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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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未来視

 鵺の妖気が、膨れ上がった。

 さっきまでとは、次元が違う重さだった。

 地面が、じわりと沈む気がした。

 空気が、震えている。

 霧が、黒くなった。

 今までの霧より、濃く。

 今までの霧より、重く。


「ギャハハハ——!!」

 笑い声が、止まらない。

「本気出すぞ——!! 覚悟しろよ——!! ギャハハ——!!」

 鵺の輪郭が、大きく広がった。

 霧と一体化するように。

 どこに本体があるのか、わからなくなった。


「玄弥」

 葛葉が静かに言った。

「なんだ」

「未来視を使え」

「使ってる」

「何が見える」

「……」

 玄弥は目を細めた。

 五秒先を、探る。

 鵺が動く。

 右から来る——


「——っ」

 来なかった。

 右ではなかった。

 上から来た。

「——《冥霧・爪》——!!」

 黒い爪が、上から降ってきた。

 玄弥は咄嗟に刀で弾いた。

 衝撃が、腕に走る。

「くっ——!」


「ギャハハ——!!」

「未来視が外れたな——!! 弱ぇ弱ぇ——!!」

 鵺の声が、四方から響く。

「また外れるぞ——!! ギャハハ——!!」


 玄弥は刀を構え直した。

「……また外れた」

「そうじゃな」

 葛葉が横に来た。

「今のは右から来ると見えた」

「うむ」

「なのに上から来た」

「うむ」

「鵺が故意に外してきてる」

「そうじゃ」


「でも」

 玄弥は続けた。

「さっきは未来視通りに動いたら当たった」

「そうじゃった」

「つまり」

「鵺は、お前が未来視をどう使うかを読んでいる」


 玄弥は黙った。

 ——未来視通りに動けば、逆手に取られる。

 ——未来視の逆を突けば、また読まれる。

 ——どちらに動いても、鵺には読まれる。

「……詰んでるじゃないか」


「いや詰んでおらん」

「どういうことだ?」


「鵺がお前の未来視を読めるのは」

 葛葉は続けた。

「お前が未来視に頼りすぎているからじゃ」


「頼りすぎ?」

「未来視が見えた瞬間、お前の身体がそちらに反応する。鵺はその反応を見ている」

「……身体が先に動いてるのか」

「そうじゃ。未来視で見た瞬間に、微妙に重心が動く。鵺はその重心の動きを見て、逆を突いてくる」


「じゃあ」

 玄弥は考えた。

「未来視を見ても、身体を動かさなければ」

「鵺には読めない」

「でも未来視を見て身体を動かさないのは——」

「難しいのう」

 葛葉はあっさり言った。


「反射的に動いてしまうものじゃ」

「……どうすればいい」

「考えろ。お前の問題じゃ」

「葛葉——」

「わらわにもわからんことはあるのじゃ」


「ギャハハ——!!」

 鵺の笑い声が、また上がった。

「何してんだ、仲良く話し合いか——!! 弱ぇ弱ぇ——!! ギャハハ——!!」


 玄弥は鵺を見た。

 霧の中に、輪郭が揺れている。

 どこに本体があるか、わからない。

 未来視を使う。

 五秒先が——


 見えた。

 鵺が、左から来る。

 玄弥は意識して、身体を動かさなかった。

 重心を、変えない。

 呼吸を、変えない。

 ただ、見えた未来を頭の中に留める。

 鵺が動いた。

 左から——

 来なかった。


 今度は、正面から来た。

「——っ!!」

 玄弥は刀を正面に向けた。

 ギリギリで、弾いた。


「……」

 鵺が、静かになった。

 笑い声が、一瞬止まった。

「……正面に刀を向けた」


 鵺は呟いた。

「左から来ると見えたはずだ。なのになぜ正面を向いた」

「……なるほど」


 玄弥は息を整えた。

「身体を動かさなかったのに、また外れた」

「そうじゃな」


 葛葉が静かに言った。

「今度は鵺が、お前の身体の反応がないことに気づいた。だから未来視に映った方向とは別に動いた」

「……いたちごっこだ」

「そうじゃ」

「ギャハハ——!!」

 笑い声が、また戻ってきた。

「気づいたか——!! 未来視じゃ俺には勝てないぞ——!! ギャハハ——!! 弱ぇ弱ぇ——!!」


 玄弥は刀を下ろした。

 ——未来視は、鵺には通じない。

 ——身体を動かしても、動かさなくても、読まれる。


 ——なら。

「葛葉」

「うむ」

「未来視を使わなかったら、どうなる」

「どういう意味じゃ」

「未来視を完全に切る。鵺に読ませる情報をゼロにする」


葛葉は少し黙った。

「……面白い発想じゃ」

「でも未来視なしで鵺と戦えるか、自信はない」

「そうじゃろう」

「でも未来視を使っても通じない」

「そうじゃ」

「なら、使わない方がマシかもしれない」


 鵺が動いた。

 今度は、速い。

 さっきまでより、明らかに速い。

「考える暇を与えないぞ——!!」


「——《冥霧・乱》——!!」

 霧が、無数の棘になった。


 四方八方から。

 全方向から。

 一斉に来た。

「——っ!!」


「葛葉——!!」

「——《狐火・爆》——!!」


 金色の霊気が爆発した。

 霧の棘を、吹き飛ばす。

 でも。


 全部は防ぎきれなかった。

 玄弥の肩を、一本が掠めた。

 ミユキの脚を、一本が掠めた。

「——っ」

「——くっ」


「当たったぞ——!! 弱ぇ弱ぇ——!! ギャハハハハ——!!!」


「玄弥、ミユキ——!」

ナギサが駆け寄った。

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃないです」

「掠めただけだ」

「侵食が始まってます」


 玄弥は肩を見た。

 黒ずんでいた。

 冥界の妖気が、霊力を削いでいく。

「……また侵食か」

「ミユキさんも脚が」

「わかってる」

 ミユキは歯を食いしばった。

「動ける」

「無理しないでください」

「動けるって言ってんでしょ。」

 玄弥は鵺を見た。

 霧の中で、笑い声が続いている。

 未来視は通じない。

 霊力は削られている。

 侵食が始まった。

——まずい状況だ。


「ナギサ」

「はい」

「侵食を洗い流せるか」

「やります」

「頼む」


 ナギサが水の霊力を込めた。

 玄弥の肩に。

 ミユキの脚に。

 黒ずみが、薄くなっていく。

「……助かる」

「完全には無理ですが」

「十分だ」


 葛葉が玄弥の隣に来た。

「玄弥」

「なんだ」

「未来視を切る案、やってみるかのう?」

「ああ、それしかない」


「ただし」

 葛葉は続けた。

「未来視なしで戦うのは、今の状態では危険じゃ」

「わかってる」

「代わりに、わらわが補う」

「どうやって」


 葛葉は玄弥を見た。

「わらわの感覚を、お主に流す。未来視の代わりに、わらわが鵺の動きを読む。その情報をお主に直接送る」

「……できるのか」

「やったことはないのう」

「ぶっつけ本番か」

「そうじゃ」

「……葛葉らしい」

「文句があるか?」

「ない」


 鵺の笑い声が、また響いた。

「まだ立ってるか——!! しぶとい弱ぇ奴らだ——!! ギャハハ——!!」

「うるさいのう」


葛葉は扇子を開いた。

「玄弥」

「ああ」

「未来視を切れ」

「切る」

「わらわの感覚を受け取れ」

「受け取る」


 玄弥は目を閉じた。

 未来視を、切った。

 五秒先が、見えなくなった。

 代わりに。

 葛葉の感覚が、流れ込んできた。

 ——鵺が動く。

 ——右だ。

 ——今だ。

「——《紫電》——!!」

 玄弥は右に踏み込んだ。

 刀を、振り下ろした。

 鵺の霧を、斬った。


 霧が、割れた。

 その先に、鵺の輪郭が見えた。

「——っ!」

 鵺が、慌てて躱した。

 今度は、完全に躱された。

 でも。

「……」


 鵺が、黙った。


 笑い声が、止まった。

「……未来視を切ったのか?」

「ああ」

「代わりに九尾の感覚を使った」

「そうだ」


 しばらく、沈黙があった。

 そして笑いだした、今度は、さっきと違う笑い方だった。


 狂ったような笑いではなく。

 どこか、本当に楽しそうな笑いだった。

「面白ぇ——!! 未来視を自分で切るとは——!! ギャハハ——!!」

「……」

「弱ぇ弱ぇとか言ったけど、訂正してやるよ」


 鵺の声が、少し変わった。

「お前ら、面白いなぁ」

 玄弥は刀を構えた。

「褒め言葉として受け取っておく」

「そうしろ」


 鵺の妖気が、また膨れ上がった。

「でも——まだ足りないんだわ」


 霧が、さらに濃くなる。

「俺を倒したいなら——もっと来い、なぁ?」


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