連携
鵺の拳が、玄弥に向かって来た。
速い。
今までとは、比べ物にならない。
玄弥は刀を構えた。
でも。
間に合わない。
「《蒼炎壁》——!」
ミユキの炎の壁が、玄弥の前に展開した。
鵺の拳が、壁にぶつかった。
壁が、砕けた。
でも。
一瞬だけ、遅れた。
玄弥は躱した。
ギリギリで。
鵺の拳が、玄弥の頬を掠めた。
「——っ」
熱かった。
いや、冷たかった。
妖気が、肌を削る。
「ナギサ——!」
「《水刃・連》——!」
ナギサの水刃が、複数同時に飛んだ。
鵺の背後から。
精密に。
鵺は躱さなかった。
霧で、全て弾いた。
一瞬で。
「無駄だ」
鵺の声が、冷たかった。
葛葉が立ち上がった。
尾が、二本薄くなっていた。
壁を砕かれた衝撃で。
「……っ」
「葛葉——!」
「大事ない——」
葛葉の声が、苦しそうだった。
「まだ戦える——」
鵺が、また動いた。
今度は、葛葉に向かって。
「九尾から潰す」
冷たい声だった。
「お前が一番厄介だ」
葛葉は尾を展開した。
七本。
二本は、薄くて使えない。
「《狐火・爆》——!」
金色の霊気が、炸裂した。
鵺は霧で包んだ。
自分の全身を。
爆発が、霧に吸収される。
完全に。
「通じない」
鵺は霧の中から現れた。
「そんなの俺には、通じない」
拳が、葛葉に向かった。
葛葉は尾で受け止めた。
三本同時に。
衝撃が、走った。
葛葉の尾が、また一本薄くなった。
「——っ!」
葛葉が、膝をついた。
「葛葉——!」
玄弥が踏み込んだ。
「《紫電》——!」
刀を、鵺の背中に向けて振り下ろした。
鵺は振り返らずに。
霧の腕を、背後に伸ばした。
刀が、霧の腕に阻まれた。
「遅い」
鵺の反対の腕が、玄弥を殴った。
腹に。
直撃した。
「——っあ!」
玄弥が、吹き飛んだ。
地面を、転がった。
「玄弥——!」
ミユキが駆け寄った。
「大丈夫——」
「……大丈夫じゃない」
玄弥は口から血を吐いた。
霊装に、大きなひびが入っていた。
鵺は、四人を見回した。
「弱い」
静かに、言った。
「本気の俺には、お前らは弱すぎる」
玄弥は立ち上がった。
膝が、震えていた。
それでも。
刀を、握り直した。
「……まだだ」
「まだ?」
「まだ終わってない」
鵺は、少し黙った。
それから。
「そうか」
静かに、頷いた。
「なら、殺す」
玄弥は、全員を見た。
葛葉が、膝をついている。
ミユキが、脚の侵食を抑えながら立っている。
ナギサが、静かに水の剣を構えている。
——このままじゃ、勝てない。
——鵺が本気になった今、正面から戦っても勝てない。
「……なら」
玄弥は呟いた。
「正面から戦わなければいい」
「玄弥?」
ミユキが聞いた。
「なに言ってんの」
「連携だ」
玄弥は刀を構えた。
「俺が囮になる。鵺の注意を引く」
「囮——」
「その間に、みんなで鵺の隙を作る」
葛葉が、顔を上げた。
「……無茶じゃ」
「無茶じゃない」
「鵺は本気じゃ。お主が囮になれば——」
「死ぬかもしれない」
玄弥は続けた。
「でも、それでも」
玄弥は、みんなを見た。
「俺は、みんなを信じる」
ミユキが、息を吐いた。
「……わかった」
炎を、両手に灯した。
「あんたが囮やるなら、あたしは全力で隙を作る」
ナギサが、静かに頷いた。
「私も、全力で」
水の剣が、白く輝いた。
「西園寺くんを、死なせません」
葛葉が、立ち上がった。
薄くなった尾を、それでも広げた。
「……莫迦じゃのう」
「何度も言われてる」
「何度でも言いたくなるのじゃ」
葛葉の目が、鋭くなった。
「じゃが、わらわも本気を出すのじゃ」
玄弥は前を向いた。
鵺が、静かに立っている。
黒い霧を纏った。
巨大な姿。
「来るか」
鵺の声が、冷たかった。
「ああ」
玄弥は踏み込んだ。
「行くぞ、鵺——!」
玄弥は、真っ直ぐに鵺に向かった。
刀を、構えて。
霊力を、込めて。
鵺は拳を振り上げた。
玄弥に向かって。
真っ向から。
玄弥は刀を振った。
「《紫電》——!」
拳と刀が、ぶつかった。
衝撃が、走った。
玄弥の腕が、軋んだ。
でも。
押し負けない。
必死に。
霊力を、刀に込めて。
その瞬間。
ミユキが動いた。
「《蒼炎刃・極》——!」
青い炎の刃が、鵺の左側を狙った。
鵺は左手で、霧の壁を張った。
炎が、霧に阻まれる。
でも。
一瞬。
鵺の注意が、左に向いた。
ナギサが、右から来た。
「《水刃・連》——!」
複数の水刃が、同時に飛んだ。
鵺の右側を。
精密に。
鵺は右手で、霧の盾を作った。
水刃が、盾に阻まれる。
でも。
また一瞬。
鵺の注意が、右に向いた。
葛葉が、背後から来た。
音もなく。
気配を消して。
「《狐火・零》——!」
金色の霊気が、鵺の背中に炸裂した。
ゼロ距離で。
全力で。
「——っ!」
鵺の輪郭が、大きく揺れた。
霧が、乱れた。
初めて。
本気の鵺に、傷が入った。
「今だ——!」
玄弥が叫んだ。
四人が、同時に動いた。
ミユキの炎が、前から来た。
ナギサの水刃が、横から来た。
葛葉の霊気が、背後から来た。
玄弥の刀が、正面から来た。
四方向から。
同時に。
全力で。
「《蒼炎・爆》——!」
「《水刃・乱》——!」
「《狐火・連》——!」
「《紫電》——!」
四つの攻撃が。
鵺を。
包んだ。
光が、炸裂した。
衝撃が、平原を揺らした。
地面が、大きく抉れた。
霧が、吹き飛んだ。
煙が、晴れた。
鵺が、立っていた。
輪郭が、大きく揺れている。
霧が、薄くなっている。
傷が、深い。
「……やるな」
鵺の声が、初めて苦しそうだった。
「連携で、ここまでやるとは」
玄弥は息を整えた。
全員が、息を切らしている。
霊力が、かなり削れた。
でも。
「……傷を入れた」
玄弥は呟いた。
ミユキが、横に来た。
「これが、特訓の成果ね」
「ああ」
ナギサが、静かに頷いた。
「無駄じゃなかったです」
葛葉が、玄弥の隣に立った。
尾が、また一本薄くなっていた。
でも。
その目が、鋭かった。
「まだ倒れておらんがのう」
「わかってる」
玄弥は刀を構え直した。
「でも、連携は通じた」
鵺が、静かに笑った。
「……面白い」
初めて。
本気になってから。
初めて、笑った。
「お前らは、本当に面白い」
鵺の妖気が、また膨れ上がった。
傷を負いながら。
それでも。
「だが」
鵺の声が、低くなった。
「これで終わりだ」




