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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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繋がり


 玄弥は立った。

 でも。

 まだ侵食が残っている。

 霊力は、完全には戻っていない。

 葛葉から流れ込んだ力で、なんとか立っている状態だった。


「玄弥」

 葛葉が横に来た。

「なんだ」

「無理をするな」

「してない」

「嘘じゃ」

 葛葉の目が、玄弥を見た。

「お主の霊力、まだ半分も戻っておらん」

「……わかってる」

「わかっていて、戦うのか」

「戦う」


 鵺が動いた。

「いいぞ——!」

 霧が、また膨れ上がる。

「まだ戦うか——! 弱ぇのに——!」

「……っ」


 玄弥は刀を構えた。

 霊力を、刀に流す。

 でも。

 いつもより、重い。

 いつもより、遅い。

 ——まだ身体が、完全には動かない。


「玄弥、下がれ——!」

 葛葉が前に出た。

 尾を広げる。

「わらわが——」

「待て」

 玄弥は葛葉の肩を掴んだ。

「葛葉も、霊力が削れてる」

「……」

「二人とも、満身創痍だ」

「だからこそ、わらわが——」

「だからこそ、二人で戦う」


 葛葉は黙った。

 少し。

 それから。

「……莫迦じゃのう」

「そうかもな」

「お主は本当に、莫迦じゃ」

「何度も言うな」

「何度でも言いたくなるのじゃ」


 鵺の霧が、動いた。

「《冥霧・爪》——!!」

 黒い爪が、五本。

 同時に来る。


 玄弥は刀を振った。

「《紫電》——!」

 一本を弾いた。

 でも。

 二本目が、間に合わない。


 葛葉の尾が、二本目を弾いた。

「——っ」

 三本目が、来る。

 玄弥が躱す。

 四本目が、来る。

 葛葉の尾が弾く。

 五本目が——


 玄弥と葛葉、同時に動いた。

 刀と尾が。

 重なって。

 五本目を、斬り裂いた。


「……」

 玄弥は息を吐いた。

「息、合ってきたか?」

 葛葉の尾が、静かに揺れた。

「当然じゃ」


 でも。

 玄弥の視界が、少し歪んだ。

 ——まずい。

 侵食が、また広がっている。

 葛葉から流れ込んだ霊力が、追いついていない。

 このままでは——


「玄弥——!!」

 葛葉の声が、聞こえた。

 でも。

 遠かった。

 視界が、暗くなっていく。

 身体が、傾く。

 ——また、倒れる。


 地面が、近づいてくる。


 その瞬間。

 葛葉の手が、玄弥の腕を掴んだ。

「——起きろ、玄弥——!!」


 でも。

 声が、遠い。

 意識が、遠のいていく。

 侵食が、深い。

 ——もう、限界か。


 暗闇が、広がった。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 ただ。

 静かだった。


 その暗闇の中で。

 声が、聞こえた。


「——玄弥」


 葛葉の声だった。

 遠くから。

 でも、確かに。


「——聞こえるか、玄弥」


 聞こえる。

 でも。

 答えられない。

 声が、出ない。


「——契約の繋がりを、感じろ」


 繋がり。

 玄弥は意識の中で、探した。

 暗闇の中を。

 手探りで。


 あった。

 金色の糸が。

 暗闇の中に。

 一本だけ。

 光っていた。


「——そうじゃ、それがわらわとの繋がりじゃ」


 葛葉の声が、糸の向こうから聞こえる。

 玄弥は、その糸を掴んだ。

 温かかった。

 柔らかかった。

 でも。

 強かった。


「——わらわは、ここにおる」


 糸が、光を強めた。

 暗闇が、少しずつ薄くなっていく。


「——玄弥」

 葛葉の声が、近くなった。

「——起きろ」


 玄弥は目を開けた。


 葛葉の顔が、すぐ近くにあった。

 心配そうな顔だった。

 でも。

 すぐに、いつもの顔に戻った。

「……目が覚めたか」

「……葛葉」

「うむ」

「俺、倒れてた?」

「倒れかけておった」

「……迷惑かけたな」

「当然じゃ」


 玄弥は起き上がった。

 まだ、侵食は残っている。

 でも。

 さっきより、軽い。

 さっきより、動ける。

「……身体が、軽くなった」

「契約の繋がりを使ったからじゃ」

「繋がり?」

「お主が暗闇の中で掴んだ糸じゃよ」


 葛葉は続けた。

「契約は、ただの契約ではない。繋がりじゃ」

「繋がり」

「わらわとお主は、霊力だけでなく存在そのものが繋がっておる」

「存在?」

「そうじゃ。だから、お主が消えかけても、わらわが引き戻せる」


 玄弥は自分の手を見た。

 侵食が、薄くなっている。

 完全には消えていないが。

 さっきより、確実に薄い。


「繋がりが、侵食を押し返したのか」

「そうじゃ」

「……ありがとう、葛葉」

「礼はいらんと言うておる」


 鵺が、静かに笑った。

「繋がりか——」

「なんじゃ」

「いいもんだな、それ」

 鵺の声が、どこか寂しそうだった。

「俺にはわからんが」


 玄弥は立ち上がった。

 刀を、握り直した。

 霊力を、流す。

 さっきより。

 確実に。

 力が戻っている。


 そして。

 何かが、見えた。


 遠見が、動いた。

 さっきより、鮮明に。

 さっきより、はっきりと。


 ——鵺の霧の中に。

 ——弱点が、見える。

 ——霧を維持している核が。

 ——そこに。


「……見えた」

 玄弥は呟いた。

「なにが見えた」

「鵺の弱点」

 玄弥は鵺を見た。

「霧の核の位置が、見える」


 葛葉の目が、鋭くなった。

「遠見が、鮮明になったか」

「ああ」

「契約の繋がりを使ったことで、霊力の流れが整ったのじゃろう」

「……そういうことか」


 玄弥は刀を構えた。

 遠見で、鵺の霧を見る。

 核が。

 はっきりと。

 見えている。


「葛葉」

「うむ」

「今度こそ、霧の核を突く」

「わかった」

「一撃で、決める」

「うむ」


 葛葉の尾が、全て広がった。

 金色の霊気が、満ちていく。

 玄弥の刀が、紫色に輝く。


 鵺が、霧を広げた。

「来い——!」

 その声が、高揚していた。

「もっと来い——! もっと本気を見せろよぉ——!!」


 玄弥は踏み込んだ。

 遠見で見た。

 核の位置が。

 霧の中心が。

 はっきりと。


「葛葉——!!」

「——《狐火・爆》——!!」


 金色の霊気が、炸裂した。

 霧が、揺れる。

 核が、露わになる。

 一瞬だけ。

 でも。

 それで十分だった。


「——《紫電》——!!!」


 玄弥の刀が。

 霧の核を。

 真っ向から。

 斬り裂いた。


 光が、炸裂した。

 霧が、崩れた。

 中心から。

 外側へ。

 一気に。


「——っ!!!」

 鵺の声が、歪んだ。


 霧が、消えた。

 平原に。

 青い空が。

 広がった。


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