表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/207

長き戦いの決着

 玄弥は踏み込んだ。

 鵺の四本の腕が。

 全方向から。

 来る。


 刀に、霊力を込める。

 葛葉から流れ込んだ。

 最後の霊力を。

 全て。


 刀が、輝いた。

 金色と紫色が。

 激しく混ざり合った。


 遠見が、告げる。

 鵺の胸の中心。

 小さな光。

 そこが、弱点。

 そこを突けば。

 終わる。


 でも。

 四本の腕が、邪魔をする。

 どう突破する。


 玄弥は、覚悟を決めた。

 ——真っ直ぐ行く。


 一本目の腕が、正面から来た。

 巨大な拳が。

 玄弥を押し潰そうとする。


 玄弥は刀を振った。

「《紫電》——!」

 斬撃が、拳を切り裂いた。

 霧が、散った。

 でも。


 二本目の腕が、左から来た。

 玄弥は躱せない。

 霊力が、足りない。


 その瞬間。

 葛葉の尾が、横から来た。

「玄弥——!」

 尾が、二本目の腕を弾いた。

 葛葉の尾が、また薄くなった。

 残りは、二本しかない。


 玄弥は進んだ。

 前に。

 真っ直ぐに。


 三本目の腕が、上から来た。

 叩き潰すように。


 玄弥は刀を上に向けた。

「《紫電》——!」

 斬撃が、上に走った。

 腕を、斬り裂いた。

 霧が、散った。


 でも。

 刀に、ひびが入った。

 大きく。

 もう、限界だ。


 四本目の腕が、背後から来た。

 玄弥は気づいた。

 でも。

 躱せない。

 もう、動けない。


 葛葉が、玄弥の背中を押した。

 前に。

 強く。

「行け、玄弥——!」


 玄弥は、前に飛んだ。

 四本目の腕が。

 玄弥のいた場所を。

 通過した。


 葛葉は、四本目の腕を受け止めた。

 最後の二本の尾で。


 衝撃が、走った。

 葛葉の尾が。

 両方とも。

 消えた。


「——っ」

 葛葉が、膝をついた。

 尾が、全て消えた。

 九本の尾が全て。


「葛葉——!」

 玄弥が叫んだ。


 葛葉は、倒れながら玄弥を見た。

「……行け」

 静かに、言った。


「わらわは、ここまでじゃ」

「葛葉——」

「お主が、終わらせろ」

 葛葉の目が、玄弥を見た。

「わらわは、お主を信じておる」


 玄弥は前を向いた。

 鵺の胸の中心が目の前にある。

 小さな光が見える。


 刀を、構えた。

 ひびだらけの刀を霊力を、込める。

 最後の霊力を全て。


 玄弥は、踏み込んだ。

 鵺の胸に向かって真っ直ぐに。


「——終わらせる——!」


 刀を、振り下ろした。

 胸の中心に小さな光に。

 全霊力を込めて。


「《紫電》——!」


 刀が、光に触れた。

 その瞬間。


 ひびが、広がって刀が砕けた。

 刀身が砕け散った。


 でも。


 斬撃は、届いた。

 砕けた刀の最後の一撃が鵺の胸の光に叩き込まれた。

 光が、炸裂した。


 鵺の巨大な身体が。

 揺れた大きく。

 激しく。


「——っ……」

 鵺の声が、途切れた。


 四本の腕が、崩れた霧が散った。

 巨大な身体が薄くなっていく。


 鵺の六つの目が。

 玄弥を見た。

「……やられた、か」

 低い声だった。

「まさか、本当に倒されるとは」


 玄弥は、砕けた刀を握ったまま。

 鵺を見た。

「……終わりだ」


 鵺は、少し黙った。

 それから。


「……そうだな」

 静かに、言った。

「終わりだ」


 鵺の身体が崩れていく。

 霧が風に流されて消えていく。


「……面白かった」

 鵺の声が、遠くなった。


「お前たちと戦うのは、本当に面白かった」

「……」

「だが」

 鵺の声が、最後に言った。


「王が来る」


 玄弥は、固まった。

「王?」

「妖怪の王が、目覚める」

 鵺の声が、どんどん遠くなる。


「お前たちでは、勝てない」

「……」

「王は——俺なんかより、はるかに強い」


 鵺の身体が完全に消えた。

 平原に静けさが戻ってきた。


 玄弥は、その場に立っていた。

 砕けた刀を握ったまま。

 全身が痛い、霊力が全て消えた。


 霊装が消えた。

 白装束が霧散した。


 膝が折れた地面に倒れた。


 空が見えた。

 青い空が遠く見えた。


 ——終わった。

 玄弥はそう思った。

 ——鵺を、倒した。


 でも。

 ——王が来る。

 その言葉が頭に残っていた。


 意識が遠くなる。

 誰かが叫ぶ声が聞こえた。


「玄弥——!」

 葛葉の声だった。


 でも遠かった。

 そして意識は暗闇に沈んでいった。


 鵺が消えた完全に、そして霧が全て散った。

 黒い気配が消え平原に静けさが戻った。


 玄弥は、地面に倒れていた。

 動かない意識がない。

 砕けた刀の破片が手の中に残っていた。


「玄弥——!」

 葛葉が、這うように近づいた。

 尾が、全て消えた身体で満身創痍。

 立てない、それでも。

 玄弥の隣まで来た。


「玄弥——!」

 葛葉が、玄弥の肩を掴んだ。

 揺すったでも。

 玄弥は、動かない。


「起きるのじゃ!」

 葛葉は、玄弥の胸に手を当てた。

 心臓は動いている。

 呼吸もしている。


「……よかった、生きておる」

 葛葉は、小さく息を吐いた。


 ナギサが、走ってきた。

 霊力は、ほとんど残っていない身体で。

 それでも必死に走った。

「西園寺くん——!」


 ナギサは、玄弥の隣に膝をついた。

「西園寺くん——!」

 玄弥の顔を、覗き込んだ。

 目が、閉じていて動かない。


「……生きてますか」

「生きておる」

 葛葉が答えた。

「ただ、気を失っておるだけじゃ」

「……よかった」

 ナギサの目から。

 涙が、一筋落ちた。

「本当に、よかった」


「ミユキはどうしたのじゃ?」

 葛葉が聞いた。

「……意識がありません」

 ナギサの声が、震えた。


「侵食が、全身に広がっています」

「すぐに治療が必要じゃ」

「でも、ここでは——」

「炎下家に運ぶのじゃ」

 葛葉は続けた。

「当主殿が、待っておるはずじゃ」


 ナギサは頷いた。

 立ち上がろうとして。

 膝が、折れた。

「——っ」

 霊力が、ない身体が、動かない。


「すみません——私も、もう——」

「無理するな」

 葛葉が静かに言った。

「お主も、よくやった」


 その時気配がした。


 空気が、揺れた。

 冥界の気配が。

 また、近づいてきた。


「——っ」

 葛葉は身構えた。

 でも尾がない、霊力もない。

 もう‥戦えない。


 冥界の綻びが‥。

 平原の中央に黒い穴がまだ、口を開けている。

 そしてその穴から何かが出てこようとしている。


「まさか——」

 葛葉の目が、鋭くなった。

「まだ、何か来るのか——」


 でもゆっくり穴が縮み始めた。

 

 黒い穴が小さくなっていく。

 冥界の気配が薄くなっていく。


 そして。

 穴が完全に閉じた。


 冥界の気配が消えた。

 綻びが閉じた。


 葛葉は、息を吐いた。

「……閉じたか」

「綻びが?」

「うむ」

 葛葉は頷いた。


「鵺が消えたことで、綻びを維持する力も消えた」

「……よかった」

 ナギサも、息を吐いた。

「これで、終わったんですね」

「そうじゃ」


 平原に静けさが戻った。


 風が吹いた、草が揺れた。

 空が青かった雲が、流れていた。

 そんな何気ない情景に戦いの痕跡だけが。

 残っていた。


 地面が抉れクレーターがいくつもできていた。

 草が焼けて黒い霧の痕跡がうっすらと残っていた。


 でも。鵺は消滅した。

 勝った。


 葛葉は、空を見上げた。

「……終わったのう」

 小さく、呟いた。

「鵺との戦いが」


 でも葛葉も鵺の最後の言葉が頭に残っていた。


 ——王が来る。

 葛葉は、目を細めた。

「……妖怪の王」

 呟いた。

「一年以内に、復活する」


 ナギサが、葛葉を見た。

「妖怪の王——」

「うむ」

「鵺より、強いんですか」

「……はるかに、強い」

 葛葉の声が、重かった。

「鵺は四大天魔の一人。じゃが、王は別格じゃ」


 ナギサは、玄弥を見た。

 倒れている玄弥を。

「……西園寺くんは、勝てますか」

「わからん」

 葛葉は正直に答えた。

「じゃが」

 葛葉は玄弥を見た。

「この莫迦なら、なんとかするじゃろう」


 葛葉は、玄弥の頭を撫でた。

「よくやったのう、玄弥」

 小さく、言った。

「わらわが誇りに思うほどに」


 その時、足音が聞こえた。

 複数の人間が平原に走ってきた。


 炎下家当主だった。水瀬当主もいる。

 炎下家の者たちも一緒だった。


「西園寺くん——!」

 炎下家当主が駆け寄った。

「葛葉殿——!」


 葛葉は、炎下家当主を見た。

「来たか」


「鵺は——」

「倒した」

 葛葉は静かに言った。

「玄弥が、倒した」


 炎下家は、玄弥を見た。

 倒れている玄弥を。

 砕けた刀を握った玄弥を。


「……ありがとう」

 炎下家当主は、深く頭を下げた。

「この地を、守ってくれて」


「礼はいらん」

 葛葉は首を振った。

「それより、ミユキとナギサと玄弥を、治療してやってくれ」

「わかりました」


 炎下家当主は、部下たちに指示を出した。

「三人を、運べ」

「はい」


 炎下家の者たちが。

 玄弥を。

 ミユキを。

 ナギサを。

 担架に乗せた。


 葛葉も運ばれようとした。

「待て」

 葛葉は立ち上がった。

 よろめいた。

 でも立った。

「わらわは、自分で歩く」

「しかし——」

「いいのじゃ」


 葛葉は、平原を見た戦いの痕跡を。

 抉れた地面を、焼けた草を。


 そして空を見上げた青い空を。


「……勝ったのう」

 呟いた。

「今回は」


 でも。

 その目が。

 遠くを見ていた。


 ——次は、王だ。


 葛葉は、ゆっくりと歩き始めた。

 炎下家の方へ玄弥たちの後を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ