見える未来
葛葉の感覚が、流れ込んでくる。
未来視とは違う。
もっと、温かい感覚だった。
葛葉が見ているものが、玄弥の頭に直接届く。
鵺の動き。
霧の流れ。
妖気の揺らぎ。
「……これが葛葉の見え方か」
「そうじゃ」
「俺の未来視より、情報量が多い」
「当然じゃ。わらわは何百年も戦ってきたのじゃから」
鵺が動いた。
葛葉の感覚が告げる。
——左から来る。
玄弥は左に刀を向けた。
鵺の霧が、左から来た。
弾いた。
「——っ、弾いた」
「うむ」
「葛葉の感覚、当たってる」
「当然じゃ」
鵺の笑い声が響いた。
「面白い戦い方するな——!! でも弱ぇ弱ぇ——!! ギャハハ——!!」
鵺が、今度は三方向から同時に来た。
葛葉の感覚が——
——右、上、正面。
玄弥は動いた。
右を刀で弾く。
上を尾で払う。
正面を——
「——《紫電》——!!」
真っ向から、斬り返した。
鵺が、後退した。
「……」
笑い声が、少し止まった。
「三方向全部捌いたか」
「ああ」
「九尾の感覚を借りてるからか」
「そうだ」
でも。
玄弥は気づいていた。
——葛葉の霊力が、さらに削れている。
感覚を共有するのも、霊力を使う。
戦いながら感覚を送り続けるのは、消耗が激しい。
「葛葉」
「うむ」
「無理するな」
「うるさいのじゃ」
「葛葉——」
「わかっておる」
葛葉は静かに言った。
「でも、今は止まれない」
鵺が、また動いた。
今度は速い。
葛葉の感覚が来る。
正面から。
でも。
玄弥の頭の中で、何かが動いた。
葛葉の感覚とは、別の何かが。
遠見だった。
ぼんやりと。
霞みがかって。
でも確かに。
何かが、見えた。
鵺の霧の中に一瞬だけ輪郭が、薄くなる場所がある。
「——っ」
玄弥は目を細めた。
遠見が、告げている。
鵺の霧に、弱点がある。
霧を維持するために、妖力を集中させている場所がある。
そこだけ、逆に霧が薄くなる。
「葛葉」
「うむ」
「遠見が、何かを告げている」
「何が見えた」
「鵺の霧に、弱点がある気がする」
葛葉は少し黙った。
「気がする、か」
「確信はない。でも見えた」
「どこだ」
「霧を維持するために霊力を集中させている場所がある。そこだけ、逆に霧が薄くなる」
葛葉は少し考えた。
「……理にかなっておる」
「そうか」
「霧を広範囲に維持するには、中心に霊力を集中させる必要がある。その中心部分は、霊力が密集しすぎて逆に霧が安定しない」
「つまり」
「その場所を突けば、霧全体が崩れる可能性がある」
「でも」
玄弥は続けた。
「遠見はまだ不鮮明だ。はっきりと見えているわけじゃない」
「どのくらい見える」
「霞みがかってる。場所の特定が難しい」
「ナギサの水鏡と組み合わせられないかのう」
「ナギサ」
玄弥は後ろを向いた。
「なに?」
「霧の中で、密度が一番高い場所を探せるか」
「やってみる」
ナギサは目を閉じた。
霧の流れを、感じ取る。
水分の密度を、探る。
どこが一番濃いか。
どこに霊力が集まっているか。
「……あります」
「どこだ」
「北東、二十メートル先」
「そこが鵺の霧の中心か」
「おそらく」
玄弥は北東を見た。
遠見を、使う。
霞みがかった映像が、頭に浮かぶ。
北東。
霧が一瞬だけ。
薄くなる瞬間が——
「——見えた」
「鵺の霧の中心を突く。そこが崩れれば、霧全体が薄くなる」
「そうじゃな」
葛葉は頷いた。
「ただし、一瞬じゃ。中心を突いても、鵺がすぐに立て直す」
「その一瞬に、全員で攻める」
「うむ」
葛葉は続けた。
「中心を崩すのにも、相当な霊力がいる。ミユキの炎では難しいかもしれん」
「ミユキ」
玄弥はミユキを見た。
「わかってる」
ミユキは脚の侵食を抑えながら、立っていた。
「出力が落ちてる。でも——」
「でも?」
「ナギサと組み合わせれば、どうなるかはわからない」
「ナギサ」
「うん」
「ミユキの炎と、お前の水を組み合わせられるか」
ナギサは少し黙った。
「……試したことはない‥」
「でも」
「でも、特訓中に少し感じたことがある」
「なんだ」
「炎下さんの炎と私の水が近づいたとき、霊力の共鳴が起きました。一瞬だけ」
「共鳴?」
「互いの霊力が、混ざって増幅される感じです」
「それを使える可能性があるか」
「……あるかもしれません」
「やってみるか」
ミユキが口を開いた。
「やる」
即答だった。
「ミユキ——」
「どうせ霊力が落ちてる。普通にやっても中心には届かない。なら賭けた方がいい」
「…………」
「やる、でいいでしょ」
玄弥は全員を見た。
葛葉が、静かに頷いた。
ナギサが、静かに頷いた。
ミユキが、腕を組んだ。
「——行くわよ」
鵺の笑い声が、また響いた。
「何をこそこそ話してるんだ——!! 弱ぇ奴らが作戦 会議か——!! ギャハハ——!!」
「うるさいのう」
葛葉は扇子を開いた。
「鵺」
「あん?」
「次の攻撃で決める」
玄弥は刀を構えた。
未来視は切ったまま。
葛葉の感覚を受け取りながら。
遠見で、鵺の霧の中心を探しながら。
「——行くぞ」
葛葉が動いた。
玄弥が動いた。
ミユキとナギサが、霊力を合わせ始めた。
鵺の霧が、揺れた。




