嗤う鵺
「葛葉」
「うむ」
「霊力、削れてるか」
「……少し」
「正直に言え」
「……思ったより削れておる」
葛葉は静かに認めた。
「《冥霧・極》は、わらわとも相性が悪い。当たれば力が一時的に下がる」
「だから避けなかった」
「避けていたら、お主たちが巻き込まれておった」
玄弥は拳を握った。
葛葉が削れている。
このまま続ければ。
「鵺」
玄弥は前に出た。
「ああ?」
「葛葉から離れろ」
「何様だよお前——!!」
「俺が相手だ」
「弱ぇ小僧が——!! ギャハハ——!!」
「玄弥」
葛葉が静かに言った。
「なんだ」
「今は駄目じゃ」
「でも葛葉が——」
「わらわはまだ戦える」
「でも——」
「玄弥」
葛葉は振り返った。
その目が、真剣だった。
「今お主が出ても、霊力が乱れている状態では届かん」
「……っ」
「今は——わらわを信じろ」
「ギャハハ——!!」
鵺の笑い声が、また響いた。
「仲間割れか——!! いいぞいいぞ——!! 弱ぇ弱ぇ——!! ギャハハハ——!!」
「うるさいのう」
葛葉は鵺を向いた。
「笑っていられるのも、今のうちじゃ」
「怖い怖い——!! ギャハハ——!!」
「ミユキ、ナギサ」
葛葉は二人を見た。
「はい」
「なんですか」
「玄弥の霊力を整えてやれ」
「整える?」
「乱れておる。このまま戦わせるわけにはいかん」
ミユキはすぐに玄弥の隣に来た。
「……霊力、乱れてるの」
「気にするな」
「気にする」
ミユキは手を玄弥の背中に当てた。
炎の霊力が、静かに流れ込む。
「……熱い」
「我慢して」
「これ、整えてるのか」
「やったことないけど、やってみてる」
「ミユキ——」
「うるさい、黙ってて」
ナギサが反対側に来た。
「水の霊力で補助します」
「ナギサまで」
「西園寺くんが倒れると困ります」
「倒れない」
「倒れる可能性がある時は、対処します」
「……」
「黙っていてください」
霊力が、整っていく。
乱れていた流れが、落ち着いていく。
二人の霊力が、玄弥の霊力を補正していく。
「……これは」
「特訓の成果よ」
ミユキが言った。
「四十三年、無駄じゃなかったでしょ?」
「……そうだな」
「感謝しなさい」
「してる」
「言葉で言って」
「……ありがとう」
「よろしい」
その間も。
葛葉と鵺の戦いは続いていた。
「——《狐火・連爆》——!!」
葛葉が尾を五本展開した。
五方向から、同時に霊気の奔流が走る。
鵺が、全方向に霧を張る。
奔流が、霧に阻まれる。
でも。
一本が、霧を突き破った。
「——っ」
鵺が、吹き飛んだ。
また笑い声が上がった。
「痛ぇ痛ぇ——!! やるじゃねえか——!! これが九尾か——!! ギャハハハハ——!!」
鵺の妖気が、さらに膨れ上がった。
本気に近づいている。
笑い声が大きくなるほど、本気に近づいている。
「……葛葉」
玄弥は霊力が整ったことを確認した。
刀を、握り直した。
「うむ」
「次は俺も行く」
「……わかった」
「葛葉一人に任せない」
「莫迦め、粋がるでない」
葛葉は小さく笑った。
「そういうところが、嫌いではないのじゃがのう」
「鵺」
玄弥は前を向いた。
刀に、霊力を込める。
四本の尾が、金色に輝く。
「今度は二人でかかる」
「二人でか——!! 弱ぇ弱ぇ——!! 来い来い来い——!! ギャハハハハ——!!!」
葛葉が隣に来た。
「玄弥」
「なんだ」
「合わせろ」
「ああ」
二人が、同時に動いた。
葛葉の霊気が、玄弥の刀に流れ込む。
九尾の力が、霊装の刀に宿る。
刀が、金色と紫色に輝く。
「——《紫電》——!!」
斬撃が、鵺に向かった。
さっきより速く。
さっきより重く。
さっきより、深く。
鵺は躱した。
でも。
完全には躱しきれなかった。
刀が、鵺の肩を深く抉った。
「——っ!!」
鵺の輪郭が、大きく揺れた。
霧が、乱れた。
平原に、薄紫の空が見えた。
「……やるな」
鵺は肩を見た。
紫色と金色の光が、傷口に残っている。
「九尾の霊気と霊装が混ざった斬撃か」
「そうだ」
「痛ぇなぁ‥」
「次も当てる」
鵺は、静かになった。
笑い声が、止まった。
玄弥は警戒した。
——笑いが止まった。
——これは。
「……本気になる前兆か」
「そうじゃ」
葛葉が静かに言った。
「気をつけろ、玄弥」
次の瞬間。鵺の妖気が。
今まで感じたことのないほど、膨れ上がった。
「ギャハハハハハハ——!!!!」
笑い声が、平原全体に響いた。
今まで聞いたことのない大きさで。
今まで聞いたことのない狂い方で。
「痛ぇ痛ぇ痛ぇ——!! 久しぶりだぞこれ——!! 久しぶりに痛かったぞ——!!」
鵺の輪郭が、大きく膨れ上がった。
「弱ぇ奴らに痛みを感じさせられるとはな——!! ギャハハ——!!」
「……っ」
「面白ぇ面白ぇ——!! だから殺すのが惜しくなってくるんだよな——!! ギャハハハハ——!!!」
玄弥は刀を構えた。
霊力を、全身に張り巡らせる。
葛葉の霊気が、刀に流れ込んでくる。
ミユキとナギサが、後方で構えている。
鵺の霧が、広がった。
さっきまでとは、また次元が違う。
黒い霧が、平原全体を覆い始めた。
「さあ——本気を見せてやるよ——!!」
笑いながら。
狂ったように。
「ギャハハハハ——!!!!」
ギャハハギャハハうるさくてすいません‥。




