力合わせ
鵺が、立ち上がろうとした。
膝をついたまま。
輪郭が、大きく揺れている。
霧が、ほとんど消えている。
それでも。
「まだ、終わってない」
低い声だった。
玄弥は、刀を構えた。
霊力が、ほとんど残っていない。
全身が、痛い。
侵食が、広がっている。
でも。
「……葛葉」
「うむ」
「俺たちで、決める」
「そうじゃな」
ミユキとナギサは、倒れている。
霊力を、使い切った。
蒼水の炎を放つのに。
全ての力を使った。
玄弥と葛葉だけが。
まだ、立っている。
二人だけで。
鵺を、倒さなければならない。
「葛葉」
「なんじゃ」
「お前の霊力、どのくらい残ってる」
「……半分以下じゃ」
「俺もだ」
「じゃが」
葛葉の目が、鋭くなった。
「二人の力を合わせれば、まだいける」
鵺が、立ち上がった。
ゆっくりと。
でも、確実に。
霧が、わずかに戻ってくる。
「……お前たちも、限界だろう」
鵺の声が、低かった。
「なら、相討ちだ」
玄弥は刀を握り直した。
「相討ちにはさせない」
「できるか」
「できる」
玄弥は葛葉を見た。
「俺には、葛葉がいる」
葛葉の尾が、静かに揺れた。
五本。
残りは、五本だけ。
でも。
「うむ」
葛葉は静かに頷いた。
「わらわがおる」
玄弥は前を向いた。
「葛葉、契約の繋がりを使う」
「うむ」
「お前の霊力を、全て俺に流してくれ」
「……全てか」
「全てだ」
葛葉は少し黙った。
それから。
「わかった」
静かに、言った。
「全て、お主に渡そう」
葛葉が、玄弥の背中に手を当てた。
契約の繋がりが。
開いた。
金色の霊力が。
葛葉から。
玄弥に。
流れ込んでくる。
温かかった。
柔らかかった。
でも。
圧倒的だった。
九尾の霊力が。
全身を。
満たしていく。
「——っ」
玄弥の身体が、光った。
金色に。
紫色に。
二つの色が、混ざった。
四本の尾が。
さらに輝きを増した。
刀が。
光を帯びた。
霊装が。
完全な形になった。
「これが……」
玄弥は自分の手を見た。
霊力が、溢れている。
葛葉の全ての力が。
今、玄弥の中にある。
「葛葉の、全て」
葛葉は、玄弥の背中に手を当てたまま。
静かに言った。
「玄弥」
「なんだ」
「わらわの力を、全て使え」
「……いいのか」
「いいのじゃ」
葛葉の声が、優しかった。
「わらわが選んだのじゃから」
玄弥は刀を構えた。
葛葉の霊力と。
自分の霊力が。
完全に一つになった。
九尾と霊装使いの力が。
融合した。
鵺が、それを見た。
「……九尾の力か」
鵺の声が、静かだった。
「面白い」
「……」
「だが」
鵺の妖気が、また膨れ上がった。
「俺も、全力だ」
鵺の霧が、戻ってきた。
わずかに。
でも、確実に。
黒い霧が、鵺を包む。
「最後の一撃で、決める」
「……そうだな」
玄弥は頷いた。
「俺も、そのつもりだ」
玄弥は霊力を、刀に集めた。
葛葉の力が。
自分の力が。
全て。
刀に流れ込む。
刀が、輝いた。
金色と紫色が。
渦を巻くように。
混ざり合った。
遠見が、働いた。
鵺の動きが、見える。
核の位置が、見える。
弱点が、見える。
全てが、鮮明に見えた。
「……見える」
玄弥は呟いた。
「鵺の全てが」
葛葉が、静かに言った。
「わらわの霊力を全て受け取ったからじゃ」
「……」
「遠見が、最大まで開いておる」
「そうか」
「今なら」
葛葉は続けた。
「鵺を、倒せる」
玄弥は前を向いた。
「行くぞ、葛葉」
「うむ」
鵺が、動いた。
「《冥霧・崩》——!」
黒い霧が、爆発した。
平原全体を。
覆うように。
玄弥は踏み込んだ。
霧の中に。
真っ直ぐに。
遠見が、告げる。
鵺の核が、北東にある。
そこを、突けば。
終わる。
「《紫電》——!」
玄弥の刀が。
霧を切り裂いた。
金色と紫色の光が。
霧を押し返した。
鵺の核が、見えた。
遠見で見た通りの場所に。
黒い球が、浮いている。
「——そこだ——!」
玄弥は、刀を振り下ろした。
全ての霊力を。
込めて。
刀が、核を捉えた。
斬った。
光が、炸裂した。
核が、砕けた。
霧が、一気に消えた。
鵺の輪郭が、大きく揺れた。
「——っ!」
鵺の声が、歪んだ。
でも。
鵺は、まだ動いた。
核を砕かれても。
まだ。
「まだ、終わらせねぇよ——」
鵺の拳が、玄弥に向かって来た。
玄弥は、躱せなかった。
霊力を、全て刀に込めたから。
もう、動けない。
その瞬間。
葛葉の尾が、玄弥の前に来た。
「《狐火・盾》——!」
金色の盾が、展開した。
鵺の拳が、盾にぶつかった。
盾が、砕けた。
葛葉の尾が、また一本薄くなった。
でも。
玄弥は、無事だった。
「葛葉——」
「構うな——」
葛葉の声が、苦しそうだった。
「お主は、次を放て——」
「でも——」
「早く——」
玄弥は刀を構え直した。
霊力が、ほとんど残っていない。
でも。
まだ、少しだけ。
鵺が、よろめいた。
核を砕かれた。
霧が、ほとんど消えた。
輪郭が、薄くなっている。
「……もう一度だ」
玄弥は踏み込んだ。
「《紫電》——!」
刀が、鵺の胸を捉えた。
もう一度。
深く。
斬り裂いた。
光が、走った。
鵺の輪郭が、崩れた。
霧が、完全に消えた。
鵺が、倒れた。
地面に。
大きく。
「……っ……」
鵺の声が、途切れた。
玄弥は、刀を握ったまま立っていた。
息が、荒い。
全身が、痛い。
でも。
「……倒した」
呟いた。
「鵺を」
葛葉が、玄弥の隣に来た。
尾が、四本になっていた。
一本は、完全に消えていた。
「よくやったのう」
「……葛葉も」
「当然じゃ」
二人は、鵺を見た。
倒れている。
動かない。
輪郭が、薄くなっているか、まだ‥。
消えていなかった。




