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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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ナギサの水鏡


 霧の中で四人が揃った。

 鵺の気配が、四方から感じられる。

 どこにいるのか、わからない。

 でも。


「ナギサ」

 玄弥が言った。

「頼めるか」

「はい」


 ナギサは目を閉じた。

 霊力を、水に込める。

 霧も、水分だ。


 空気中の水分を、全て感じ取る。

 霧の流れを。

 霧の濃淡を。

 霧の中で動く、何かの気配を。


「……見えます」

「どこだ」

「今は北西。でも動いています」

「方向は」

「南に向かっています」

「速さは」

「……ゆっくりです。こちらを観察している」


 葛葉が扇子を開いた。

「わらわにも、うっすら感じるのう」

「水鏡で位置を把握して、葛葉が動きを封じる。それからミユキが霧を一点突破する」


「《蒼炎刃》を最大出力で一点に集中させれば、霧を割れると思います」

 ナギサが静かに続けた。

「霧は水分で出来ています。炎下さんの炎なら、蒸発させられるはずです」

「やってみる価値はあるわね」


「問題は」

 玄弥が言った。

「霧を割った後、鵺が動くまでの時間がどのくらいあるか」

「五秒、もあれば上出来じゃろう」

「五秒あれば十分だ」


「未来視を使うのか」

「使う。ただし——」

 玄弥は刀を握った。


「今回は見えた未来通りに動かない」

「どういうことだ」

「鵺は俺の未来視を知っている。見えた未来とは逆の動きをしてくる」

「なら」

「見えた未来の、さらに逆を突く」


 ミユキが眉を寄せた。

「頭こんがらがってくるわね」

「シンプルに言うと」

「言って」

「鵺は俺の未来視を逆手に取ってくる。なら俺はその逆手を、さらに逆手に取る」


「……つまり?」

「未来視で見えた通りに動く。それが逆に、鵺の意表を突く」

「なんか騙し合いみたいね」

「そうだ」


「ナギサ」

「はい」

「鵺の位置、今は」

「東に移動しました」

「速さは」

「少し速くなっています」

「……動き出した」

「来ます」

「いつだ」

「……三十秒以内かと」


 玄弥は刀を抜いた。

 霊装の刀が、紫色に光る。

「ミユキ」

「わかってる」

 青い炎が、両手に集まる。

「葛葉」

「うむ」

 九本の尾が、静かに広がる。


「ナギサ、頼む」

「はい」

 ナギサは霊力を全身に巡らせた。

 水の剣を構えながら。

 霧の流れを、感じ続ける。


「——来ます」

 静かに、告げた。

「北から!」


 霧が揺れた。

 北から、黒い気配が来る。

「ミユキ——!」

「——《蒼炎刃》——!!」


 青い炎が、一点に収束した。

 炎の刃が、極限まで絞られて。

 北の霧に向かって。

 一直線に。


 霧が、割れた。

 青い炎が通った場所だけ。

 トンネルのように。

 霧が蒸発して。

 視界が、開けた。


「——見えた」

 鵺がいた。

 霧の中で、動いていた。

 でも。

 霧が割れたことで、その姿が見える。


「玄弥——!」

「行く——!」


 玄弥は踏み込んだ。

 未来視を使う。

 五秒先が見えた。

 鵺が右に躱す。

 ——なら。

 俺も右に行く。


「《紫電》——!」

 刀を振り下ろした。

 霊力を纏った斬撃が。

 紫色の光を帯びて。

 鵺に向かって。


 鵺は右に躱した。

 玄弥も右に踏み込んでいた。

 刀が、鵺の腕を掠めた。

「——っ」

 鵺の声が、初めて歪んだ。


 静寂が落ちた。

 霧の中に。

 玄弥と鵺が、向かい合っていた。

 鵺は自分の腕を見た。

 掠めた場所に、紫色の光が残っている。


「……当てたか」

「ああ」

 玄弥は刀を構えたまま言った。

「未来視の逆手を、逆手に取った」


 鵺は少し黙った。

 それから。

「——面白い」

 低く、呟いた。


「未来視で見えた通りに動くとは、思わなかった」

「そうだろ」

「逆を突かれた。認めよう」

 鵺の目が、細くなった。

「だが——」


 霧が。

 さらに濃くなった。

 さっきまでとは、比べ物にならないほど。

「まずい——!」

「ナギサ、鵺の位置は——!」

「——見えません」


 ナギサの声が、焦りを帯びた。

「霧が濃すぎて、水鏡でも捉えられません」

「どういうことだ」

「……霧の密度が、上がっています。水分の流れが読めない」


「少し本気を出してやった」

 鵺の声が、霧の中に溶けた。

「さっきまでは、まだ余裕があった」

「……っ」

「お前たちは面白い。認めよう」

 声が、四方から響く。

「だからこそ、ここで終わりにしてやろう」


 玄弥は霧の中で刀を構えた。

 ナギサが水鏡で探っているが。

 葛葉が霊気を張り巡らせているが。

 鵺の位置が、わからない。


「玄弥」

 葛葉の声がした。

「なんだ」

「わらわの霊気も、霧に削がれ始めておる」

「……どのくらい」

「時間をかけるほど、不利になる」

「勝負を急げということか」

「そうじゃ」


「ナギサ」

「はい」

「霧の密度が一番高い場所はどこだ」

 ナギサは少し黙った。


「……なぜですか」

「鵺がいるからだ」

「逆じゃないですか。密度が高い場所は——」

「鵺が霧を集中させている場所だ。本体がそこにいる可能性がある」


 ナギサは目を閉じた。

 霧の密度を、感じ取る。

 どこが一番濃いか。

 どこに一番水分が集まっているか。

「……東です」

「確信はあるか」

「……六割」

「十分だ」


「ミユキ」

「わかった」

「東に向けて、もう一回頼む」

「霊力、だいぶ消耗してるわよ」

「一回でいい。それだけでいい」

 ミユキは短く息を吐いた。

「……わかった」


「葛葉」

「うむ」

「霧が割れた瞬間に、鵺の動きを封じてくれ」

「任せよ」

「ナギサは俺の後ろに」

「はい」


 玄弥は東を向いた。

 刀を、構えた。

 霊力を、全身に流す。

「——行くわよ」

「——《蒼炎刃》——!!」


 青い炎が、東の霧を割った。

 視界が、開ける。

 その先に。


 鵺が、いた。

「——《狐火・縛》——!」

 葛葉の霊気が、鵺を包んだ。

 動きを、封じる。

「——っ」

 鵺が、止まった。

 一瞬だけ。

 でも確かに、止まった。


「——《紫電》——!!」

 玄弥が踏み込んだ。

 刀を振り上げる。

 霊力を、最大まで込めて。

 紫色の光が、刀身に走る。

 鵺に向かって。

 真っ直ぐに。


 刀が、鵺の胸を捉えた。

 ではなかった。


 鵺は、葛葉の縛めを破っていた。

 わずかに、身を捩って。

 致命傷を、避けた。

 でも。

 刀は、鵺の胸を深く抉った。

「——っ……」

 鵺の輪郭が、大きく揺れた。


 霧が、薄くなった。

 鵺が霧を操る余裕を失ったように。

 薄紫の空が、少し見えてきた。


「……やるな」

 鵺は、傷を見た。

 紫色の光が、傷口に残っている。

「深い」

「それでも立つのか」

「当然だ」

 鵺の目が、また赤く光った。

「これくらいで終わると思うなよ」

「思ってない」

 玄弥は刀を構え直した。


「でも、届いた」

「うむ」

 葛葉が横に来た。

「今度は、前より届いたのう」


 ナギサが、静かに言った。

「鵺の霧が、薄くなっています」

「傷のせいか」

「霧を操る集中が、乱れているようです」

「今が攻め時だ」


 玄弥は前を向いた。

 刀に、霊力を流す。

 四本の尾が、金色に輝く。

「——もう一度行くぞ」

「うむ」

「いくわよ」

「はい」


 四人が、鵺と対峙した。

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