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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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葛葉と鵺


 鵺の胸に、傷が入った。

 紫色の光が、傷口に残っている。

 霧が、薄くなった。

 鵺が霧を操る集中が、乱れたからだ。


 でも。

 鵺は倒れなかった。

 輪郭が揺れて。

 妖気が、膨れ上がった。


「……やるな」

 鵺は傷口を見た。

「本当にやるな、西園寺玄弥」

 低く、静かに言った。

 その声に。

 今までとは違う何かが、滲んでいた。


「葛葉」

 玄弥は刀を構えたまま言った。

「鵺の妖気、上がってるか」

「上がっておる」

「怒ってるのか」

「違うのう」

 葛葉は静かに言った。


「やつは本気になりかけておるな」

「本気……?」

 ミユキが呟いた。

「今まで本気じゃなかったの」

「様子見じゃ」

「様子見でこの強さ?」

「そうじゃ」

「……冗談でしょ」

「冗談ではないのう」


 鵺は傷口に手を当てた。

 紫色の光が、じわりと広がっている。

「霊装の刀か」

「そうだ」

「霊力を纏った斬撃。痛かったぞ」

「だが残念——もう当たらない」


 その瞬間。

 鵺の輪郭が、大きく広がった。

 霧が、一気に膨れ上がる。

 さっきまでとは、次元が違った。

「——本気で相手をしてやるよぉ、西園寺玄弥ァ」


 そして。

 笑い声が、上がった。

「ギャハハ——!!」


 玄弥は思わず、身構えた。

 今まで聞いたことのない声だった。

 低く。

 狂ったように。

 腹の底から、絞り出すような笑いだった。

「ギャハハハハ——!!」

「……なんだ、あれ」

 ミユキが呟いた。

「本気になると、ああなるのかしら」

「……みたいだな」


「さあ来い来い来い——!!」

 鵺の霧が、爆発するように広がった。

 平原全体を、包み込むように。

「弱ぇ奴らをまとめて相手にしてやるよ——!!」

「……弱ぇ、か」

 玄弥は前を向いた。


「葛葉」

「うむ」

「俺が行く」

「待て」

 葛葉が、前に出た。

「葛葉?」

「お主は下がれ」

「なんで——」

「下がれと言うておる」


 葛葉の声が、いつもと違った。

 からかいが、ない。

 余裕が、ない。

 ただ、静かで。

 重かった。

「葛葉」

「玄弥」

「お前が出るのか」

「そうじゃ」


「……俺も——」

「今のお主では届かん」

 葛葉は振り返らなかった。

「鵺が本気になった。今の状態では霊力が足りない」

「でも——」

「信じろ」

 静かに、言った。

「わらわを」


 玄弥は黙った。

 刀を、下ろした。

「……わかった」

「うむ」

「無茶するな」

「するのう」

「葛葉——」

「冗談じゃ」

 葛葉は少しだけ笑った。

 それから。

 前を向いた。


 九本の尾が。

 全て、広がった。

 金色の霊気が、爆発するように溢れ出す。

 霧が、押し返される。

 周囲の空気が、震える。

 地面が、小さく揺れる。


「——久しぶりじゃのう、鵺」

 葛葉は静かに言った。

「久しぶりに、わらわの本気に近いものを見せてやるのじゃ」

「九尾——!!」

 鵺の笑い声が、また上がった。

「ギャハハ——!! 九尾が本気出すって言ってるぞ——!! 面白ぇ面白ぇ——!!」

「……」

「来い来い来い——!! どうせ大したことないんだろ——!! ギャハハ——!!」


 葛葉の目が、細くなった。

「……言うてくれるのう」


扇子を、ゆっくりと閉じた。

「ならば見せてやるのじゃ」


 葛葉が動いた。

 音もなく。

 一瞬で。

「——《狐火・爆》——!」


 金色の霊気が、鵺に向かって炸裂した。

 爆発するように。

 光が、平原全体を照らした。

 霧が、吹き飛んだ。

 半径五十メートルの霧が。

 一瞬で、消えた。


「——っ」

 鵺が、吹き飛んだ。

 大きく。

 三十メートルは後退した。


「ギャハハ——!!」

 でも、笑い声が止まらなかった。

「痛ぇ痛ぇ——!! やるじゃねえか九尾——!!」

 鵺は立て直しながら、笑い続けた。

「でも弱ぇ——!! これが九尾の本気か——!! ギャハハハハ——!!」

「……」

 葛葉の眉が、わずかに動いた。


 鵺が動いた。

 今度は速い。

 さっきまでとは、桁違いの速さで。

「——《冥霧・爪》——!!」

 黒い霧が、鋭い爪の形になった。

 五本の爪が、葛葉に向かって来る。


 葛葉は躱さなかった。

 尾を二本、交差させた。

「——《狐火・盾》」

 金色の盾が、爪を受け止めた。

 衝撃が、走った。

 地面が、大きく抉れた。

 でも。

 葛葉は動かなかった。

「……防いだか」

「まだまだじゃ」


 葛葉が反撃した。

 尾を三本、同時に展開する。

「——《狐火・三連》——!」

 三方向から、同時に霊気の奔流が走った。

 鵺は右に躱した。

 でも、三本目が掠めた。

「——っ」

 鵺の輪郭が、大きく揺れた。


「ギャハハ——!!」

 また、笑い声が上がった。

「掠っただけじゃねえか——!! それが九尾の攻撃か——!! 弱ぇ弱ぇ——!! ギャハハハ——!!」

「……」

 葛葉は答えなかった。

「もっと来い来い——!! もっと本気出せよ九尾——!! ギャハハ——!!」


「——《冥霧・極》——!!」


 鵺の霧が、変化した。

 広がっていた霧が。

 一点に、収束し始めた。

 直径一メートルほどの、真っ黒な球になった。

 その密度が、異常だった。

 光を吸い込むように。

 音すら、消えていく。


「葛葉——!」

 玄弥が叫んだ。

「わかっておる——!」

 葛葉は全ての尾を前に集めた。

「——《狐火・壁》——!!」

 金色の壁が、黒い球を受け止めた。


 ぶつかった瞬間。

 衝撃が、平原全体を揺らした。

 草が、根こそぎ吹き飛んだ。

 地面が、大きく抉れた。

 玄弥たちが、吹き飛びそうになる。

「——っ!!」

 玄弥は地面を踏みしめた。

 尾でミユキとナギサを支えた。


 煙が、晴れた。

 葛葉が、立っていた。

 でも。

 尾の一本が、薄くなっていた。


「葛葉——!!」


「大丈夫じゃ、大事ない」

「でも尾が——」

「かすり傷じゃ」


「ギャハハ——!!」

 鵺の笑い声が、また響いた。

「九尾の尾が薄くなったぞ——!! 弱ぇ弱ぇ——!! これが最強の妖怪か——!! ギャハハハハ——!!!」


 玄弥は、鵺を見た。

 笑い続けている。

 狂ったように。

 本気に近づくほど、笑いが大きくなる。


 ——あれが、鵺の本気の姿なのか。

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