表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
九尾との出会い、覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/207

幕間 秩序を乱す者の末路

 闇には、常に酒の匂いがした。

 甘く、重く、腐りかけた香り。

 酔いを誘い、同時に理性を溶かす臭気。


 そこは、人の世から切り離された鬼の座。

 巨大な酒がめが幾つも並び、

 赤黒い妖気が天井に澱んでいる。


 その中央。

 胡坐をかき、酒を煽る影があった。

 ――酒呑童子。

 四大天魔が一柱。

 妖怪の王に直接仕える者。

「……ふん」


 盃を置き、低く鼻を鳴らす。

 その前に、震える影が跪いていた。

 鬼の下位兵。報告役だ。

「申し上げます……」


 声が、掠れている。

「配下の一体が……戻りません」

 酒呑童子は、興味なさそうに盃を傾けた。


「戻らぬ?」


「……はい」


「命令は出したか」


「……いえ」



 その瞬間。

 空気が、凍った。

 報告役の鬼は、即座に額を地につける。

「も、申し訳……!」


 だが、もう遅い。


 酒呑童子は、立ち上がらなかった。

 ただ、視線を向けただけだ。

「命令もなく、動いたか」


 静かな声。

 それが、何よりも恐ろしい。

「身の程を知らぬ愚物だな」


 鬼は、必死に言葉を紡ぐ。

「ち、力を誇示したかったのかと……最近、人間側に異変が――」


「異変?」

 酒呑童子の口角が、わずかに上がった。

「その判断を、下の鬼風情がするか?」


 盃を、静かに置く。

 ただそれだけで、報告役の身体が震え出した。



 酒呑童子は、指を一本立てた。

 それだけで。

 影の奥から、別の鬼が引きずり出される。

 血と泥にまみれ、妖怪が乱れきった存在。

 ――戻らなかった配下だ。


「ひ……っ」

 喉から、か細い声が漏れる。


「しゅ、酒呑様……!」

 必死に這い、縋ろうとする。


「わ、私は……王のために……!」


「王の名を、軽々しく口にするな」

 酒呑童子は、ゆっくりと立ち上がった。

 影が、床を覆う。

 一歩近づくだけで、部下の霊気が軋んだ。


「貴様は、ただ己の欲で動いた」

 酒の匂いが、濃くなる。


「功を焦り、許されぬ獲物に手を出した」


「お、お許しを……!一度だけ……!」

 酒呑童子は、ため息をついた。


「……つまらん」



 次の瞬間。

 酒がめが、砕けた。

 溢れ出したそれは、酒ではない。


 ――呪いだ。

「――ぎゃああああああっ!!」


 部下の身体が、内側から崩れ始める。

 骨が軋む。

 霊が溶ける。

 存在そのものが、削られていく。


「勝手に動く者は、秩序を腐らせる」

 酒呑童子は、淡々と告げた。


「腐りかけの酒は、捨てるしかないのと同じでな‥消えろ」

 悲鳴は、次第に細くなり――

 消えた。

 そこには、何も残らない。

 魂の欠片すら。



 静寂。

 酒呑童子は、再び盃を取った。

「……人間側に異変、か」


 独り言のように呟く。

「封印の歪み。王の因果に揺らぎが出ているのは事実だ」

 だが。


「それを確かめるのは、我らの役目ではない」

 四大天魔は、駒ではない。

 だが、勝手に動く存在でもない。


「時が来れば、王は解放される」

 盃を、煽る。

「それまでに、余計な波紋を広げるな」

 報告役の鬼は、声も出せず頷いた。


 酒呑童子は、影の奥を見つめる。

 人の姿はない。

 だが――確かに何かが、動き始めている。

「……面倒な芽だ」


 そう呟き、笑った。

「九尾と契約した人間か」

「まだ青い。まだ弱い」


 だが、と続ける。

「放置すれば――育つ」

 芽は、小さいうちに摘む。

 それが、鬼の理だ。


「次に動くのは、勝手な下ではない」

 酒の匂いが、再び闇を満たす。


「正規の一手だ」

 盃が、傾く。

 赤黒い雫が、床を伝った。



 その下で。

 人知れず一つの命が、完全に消え去ったことを。

 人間側は、まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ