IF-海と水着と
※この話はIF回です。本編とは関係のない、もしもの世界のお話です。
当日。
朝。
玄弥は、早く起きた。
いや、起こされた。
「玄弥——!」
葛葉が、部屋に飛び込んできた。
「起きろ——!」
「……っ、まだ六時だぞ」
「起きるのじゃ——!」
葛葉は、玄弥の布団を引っ剥がした。
「今日は海じゃ——!」
玄弥は、眠い目をこすった。
「……お前、そんなにはしゃぐキャラだったか」
「皆で行くのは初めてじゃからのう」
葛葉の目が、輝いていた。
「早く行くのじゃ」
「集合は九時だぞ」
「なら、早く準備するのじゃ」
「……わかったわかった」
玄弥は、起き上がった。
着替えて。
階下に降りた。
母が、朝食を作っていた。
「おはよう、玄弥」
「おはよう」
「葛葉ちゃん、起こしてくれた?」
「起こされた」
「あら」
母は笑った。
「楽しみなのね」
葛葉が、玄弥の後ろから来た。
「当然じゃ」
その顔が、にこにこしていた。
「海じゃからのう」
朝食を食べた。
トーストと。
卵焼きと。
サラダと。
オレンジジュース。
葛葉は、すごい速さで食べた。
「ごちそうさまじゃ」
「早いな」
「早く行きたいのじゃ」
「まだ七時だぞ」
「早い方がいいのじゃ」
玄弥も、食べ終えた。
母も、食べ終えた。
「じゃあ、準備しましょう」
「うむ」
水着。
タオル。
日焼け止め。
飲み物。
お菓子。
全部、バッグに詰めた。
車で、出発した。
母が運転した。
玄弥が助手席。
葛葉が、後部座席。
「どのくらいかかるの」
玄弥が聞いた。
「二時間くらいね」
「遠いな」
「海だもの」
葛葉は、後ろの窓から外を見ていた。
景色が、流れていく。
街や、田んぼ、山が。
「……きれいじゃのう」
呟いた。
「人間の世界は」
高速道路に入った。
車が、速くなった。
葛葉は、じっと外を見ていた。
途中サービスエリアに寄り、トイレ休憩。
葛葉は、自販機を見つけた。
「玄弥、これはなんじゃ」
「自販機だよ」
「じはんき?」
「お金を入れると、飲み物が出てくる」
「ほう」
葛葉は、興味津々で見ていた。
「面白いのう」
玄弥は、百円玉を入れた。
ボタンを押した。
オレンジジュースが、出てきた。
「ほれ」
「わらわにか」
「そうだよ」
「……ありがとうのう」
葛葉は、蓋を開けたオレンジジュースを受け取った。
飲んだ。
「……冷たいのう」
「そうだな」
「おいしいのう」
「そうか」
車に戻った。
また、走った。
葛葉は、オレンジジュースを飲みながら。
外を見ているとだんだん海が、近づいてきた。
空気が、変わった。
潮の匂いがした。
葛葉が、鼻をひくひくさせた。
「潮の匂いか!」
葛葉は、窓を少し開けた。
風が、入ってきた。
潮の匂いが、強くなった。
「……海が、近いのじゃな」
「そうだな」
しばらくして海が、見えた。
青い海が遠くにキラキラと輝いていた。
「——っ」
葛葉は、息を呑んだ。
「……あれが」
「海だ」
「……」
葛葉は、じっと海を見ていた。
目が、輝いていた。
言葉が、出なかった。
駐車場に車を停めて歩いているとミユキとナギサがいた、先に来ていたみたいだ。
「おはよう」
ミユキが手を振った。
白いTシャツに。
短パンを履いていた。
「おはよう」
ナギサも、静かに頭を下げた。
「おはようございます」
薄い青色のシャツに。
白いスカートを履いていた。
葛葉は、車から降りるなりずっと海を見た。
「……すごいのう」
母が、荷物を持った。
「さ、着替えましょう」
「うむ」
海の家に入った。
更衣室で、着替えた。
玄弥は、黒いサーフパンツを履いた。
上は、白いTシャツを着た。
外に出ると葛葉が、もう出ていた。
白と金色のビキニにパレオを巻いていた。
髪を、ポニーテールにしていた。
「……っ」
玄弥は、一瞬固まった。
葛葉が、振り返った。
「玄弥、どうじゃ」
「……似合ってる」
「本当か」
「本当だ」
「そうか」
葛葉は、嬉しそうに笑った。
「なら、よいのじゃ」
しばらくするとミユキも出てきた。
赤いビキニに黒いパレオを巻いていた。
「どう?」
「似合ってる」
「でしょ」
ナギサも、出てきた。
青いワンピースタイプの水着に白い帽子を被っていた。
「……恥ずかしいです」
「似合ってるよ、ナギサ」
「……ありがとうございます」
母も、出てきた。
黒いワンピースタイプの水着に大きな帽子を被っていた。
「さ、行きましょう」
砂浜に出た。
白い砂が広がっていて人がたくさんいる。
パラソルがいくつも立っていた。
葛葉は、砂を踏んだ。
「……熱いのう」
「砂は熱いからね」
「ほう」
葛葉は、海を見た。
青い海が目の前に広がっていた。
「……」
葛葉は、ゆっくりと海に近づいた。
波が寄せては返していた。
葛葉は、波に触れた。
足先に水が触れた。
「——っ」
葛葉の目が、見開かれた。
「……冷たいのう」
「海水は冷たいよ」
「しょっぱいのか」
「しょっぱいよ」
「ほう」
葛葉は、もう少し深く入った。
膝まで水に浸かった。
波が来た葛葉の身体にぶつかった。
「——っ」
葛葉は、少しよろめいた。
でも。
笑った。
「……面白いのう」
玄弥も、海に入った。
「どうだ、海は」
「すごいのう」
葛葉は、振り返った。
「こんなにたくさんの水があるとは」
「そうだな」
「わらわ、海が好きじゃ」
「そうか」
葛葉は、さらに深く入った。
腰まで水に浸かった。
大きな波が来た葛葉の顔に。
水がかかった。
「——っぷ」
葛葉は、水を払った。
「しょっぱいのう」
「言っただろ」
「本当にしょっぱかった」
葛葉は、海に浮かんでみた。
背泳ぎの形でぷかぷかと。
「……気持ちいいのう」
「泳げるんだな」
「当然じゃ」
葛葉は、ぷかぷか浮きながら答えた。
「わらわは何でもできるのじゃ」
「そうか」
ミユキとナギサも、海に入ってきた。
「葛葉さん、楽しそう」
「楽しいのじゃ」
葛葉は、起き上がった。
「海は最高じゃのう」
ナギサが、静かに笑った。
「よかったですね」
「うむ」
葛葉は、ナギサの手を取った。
「ナギサも一緒に泳ぐのじゃ」
「はい」
四人で海に入り泳ぎ、はしゃいだ。
波に揺られた。
葛葉は、ずっと笑っていた。
本当に楽しそうに。
「玄弥——!」
葛葉が、手を振った。
「見ろ——!」
葛葉は、潜った。
数秒後浮かび上がった。
「潜れたのじゃ」
「すごいな」
「当然じゃ」
葛葉は、また潜りまた浮かび上がった。
「もう一回できたのじゃ」
「わかったわかった」
玄弥は、笑った。
葛葉がこんなに楽しそうにしているのを初めて見た気がした。
母が、岸から手を振った。
「みんな——、お昼ご飯よ——」
「おお」
葛葉が、振り返った。
「もうお昼か」
「もう十二時だよ」
「時間が経つのが早いのう」
四人は、海から上がり砂浜にパラソルの下に集まる。
母が、お弁当を広げていた。
「さ、食べましょう」
「いただきます」
おにぎり、唐揚げ、卵焼きとウインナーにポテトサラダ。
葛葉は、おにぎりを頬張った。
「……おいしいのう」
「よかった」
母が笑った。
「たくさん食べてね」
「うむ」
五人で、お昼ご飯を食べた。
海を見ながら、波の音を聞きながら。
葛葉は、海を見ていた。
青い海をキラキラ光る海を。
「玄弥」
「なんだ」
「連れてきてくれて、ありがとうのう」
「……別に」
「わらわ、海が好きじゃ」
「そうか」
「うむ」
葛葉は、笑った。
「また来たいのう」
「また来ればいいだろ」
「そうじゃな」
葛葉は、また海を見た。
ずっと見ていた。




