四聖獣復活に向けて
」
鵺を倒してから、二週間が経った。
玄弥の傷は、ほぼ治った。
ミユキとナギサも、回復した。
葛葉の尾は、三本まで戻った。
平穏な日々が、戻ってきた。
でも。
誰もが知っていた。
これは、束の間の平和だと。
妖怪の王が、一年以内に復活する。
鵺が最後に残した言葉が、頭から離れなかった。
炎下家の大広間に、人が集まっていた。
四家の当主、焰一郎、水瀬、風木、土雲。
そして、玄弥と葛葉。
ミユキとナギサも、同席していた。
焰一郎が、口を開いた。
「集まってもらったのは他でもない」
四人の当主を見回した。
「妖怪の王への対策を、話し合うためだ」
風木が、腕を組んだ。
「鵺を倒したとはいえ、次は王か」
顎鬚を撫でながら言った。
「厳しい戦いになるな」
土雲も、頷いた。
「わしらの力だけでは、足りんかもしれんのう」
「だからこそ」
水瀬が、静かに言った。
「今日、話し合う必要がある」
葛葉が、前に出た。
「わらわから、提案があるのじゃ」
「提案?」
「うむ」
葛葉は、四人の当主を見た。
「四聖獣を、復活させるのじゃ」
大広間に、静寂が落ちた。
焰一郎が、目を見開いた。
「四聖獣を……復活させる?」
「そうじゃ」
「しかし、四聖獣は契約を破棄されたはずでは」
「破棄されたのは事実じゃ」
葛葉は続けた。
「じゃが、契約を結び直せばいいのじゃ」
風木が、前のめりになった。
「結び直す……それは可能なのか」
「可能じゃ」
葛葉の目が、鋭くなった。
「四聖獣は契約を破棄されたが、消滅したわけではない。どこかにおるはずじゃ」
土雲が、顎鬚を撫でた。
「じゃが、どこにおるかわからんじゃろう」
「わからん」
葛葉は正直に認めた。
「じゃが、探す方法はあるのじゃ」
水瀬が、口を開いた。
「その方法とは」
「四家の巫女を通してじゃ」
葛葉は説明した。
「四聖獣と四家の巫女は、昔契約を結んでおった」
「ええ」
「契約は破棄されたが、巫女の器は聖獣と繋がっておるはずじゃ」
「繋がっている?」
「そうじゃ。完全に断ち切られたわけではない。微かな繋がりが残っておる」
葛葉は続けた。
「その繋がりを辿れば、四聖獣の居場所がわかるはずじゃ」
焰一郎が、腕を組んだ。
「なるほど……確かに理にかなっている」
「うむ」
「ただし」
焰一郎は続けた。
「四家の巫女を集める必要があるな」
「そうじゃ」
玄弥が、口を開いた。
「炎下家の巫女はミユキ、水瀬家の巫女はナギサ」
「ええ」
水瀬が頷いた。
「この二人はすでにここにいる」
玄弥は、風木と土雲を見た。
「風木家と土雲家の巫女は、誰ですか」
風木が、少し黙った。
それから。
「風木家の巫女は、ムツミだ」
「ムツミ?」
「わしの娘じゃ」
風木は続けた。
「じゃが、今は家にはおらん」
玄弥は、固まった。
「……ムツミって、もしかして風木ムツミですか」
「そうじゃ。知っておるのか」
「同じクラスでした」
玄弥は答えた。
「前まで」
「そうか」
風木は、少し困ったように言った。
「ムツミは家を出て、今は姉のところにおる」
「家を出た?」
「うむ。家の掟が厳しいと言ってのう」
風木は頭を掻いた。
「わしとしては、修行をしてほしかったんじゃが」
「今、何をしてるんですか」
「アイドルじゃ」
「……アイドル?」
「そうじゃ。姉がアイドルグループのプロデューサーをしておってのう。そこで活動しておる」
玄弥は、少し呆れた。
「風木家の巫女が、アイドルですか」
「まあ、元気な子じゃからのう」
風木は苦笑した。
「止められんかった」
土雲が、口を開いた。
「土雲家の巫女は、ユカリじゃ」
「ユカリさん?」
「わしの孫娘じゃ」
土雲は続けた。
「じゃが、この子は……」
土雲の表情が、曇った。
「少し、事情があるのじゃ」
「事情?」
「うむ」
土雲は、静かに言った。
「ユカリは、妖怪が怖くてのう」
「怖い?」
「そうじゃ。昔から、妖怪を見ると震えてしまうのじゃ」
土雲は続けた。
「じゃから、術を使うこともできん」
「……」
「本来なら巫女として修行すべきなんじゃが、本人が戦いを嫌がってのう」
土雲は、困ったように頭を掻いた。
「無理強いもできんかった」
焰一郎が、まとめた。
「つまり、四家の巫女は」
指を折った。
「炎下ミユキ、水瀬ナギサはここにいる」
「はい」
「風木ムツミは、家を出てアイドル活動中」
「そうじゃ」
「土雲ユカリは、妖怪が怖くて戦えない」
「……そうじゃ」
沈黙が落ちた。
玄弥が、口を開いた。
「でも、四人揃えないと四聖獣は復活できないんですよね」
「そうじゃ」
葛葉が答えた。
「四家の巫女が器となって、聖獣を制御するのじゃ。一人でも欠けたら、復活はできん」
玄弥は、立ち上がった。
「なら、説得しに行きます」
「説得?」
「ムツミとユカリさんに、協力してもらえるように」
葛葉が、玄弥を見た。
「大変じゃぞ」
「わかってます」
「ムツミは今アイドルで忙しいじゃろう。ユカリは妖怪が怖いと言っておる」
「それでも、行きます」
玄弥の目が、真剣だった。
「妖怪の王を倒すためには、四聖獣が必要なんですよね」
「……そうじゃ」
「なら、やるしかない」
ミユキが、立ち上がった。
「あたしも行く」
「ミユキ?」
「同じ巫女として、説得した方がいいでしょ」
ミユキは、玄弥を見た。
「それに、ムツミは知り合いよ。少しだけど」
ナギサも、立ち上がった。
「私も、行きます」
「ナギサも?」
「はい」
ナギサは、静かに言った。
「四人で協力する必要があるなら、最初から顔を合わせた方がいいです」
葛葉が、笑った。
「みんな、やる気じゃのう」
「当然です」
ミユキが答えた。
「妖怪の王なんて、倒さなきゃいけないんだから」
焰一郎が、頷いた。
「わかった。西園寺くん、頼む」
「はい」
「ムツミとユカリを、説得してくれ」
「必ず」
風木が、玄弥に近づいた。
「ムツミは、今『Lumière Crown』というアイドルグループにおる」
「リュミエールクラウン?」
「そうじゃ。明後日、ライブがあるらしい」
風木は、紙を渡した。
「これが、ライブ会場の住所じゃ」
「ありがとうございます」
(何で知ってるんだろう‥)
土雲も、玄弥に近づいた。
「ユカリは、土雲家におる」
「家に?」
「そうじゃ。最近は、ほとんど家から出んのじゃ」
土雲は、困ったように言った。
「怖がりでのう。無理に連れ出そうとすると、泣いてしまうんじゃ」
「……わかりました」
玄弥は、四人の当主に頭を下げた。
「必ず、二人を説得してきます」
「頼んだぞ」
大広間を出た。
玄弥、葛葉、ミユキ、ナギサの四人で歩いた。
ミユキが、玄弥を見た。
「大丈夫?」
「なにが」
「ムツミ、説得できる?」
「……わからない」
玄弥は正直に答えた。
「でも、やるしかない」
ナギサが、静かに言った。
「ユカリさんは、どうしますか」
「まずはムツミからだ」
玄弥は続けた。
「ムツミを仲間にしてから、ユカリさんを説得する」
「……順番に、ですね」
「そうだ」
葛葉が、玄弥の肩に手を置いた。
「玄弥」
「なんだ」
「無理するなよ」
「無理してない」
「嘘じゃ」
葛葉の目が、優しかった。
「お主は、いつも無理しておる」
玄弥は、少し黙った。
それから。
「……でも、やらなきゃいけない」
「わかっておる」
葛葉は頷いた。
「じゃから、わらわたちがおるのじゃ」
ミユキが、玄弥の反対側に来た。
「あたしたちも、手伝うわよ」
ナギサも、静かに頷いた。
「一緒に、頑張りましょう」
玄弥は、三人を見た。
それから。
「……ありがとう」
小さく、言った。
「みんながいてくれて、助かる」
四人は、歩いた。
炎下家の庭を、並んで歩いた。
空が、青かった。
雲が、流れていた。
平和な、午後だった。
でも。
これから、新しい戦いが始まる。
四聖獣を復活させるための、戦いが。
玄弥は、前を向いた。
まずは、ムツミを説得する。
それから、ユカリを説得する。
四人の巫女を集めて、四聖獣を復活させる。
妖怪の王に備えるために。




