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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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IF-葛葉と一緒に

※この話はIF回です。本編とは関係のない、もしもの世界のお話です。


 夕方近く。

 太陽が、少し傾いてきた。

 海の色が、オレンジ色に染まり始めていた。


 葛葉は、海を見ていた。

 パラソルの下からじっと海を見ていた。

「……綺麗じゃのう」

 呟いた。

「夕方の海も」


 玄弥が、隣に来た。

「まだ泳ぎたいか」

「泳ぎたいのじゃ」

 葛葉は、玄弥を見た。

「一緒に泳がんか」

「……まあ、いいけど」

「本当か」

「本当だ」


 葛葉は、立ち上がった。

 玄弥も、立ち上がった。


 母に声をかけた。

「ちょっと泳いでくる」

「気をつけてね。あまり遠くまで行かないで」

「わかった」


 二人は、海に入った。

 波が、足に触れ冷たかった。

 でも、気持ちよかった。


 葛葉は、どんどん深いところに行った。

 腰まで、水に浸かった。

「玄弥、来るのじゃ」

「わかってる」


 玄弥も、葛葉の隣まで来た。

 波が、二人の身体を揺らした。


 葛葉は、海に浮かんだ。

 背泳ぎの形で、ぷかぷかと浮いた。

「……気持ちいいのう」

「そうだな」

 玄弥も、浮かんだ。


 空が、見えた。

 夕焼けの空が、広がっていた。

 オレンジ色と、ピンク色が混ざった空が、綺麗だった。


「玄弥」

「なんだ」

「海は、本当に良いのう」

「気に入ったか」

「気に入ったのじゃ」

 葛葉は、静かに続けた。

「わらわ、海が大好きになったのじゃ」


 玄弥は、葛葉を見た。

 葛葉が、笑っていた。

 本当に、幸せそうに笑っていた。


「……よかったな」

「うむ」


 二人は、しばらく浮かんでいた。

 波に揺られながら、空を見ていた。


 葛葉が、起き上がった。

「玄弥、もっと沖まで行くのじゃ」

「あまり遠くまで行くなって、母さんが」

「少しだけじゃ」

「少しだけ?」

「少しだけじゃ」


 葛葉は、泳ぎ始めた。

 平泳ぎで、少し沖に向かった。

 玄弥も、後を追った。


 葛葉は、振り返った。

「ここからの景色も、綺麗じゃのう」

「そうだな」


 砂浜が、遠くに見えた。

 パラソルが、小さく見えた。

 人の姿も、小さかった。


 その時、大きな波が来た。

 今までより、ずっと大きな波が、沖から押し寄せてきた。


「——うっぷっ」

 葛葉は、波に飲まれた。

 身体が、水の中に沈んだ。


 葛葉は、慌てて浮かび上がろうとした。

 でも、また波が来た。

 身体が、また沈んだ。


 ——まずい。

 葛葉は、焦った。

 息が、苦しくなってきた。

 水を飲んだ。

 しょっぱい水が、喉に入ってきた。

 ——このままでは。


 その瞬間、誰かが葛葉の腕を掴んだ。

 強く、しっかりと掴んだ。

 引き上げられた。


 水面に、顔が出た。

「——っぷは」

 葛葉は、大きく息を吸った。

 咳き込んだ。


「葛葉——!」

 玄弥の声がした。

 玄弥が、葛葉を抱きかかえていた。

「大丈夫か——!」


 葛葉は、咳き込みながら頷いた。

「……だ、大丈夫じゃ」

「本当か」

「本当じゃ」


 でも、葛葉の身体は震えていた。

 少し怖かった溺れそうになった。

 初めての経験だった。


 玄弥は、葛葉を抱きかかえたまま、岸に向かって泳ぐ、片手で泳ぎながら、葛葉を支えた。


 浅いところまで来た。

 玄弥は、葛葉を降ろした。

「立てるか」

「……立てる」


 葛葉は、立った。

 でも、足が震えていた。

 玄弥の肩に、手を置いた。

「……すまんのう」

「謝らなくていい」

「でも」

「大事なのは、無事だったことだ」


 玄弥は、葛葉の顔を覗き込んだ。

「本当に、大丈夫か」

「……大丈夫じゃ」

 葛葉は、玄弥を見た。

 距離が、近かった。

 すぐ近くに、玄弥の顔があった。


「……っ」

 葛葉の顔が、少し熱くなった。

 心臓が、早く打っていた。

 溺れそうになった恐怖なのか、玄弥が近いからなのか、わからなかった。


「玄弥」

「なんだ」

「……ありがとうのう」

「礼はいい」

「でも、言いたいのじゃ」

 葛葉は、静かに続けた。

「助けてくれて、ありがとう」


 玄弥は、少し照れた。

「……当然だろ」

「当然でも、嬉しいのじゃ」


 葛葉は、玄弥の胸に額を押し当てた。

 そのまま、じっとしていた。


「……葛葉?」

「少しだけ、このままでいさせてくれ」

「……わかった」


 玄弥は、葛葉の背中に手を回した。

 葛葉の身体が、まだ震えていた。

 波の音が、聞こえていた。

 二人は、しばらくそのままでいた。


 葛葉が、顔を上げた。

 玄弥を見た。

 その目が、いつもと違あ柔らかくて、温かかった。


「玄弥」

「なんだ」

「わらわ、怖かったのじゃ」

「……」

「溺れそうになって、本当に怖かった、この身体は大変じゃ‥」

 葛葉の声が、少し震えていた。

「でも、お主が助けてくれた」


 葛葉は、玄弥の頬に手を当てた。

「ありがとうのう、お主がいてくれて、よかった」


 玄弥は、ドキッとした。

 葛葉が、こんなに素直に感謝を言うのは珍しかった。

 いつもはからかってくるのに、今は真剣だった。


「……別に」

 玄弥は、視線を逸らした。

「当然のことをしただけだ」

「当然でも、嬉しいのじゃ」


 葛葉は、玄弥の手を握った。

「わらわは、お主と一緒でよかった」

 静かに、でも確かに言った。

「これからも、ずっと一緒じゃ」


 玄弥は、葛葉を見た。

 葛葉が、笑っていた。

 いつもの茶目っ気のある笑顔ではなく、柔らかい笑顔だった。

「……ああ」

 玄弥は、頷いた。

「これからも、ずっと一緒だ」


 葛葉の顔が、少し赤くなった。

 それから、また笑った。

「うむ」


 二人は、手を繋いだまま、砂浜に戻った。

 夕日が、二人を照らしていた。

 長い影が、砂浜に伸びていた。


 母が、駆け寄ってきた。

「二人とも、大丈夫——?」

「大丈夫です」

「葛葉ちゃん、溺れそうになったの見えたわよ」

「……すまんのう」

「無事でよかったわ」

 母は、安心したように笑った。

「玄弥、ありがとうね」

「……別に」


 ミユキとナギサも、駆け寄ってきた。

「葛葉さん、大丈夫ですか」

「大丈夫じゃ」

「よかった」


 葛葉は、玄弥を見た。

 また、笑った。

「玄弥が、助けてくれたのじゃ」


 ミユキが、にやりと笑った。

「西園寺、かっこよかったわね」

「……うるさい」

「照れてる」

「照れてない」


 ナギサが、静かに言った。

「西園寺くん、よかったです」

「……まあ」


 葛葉は、玄弥の手をまた握った。

 玄弥は、少し驚いたが、握り返した。


 夕日が、海を照らしていた。

 オレンジ色の光が、波にキラキラと反射していた。

 綺麗な夕暮れだった葛葉は、海を見た。

 それから、玄弥を見た。

「玄弥」

「なんだ」

「わらわ、今日は本当に楽しかったのじゃ」

「……そうか」

「うむ」

 葛葉は、また笑った。

「また、海に来たいのう」

「また来ればいい」

「次も、お主と一緒じゃ」

「……ああ」


 葛葉は、嬉しそうに笑った。

 その笑顔が、夕日に照らされて、とても綺麗だった。


 玄弥はなんだか胸がドキドキした。

 葛葉の笑顔が、頭から離れなかった。


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