を浮かべた。嬉し涙だった。
五十年が経った。
四人は、連携訓練を始めていた。
葛葉が、強い修行用の妖怪を呼び出した。
四人で、協力して倒す訓練だった。
「行くわよ、みんな——」
ミユキが、炎を放った。
「《蒼炎・連弾》——」
連続で炎が飛んだ。
ナギサが、水で守った。
「《水壁》——」
妖怪の反撃を、水の壁で防いだ。
ムツミが、風で攻めた。
「《風刃・乱》——」
無数の風刃が、妖怪を切り裂いた。
ユカリが、止めを刺した。
「《土槍・連》——」
複数の土の槍が、妖怪を貫いた。
妖怪が、消えた。四人の連携で、倒した。
「やった——」
四人が笑顔でハイタッチした。
葛葉が、満足そうに頷いた。
「良い連携じゃ」
「まだまだよ」
ミユキが、答えた。
「もっと、速くできる」
「そうね」
ナギサも、頷いた。
「もっと、精度を上げられます」
ムツミとユカリも、やる気に満ちていた。
「あたしたちも、頑張る——」
「が、頑張ります——」
玄弥は、その様子を葛葉の隣で見ていた。
「みんな、成長したな」
「そうじゃのう」
葛葉は、四人を見た。
「特に、ユカリの成長は目覚ましいのう」
「ああ」
玄弥は、ユカリを見た。
五十年前は、震えてばかりだった。
でも、今は笑顔で、戦っている。
「……よかった」
玄弥は、小さく笑った。
七十年が経った。
四人は、さらに強くなっていた。
個々の技も、連携も。
ある日。
葛葉が、特別な訓練を用意した。
「今日は、玄弥と戦ってもらうのじゃ」
「え——」
四人が、驚いた。
「西園寺と?」
「そうじゃ」
葛葉は、頷いた。
「四人で、玄弥を倒すのじゃ」
玄弥は、刀を構えた。
「手加減はしないぞ」
「望むところよ」
ミユキが、炎を灯した。
戦いが、始まった。
ミユキが、炎を放った。
ナギサが、水で援護した。
ムツミが、風で攪乱した。
ユカリが、土で防御した。
四人の連携が、完璧だった。
玄弥は、刀で炎を弾いた。
水を避けた。
風を切り裂いた。
土の盾を砕いた。
でも四人の攻撃が、止まらない。
次から次へと、来る。
玄弥は、後退した。
初めて、後退した。
「——っ、強くなったな、みんな」
四人が、同時に技を放った。
炎、水、風、土。
四つの技が、同時に玄弥に向かった。
玄弥は、刀に霊力を込めた。
「《紫電》——」
斬撃が、四つの技を切り裂いた。
でも完全には防ぎきれなかった。
炎が、玄弥の肩を掠めた。
「——っ」
玄弥が、膝をついた。
四人が、駆け寄った。
「西園寺、大丈夫——」
「大丈夫だ」
玄弥は笑顔で立ち上がった。
「みんな、すごく強くなったな」
四人が、笑った。
みんな、汗だくだった。
でも、笑顔だった。
九十年が経った。
四人は、もう完璧だった。
個々の技も、連携も、戦い方も。
ある夜。
焚き火を囲んで、六人が座っていた。
「もうすぐ、百年ね」
ミユキが、呟いた。
「長かったような、短かったような」
「そうね」
ナギサも、静かに言った。
「でも、充実してました」
ムツミが、空を見上げた。
「あたし、ここに来て、本当に成長できた」
「私も、です」
ユカリも、頷いた。
「もう、妖怪が怖くないです」
ユカリは、自分の手を見た。
「九十年前は、震えてばかりでした」
「……」
「でも、今は違います」
ユカリは、みんなを見た。
「みなさんのおかげで、強くなれました」
ミユキが、ユカリの肩を抱いた。
「あんた、本当に成長したわよ」
「ありがとうございます」
ナギサも、ユカリの手を握った。
「これからも、一緒です」
「はい」
ムツミも、笑った。
「四人で、四聖獣と契約するんだよね」
「そうじゃ」
葛葉が、答えた。
「現世に戻ったら、四聖獣を探すのじゃ」
玄弥が、立ち上がった。
「あと十年で、百年だ」
「そうね」
「最後まで、全力で行こう」
「うん——」
百年目。
最後の日。
六人は、訓練場に立っていた。
葛葉が、最強の修行用の妖怪を呼び出した。
今までで、一番強い妖怪だった。
「これが、最後の試練じゃ」
葛葉が、言った。
「この妖怪を、倒せたら合格じゃ」
四人が、前に出て構えた。
妖怪が、襲ってきた。
巨大な妖怪が。
四人は、動じなかった。
百年の修行が、四人を変えていた。
「行くわよ、みんな——」
ミユキが、叫んだ。
四人が、同時に動いた。
完璧な連携、完璧なタイミングで。
ミユキの炎が、妖怪を焼いた。
ナギサの水が、妖怪を拘束した。
ムツミの風が、妖怪を切り裂いた。
ユカリの土が、妖怪を貫いた。
四つの技が、重なった。
一つになった。
妖怪が消えた。一瞬で。
沈黙が落ちた。
それから。
葛葉が、拍手した。
「見事じゃ」
四人が、振り返った。
笑顔で涙を浮かべて。
「やった——」
四人が、抱き合った。
百年の修行が、終わった。
玄弥も、笑顔だった。
葛葉も、笑顔だった。
「帰るぞ」
玄弥が、言った。
「現世に」
六人は、結界の中に入った。
葛葉が、術を唱えた。
「《時空転移》——」
光が、六人を包んだ。
視界が、真っ白になった。
次の瞬間。
六人は、炎下家の訓練場にいた。
現世に、戻ってきた。
空が、青かった。
風が、吹いていた。
懐かしい景色だった。
「……戻ってきたのう」
葛葉が、呟いた。
「百年ぶりじゃ」
ミユキが、深呼吸した。
「懐かしい空気」
ナギサも、空を見上げた。
「戻ってきました」
ムツミとユカリは、泣いていた。
嬉し涙を。
「長かった——」
「で、でも、が、頑張りました——」
玄弥が、四人を見た。
「よくやった、みんな」
「ありがとう、西園寺」
四人は、笑顔だった。
百年の修行を終えた、笑顔だった。
強くなった四人とも。
確実に。
そして絆が、深まった。
四人の巫女の、絆が。
葛葉が、前に出た。
「では、次は四聖獣を探すのじゃ」
「はい——」
四人が、頷いた力強く。
新しい戦いが、始まる。
四聖獣との、出会いが。




