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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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鵺の弱点


 鵺の霧が、また膨れ上がった。

 核を斬られたのに。

 まだ、これだけの力を残している。

「さあ来い——もっと楽しませろ——」

 鵺の声が、高ぶっていた。


 玄弥は遠見を使った。

 霧の中を、探る。

 核の位置が——

「……また見える」

「どこじゃ」

「さっきと違う場所だ」


 鵺が、核の位置を変えている。

 一度斬られたから。

 対策してきた。

「北東から、南西に移動してる」

「動いておるのか」

「そうだ。同じ場所には留まらない」


 玄弥は刀を構え直した。

「でも、遠見で追える」

「動く核を、斬れるか」

「……わからない」

「正直じゃのう」

「でもやる」


 鵺が動いた。

「《冥霧・爪》——!」

 黒い爪が、五本。

 四方から来る。


 玄弥は一本を刀で弾いた。

 葛葉の尾が、二本を弾いた。

 ミユキの炎が、一本を焼いた。

 ナギサの水刃が、一本を斬った。


「連携が、良くなってるな——」

 鵺の声が、楽しそうだった。

「でも足りない——」


「《冥霧・乱》——!」

 霧が、無数の棘になった。

 さっきより多い。

 さっきより速い。


「葛葉——!」

「《狐火・壁》——!」

 金色の壁が、展開する。

 でも。

 全部は防ぎきれない。


「ミユキ!」

「《蒼炎壁》——!」

 青い炎の壁が、左側を守る。

「ナギサ!」

「《水鏡》——!」

 水の壁が、右側を守る。


 それでも。

 隙間から。

 一本が、玄弥の脚を掠めた。

「——っ」

 また、侵食が始まる。


「玄弥——!」

 ナギサが駆け寄った。

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃないです」


「動ける」

「侵食が——」

「わかってる」

 玄弥はナギサの手を払った。

「今は、鵺を倒すことだけ考える」


 玄弥は遠見を使った。

 霧の核を、探る。

 動いている。

 北西に。

 いや、また南東に。

 ——動きが速い。


「葛葉」

「うむ」

「核の動きが速すぎる。遠見で追えるけど、斬るタイミングが掴めない」

「止められないか」

「止める?」

「核の動きを、一瞬だけでも止められれば」


 玄弥は考えた。

 核の動きを止める。

 どうやって。

 霧全体を攻撃しても、核は動き続ける。

 なら——


「……霧の流れを止める」

「どういうことじゃ」

「核は霧の中を動いている。霧の流れを止めれば、核も動けなくなるんじゃないか」


 ナギサが、静かに言った。

「霧の流れを止める……できるかもしれません」

「ナギサ?」

「霧は水分です。水分の流れを、私が止められるかもしれません」

「……できるか」

「やってみます」


 ミユキが横に来た。

「あたしは何すればいい」

「ミユキは炎で霧を牽制してくれ。鵺の注意を引く」

「わかった」

「葛葉は俺と一緒に核を斬る」

「うむ」


 玄弥は全員を見た。

「作戦はこうだ」

 静かに、でも確かに言った。

「ミユキが炎で鵺を牽制する。ナギサが霧の流れを止める。その瞬間、俺と葛葉が核を斬る」

「タイミングは」

「遠見で見る。核が止まった瞬間を」


「何をこそこそ話してる——作戦会議か——弱ぇ奴らが——」

 鵺の声が、平原に響いた。

「うるさいのう」

 葛葉の尾が、広がった。

「今のうちに笑っていろ」


 玄弥は前を向いた。

「行くぞ」

「うむ」

「はい」

「わかった」


 四人が、動いた。


 ミユキが前に出た。

「《蒼炎・連弾》——!」

 青い炎が、連続で放たれる。

 霧に向かって。

 爆発するように。


「炎か——でも弱ぇ——」

 鵺の霧が、炎を吸収する。

 でも。

 鵺の注意が、ミユキに向いた。


 その瞬間。

 ナギサが動いた。

「《水鏡・凍結》——!」


 水の霊力が、霧に触れた。

 霧の水分が。

 一瞬だけ。

 固まった。


 霧の流れが、止まった。


 玄弥の遠見が、反応した。

 核が。

 動きを。

 止めた。


「——今だ——!」


 玄弥は踏み込んだ。

 刀に、霊力を込める。

 葛葉の霊気が、流れ込む。

 金色と紫色が、混ざる。


「《紫電》——!」


 刀が、霧の核を捉えた。

 止まった核に。

 真っ向から。


 斬り裂いた。


 光が、炸裂した。

 霧が、大きく揺れた。

 核が。

 二つに。

 割れた。


「——っ!」

 鵺の声が、歪んだ。


 霧が、薄くなった。

 さっきより。

 大きく。

 平原に、青い空が広がった。


「……やった」

 玄弥は刀を握ったまま、息を吐いた。

「核を、斬った」

「うむ」

 葛葉が横に来た。

「よくやったのう」


 ミユキとナギサが、駆け寄ってきた。

「斬れた?」

「斬れた」

「ナギサのおかげだ。霧の流れを止めてくれた」

「……役に立てました」

 ナギサの表情は変わらない。

 でも。

 その目が、少し嬉しそうだった。


 鵺が、立っていた。

 霧の中で。

 輪郭が、大きく揺れている。

 今度は、さっきより大きく揺れていた。


 しばらく。

 沈黙が続いた。


「……二回も、核を斬られた」

 鵺の声が、低かった。

 今までとは、違う声だった。

 楽しそうな響きが。

 消えていた。


「まさか、霧の流れを止めるとは」

「……」

「面白かったぞ、お前ら」

 鵺の声が、静かだった。

「本当に、面白かった」


 それから。

 笑い声が、止まった。

 完全に。


 鵺の妖気が、変わった。

 今までの高ぶりが。

 興奮が。

 全て。

 消えた。


 代わりに。

 冷たい。

 重い。

 殺意だけが。

 残った。


「もう遊びは終わりだ」


 玄弥は、身構えた。

 空気が、変わった。

 明らかに。

 鵺が、変わった。


「今まではな」

 鵺の声が、静かに響いた。

「お前らを楽しんでいた。弱い奴が抵抗する姿を見るのが、面白かった」

「……」

「でも、もういい」


 鵺の輪郭が、安定した。

 揺れが、止まった。

 霧が、収束していく。

 広がるのではなく。

 鵺の周りに。

 集まっていく。


「本気で葬りにいく、覚悟しろ」


 その言葉に。

 嘘がなかった。

 遊びがなかった。

 ただ。

 純粋な殺意だけが。

 込められていた。


 鵺の妖気が、爆発した。

 今までとは。

 次元が違った。

 地面が、割れた。

 空気が、震えた。

 平原全体が、妖気に覆われた。


 霧が。

 真っ黒になった。

 光を吸い込むような。

 黒さだった。


「——っ」

 葛葉が、後退した。

「玄弥、下がれ——」

「葛葉——」

「早く——」

 葛葉の声が、緊張していた。

「鵺が、完全に本気になった——」


 鵺の姿が、霧の中で変わった。

 輪郭が、鋭くなった。

 曖昧だった形が。

 はっきりとした人型になった。

 黒い外套を纏ったような。

 巨大な姿。


「来るぞ」

 鵺の声が、静かに響いた。

 笑いは、なかった。

 高ぶりも、なかった。

 ただ。

 冷徹な殺意だけが。

 込められていた。


「死ぬ気で、来い」


 鵺が、動いた。

 今までとは。

 比べ物にならない速さで。


「——っ!」

 玄弥は刀を構えた。

 でも。

 間に合わない。

 鵺の拳が。

 玄弥の胸を。

 捉えようとした。


 葛葉の尾が、割り込んだ。

「《狐火・壁》——!」

 金色の壁が、展開する。


 鵺の拳が、壁を砕いた。

 一撃で。


「——っ!」

 葛葉が、吹き飛んだ。


「葛葉——!」

 玄弥が叫んだ。


 鵺は、止まらなかった。

 次の拳が。

 玄弥に向かって。

 来た。


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