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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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IF-海と水着と

※この話はIF回です。本編とは関係のない、もしもの世界のお話です。


 夏、暑かった。

 西園寺家のリビングに扇風機が回っていた。

 でも暑かった。


 玄弥は、ソファに倒れ込んでいた。

「……暑い」

「暑いのう」

 葛葉も、隣のソファに倒れていた。

「人間の夏は、本当に暑いのう」

「妖怪も暑いのか」

「当然じゃ」


 母が、麦茶を持ってきた。

「はい、二人とも」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 玄弥と葛葉は、麦茶を一気に飲んだ。

 冷たかった少しだけ。

 生き返った気がした。


 テレビがついていた。

 旅番組だった。

 海の映像が流れていた。

 青い海白い砂浜に人々が、泳いでいた。


 葛葉が、テレビを見た。

 じっと。

「……なんじゃ、あれ」

「海だよ」

「海?」

「知らないのか」

「海自体は知っておる」


 葛葉は、テレビに近づいた。

 画面を、じっと見た。

「人間は、あそこで泳ぐのか」

「泳ぐね」

「……面白そうじゃ」


 葛葉は、玄弥を見た。

 目が、輝いていた。

「玄弥」

「なんだ」

「わらわも、海に行きたい」

「……え」

「海に行きたいのじゃ」

「急だな」

「急ではないのじゃ。今、思いついたのじゃ」


 母が、横から口を出した。

「海、いいわね」

「え、母さんも」

「久しぶりに行きたいわ。玄弥も行く?」

「……俺も?」

「当然じゃろ」

 葛葉が即答した。

「わらわ一人では行けんのじゃ」

「……まあ、そうだけど」


 母が、スマホを取り出した。

「じゃあ決まりね。明後日あたりどう?」

「明後日?」

「そう。天気も良さそうだし」

「……まあ、いいけど」

「決まりね」


 葛葉が、また輝いた目で玄弥を見た。

「海じゃ、海じゃ」

「わかったわかった」

「楽しみじゃのう」

「……お前、そんなにはしゃぐキャラだったか」

「この身体で泳ぐ海は初めてじゃからのう」


 母が、言った。

「じゃあ明日、水着買いに行きましょ」

「水着?」

 葛葉が首を傾げた。

「海で着る服よ」

「服を着て泳ぐのか」

「そうよ」

「ふむ」

 葛葉は少し考えた。

「わらわも買わねばならんのか」

「当然よ」

「そうか」


 翌日デパートに来た。

 玄弥と葛葉と母の三人で。


 デパートは冷房が効いていた。

 人が、たくさんいた。


「混んでるな」

「夏だからね」


 水着売り場に向かった。

 エスカレーターを上って三階に。


 水着売り場はさらに混んでいた。

 女性がたくさんいた。

 玄弥は、少し居心地が悪かった。


「……俺、ここにいていいのか」

「大丈夫よ。男性もいるでしょ」

「まあ、いるけど」


 その時声がした。


「西園寺?」


 玄弥は振り返った。

 ミユキが、そこにいた。

 私服の白いワンピースを着たミユキが。


「……ミユキ」

「なんでここにいるの」

「それはこっちの台詞だろ」


 ミユキの隣にナギサもいた。

 私服の薄い青色のシャツを着たナギサが。


「西園寺くん」

「ナギサも」

「偶然ですね」

「偶然だな」


 葛葉が、二人に近づいた。

「おお、ミユキとナギサじゃ」

「葛葉さん」

「何しておるのじゃ」

「買い物です」

 ナギサが答えた。

「炎下さんと」


「そっちは?」

 ミユキが聞いた。

「何しに来たの」

「海に行くから、水着を買いに来たのじゃ」

 葛葉があっさり答えた。

「海?」

「うむ。明日行くのじゃ」


 ミユキとナギサは、顔を見合わせた。

 葛葉が、にやりと笑った。

「お主らも、どうじゃ」

「……え」

「海に行かんか」

「……」

「一緒に行けば、楽しいじゃろ」


 ミユキは、少し黙った。

 それから。

「……あたしは別にいいけど」

「本当か」

「別に、行ってもいいわよ」

 ミユキは顔を逸らした。

「暇だし」


 ナギサも、静かに頷いた。

「私も、行きます」

「本当か」

「はい。海、行ったことないので」

「おお」

 葛葉の目が輝いた。

「ナギサも初めてか」

「はい」

「ならば、一緒に楽しむのじゃ」

「……はい」


 母が、笑顔で言った。

「じゃあ決まりね。みんなで行きましょう」

「お母さんも来るんですか」

 ナギサが聞いた。

「もちろん。引率よ」

「……よろしくお願いします」


 葛葉が、水着売り場を見回した。

「ならば、皆で水着を選ぶのじゃ」

「そうね」

 母も頷いた。

「女の子たちは一緒に選びましょう」

 三人の女性が、水着売り場に散っていった。

 玄弥は、一人残された。


「……俺は」

 呟いた。

「何すればいいんだ」


 母が、振り返った。

「玄弥は男性用の水着見てきて」

「わかった」


 玄弥は、男性用の水着コーナーに向かった。

 サーフパンツが、並んでいた。

 黒、青、赤。

 いろいろな色があった。


「……どれでもいいか」

 玄弥は適当に黒いサーフパンツを手に取った。

「これでいいな」


 女性用の水着コーナーに戻ると。

 葛葉が、いくつか水着を手に持っていた。


「玄弥、戻ったか」

「ああ」

「水着は買ったのか」

「これ」

 玄弥は黒いサーフパンツを見せた。

「ふむ。地味じゃのう」

「地味でいいんだよ」


 葛葉は、自分の手に持った水着を見せた。

 白と金色のビキニだった。


「わらわは、これにしようと思うのじゃが」

「……そうか」

「どう思う」

「どうって言われても」

「似合うか」

「……似合うんじゃないか」

「そうか」

 葛葉は満足そうに頷いた。

「なら、これにするのじゃ」


 ミユキが、水着を持って戻ってきた。

 赤いビキニだった。

「あたしはこれ」

「ほう、赤か」

「あたしに似合うでしょ」

「似合うのう」


 ナギサも、水着を持って戻ってきた。

 青いワンピースタイプの水着だった。

「私は、これにします」

「おお、ナギサらしいのう」

「……そうですか」

「うむ」


 葛葉が、玄弥を見た。

「玄弥」

「なんだ」

「わらわの水着、どれがいいと思う」

「……さっき選んだやつじゃないのか」

「あれは一着目じゃ。もう一着買おうと思うのじゃ」

「二着も買うのか」

「当然じゃろ」


 葛葉は、玄弥に水着を何着か見せた。

 どれもビキニだった、色や柄が違うだけで。

「これはどうじゃ」

「……うーん」

「これは」

「うーん」

「これは」

「……」


 玄弥は、顔が赤くなってきた。

 葛葉の水着を選ぶ、という行為が。

 なんだか恥ずかしかった。


「どうしたのじゃ、顔が赤いぞ」

「赤くない」

「赤いのう」

「赤くないって」


 ミユキが、横から口を出した。

「西園寺、恥ずかしいの?」

「恥ずかしくない」

「嘘くさい」

「嘘じゃない」

「顔真っ赤よ」

「……うるさい」


 ナギサが、静かに言った。

「西園寺くん、無理しなくていいですよ」

「無理してない」

「してます」

「……」


 葛葉が、また水着を見せた。

「これはどうじゃ」

 パレオ付きのビキニだった。

 白地に、金色の模様が入っている。


 玄弥は、それを見た。

 少し考えた、それから。

「……これでいいんじゃないか」

 破れかぶれに言った。

「これが一番、葛葉に似合うと思う」


 葛葉の目が、輝いた。

「本当かのう?」

「ほ、本当だ」

「玄弥が選んでくれたのじゃな」

「……まあ」

「なんだか嬉しいのう」

 葛葉は、その水着を胸に抱いた。

「なら、これにするのじゃ」


 ミユキが、にやりと笑った。

「西園寺、照れてる」

「照れてない」

「照れてるわよ」

「……うるさい」


 四人分の水着と母の水着を買い、

 レジで会計を済ませた。


 デパートを出た。

 外は、暑かった。

 でもなんだか楽しい気分だった。


「じゃあ、明日ね」

 ミユキが手を振った。

「うむ」

 葛葉も手を振った。

「明日、楽しみじゃのう」


 ナギサも、静かに頷いた。

「楽しみです」

「うむ」


 三人は、別れた。

 玄弥と葛葉と母は家に帰った。


 夜。

 玄弥の部屋に葛葉が来た。


「玄弥」

「なんだ」

「明日は楽しみじゃのう」

「……そうだな」

「海は初めてじゃ」

「わかってる」

「わらわ、泳げるかのう」

「泳げるだろ、お前なら」

「そうか」


 葛葉は、窓から外を見た。

 夜空が、見えた。

 星が、出ていた。


「玄弥」

「なんだ」

「ありがとうのう」

「なんで」

「水着、選んでくれて」

「……別に」

「嬉しかったのじゃ」


 玄弥は、少し黙った。

 それから。

「……楽しみにしてるなら、よかった」

「うむ」

 葛葉は、振り返った。

「明日、楽しむのじゃ」

「ああ」


 葛葉は、部屋を出た。

 玄弥は、ベッドに横になった天井を見た。


 明日海に行く。

 葛葉とミユキとナギサと。


 なんだか楽しみだった。

 玄弥は、小さく笑った。

 それから目を閉じた。

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