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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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鵺降臨

 鵺が、現れた。

 黒い霧が、綻びから溢れ出す。

 妖怪どもが、左右に割れた。

 まるで、王の登場を迎えるように。

 霧が、ゆっくりと人の形を成していく。

 輪郭が、曖昧に揺れている。

 でも。


 その目だけが、はっきりしていた。

 赤く。

 冷たく。

 燃えるように。


「——久しぶりじゃないかよ」

 低い声が、平原に響いた。

 風が止まった気がした。

 草が、揺れなくなった。

 空気が、重くなった。


「西園寺玄弥」

 鵺は玄弥だけを見ていた。

 周りの誰にも、興味がない。

 最初から、目的が決まっている目だった。

「待ってたぞ」


「ああ」

 玄弥は前を向いた。

「俺もだ」

 四本の尾が、金色に輝いている。

 霊装が、全身を包んでいる。

 葛葉の力が、傍にある。

「終わらせに来た」


 鵺は笑った。

 歪んだ、冷たい笑みだった。

「終わらせる?」

「ああ」

「——お前が、か」

 妖気が、溢れ出した。

 一気に。

 爆発するように。


 玄弥は、息を呑んだ。

 ——重い。

 分体の牙哭とは、比べ物にならない。

 あの時感じた妖気の比ではない。

 桁が、違う。


「……っ」

 足が、一瞬だけ竦んだ。

 一瞬だけ。

「玄弥」

 葛葉の声がした。

「……わかってる」

 足を、踏み出した。


「まず俺が行く」

「玄弥——」

「葛葉とミユキとナギサは、残りの妖怪を頼む」

「まだ千体以上おるぞ」

「任せる」

「……無茶をするでないぞ」

「する気はない」


 玄弥は鵺に向かって走った。

 未来視が働く。

 鵺が動く——

 五秒先が、見えた。

 右から来る。

 躱して——


「遅い」


 違った。

 右ではなかった。

 下から来た。

 地面から。

 黒い霧が、足元から噴き出した。


「——っ!」

 吹き飛ばされた。

 地面を転がる。

 霊装が、軋む。

「未来視か」

 鵺が、ゆっくりと歩いてくる。

「面白い力だな」


 玄弥は立ち上がった。

「もう一度だ」

 今度は慎重に。

 未来視を全力で使う。

 鵺が動く前の気配を、五秒先を——

「——っ」

 また、違った。

 今度は左から。

 いや、上から。


 両方から、同時に来た。

「ぐっ——!」

 二撃。

 連続で受けた。

 膝をついた。


「なぜだ」

 玄弥は顔を上げた。

「なぜ未来視が外れる」

「気づいたか」

 鵺は足を止めた。


「お前の未来視、見えてるぞ」

「……なに」

「五秒先が見える。それはわかった。なら、五秒先に別の動きをすればいい」

 鵺は静かに言った。

「簡単な話だろ」


 玄弥は固まった。

 ——そういうことか。

 未来視で見えた通りに動いてくる相手には、有効だ。

 でも。

 未来視を知った上で、故意に別の動きをしてくる相手には——

「役に立たない、か」

「賢いな」

 鵺の目が、細くなった。

「それだけか、お前の切り札は」


「そうじゃない」

 玄弥は立ち上がった。

「まだあるだろ」

「見てたぞ、さっき」

「なら——」

「お前の霊力の量も、大体わかった」


 鵺は淡々と続けた。

「綻びを閉じた時の霊力の残滓を見た。大体、把握している」


 玄弥は黙った。

 未来視を対策され。

 霊力の量を把握されている。

 まずい、とは思わなかった。

 でも。

 簡単には勝てない、とは思った。


「……なるほど」

「降参か」

「する気はない」


 玄弥は霊力を流した。

 四本の尾が、全て展開する。

 全身に、葛葉の力が満ちる。

 鵺の妖気が、重くのしかかる。

 それでも。

 足を踏み出した。

「行くぞ——!」


 正面から。

 真っ直ぐに。

 玄弥が踏み込んだ。

 尾が動く。

 一本で攻撃。

 二本で防御。

 三本で牽制。

 四本目で——


「速くなったな」

 鵺が、静かに言った。

 一本目の尾を、片手で掴んだ。

「——っ」

「二本目は」

 右手で弾いた。

「三本目は」

 霧で包んで、消した。

「四本目は」

 玄弥の胸に、黒い霧が叩き込まれた。


 吹き飛んだ。

 今度は、かなり遠くまで。

 地面に叩きつけられて。

 霊装にひびが入る音がした。


「——っあ」

 立ち上がれない。

 全身に、力が入らない。

 霊力が、乱れている。


「どうした」

 鵺が、近づいてくる。

「もう終わりか」

「……終わって、ない」

「そうか」

 鵺は玄弥を見下ろした。


「だが、今日のところはここまでだ」

「……なに?」

「俺はまだ、全力を出していない分かるな?」


 鵺は続けた。

「お前を殺すのは簡単だ。今すぐでもできる」

「なら——」


「だぁが、面白くない」

 鵺の目が、静かに輝いた。

「お前はもっとできるはずだ。その力を全部出してから、殺すのも面白い」

「……」

「本当はここで消すつもりだったが、気が変わった。こりゃ良い玩具だ」


 鵺の霧が、広がった。

 そのまま、綻びの方へ後退していく。

「待て——!」

 玄弥は立ち上がろうとした。

「——っ」

 立てなかった。

 膝が、震えている。

 霊力が、乱れている。


「待てよ、鵺——!」

「次は死ぬかもしれんぞ」

 鵺は振り返らずに言った。

「覚悟しておけ、西園寺玄弥」

 霧が、綻びの中に消えていった。

 残された妖怪たちが、我に返ったように動き出す。


 葛葉が、玄弥の隣に来た。

「玄弥」

「……葛葉」

「立てるか」

「……立てない、今は」

 葛葉は玄弥の腕を取って、支えた。

「鵺に、本気を出させられなかった」

「うむ」

「俺の力じゃ、まだ届かない」

「うむ」

 葛葉は静かに頷いた。

「じゃが」

「なんだ」

「届かなかった、だけじゃ」


 ミユキが駆けてきた。

「玄弥——!」

「大丈夫だ」

「大丈夫じゃない顔してる」

「……そうか」

「立てる?」

「今は無理」

「なら——」

 ミユキが、玄弥の反対側から肩を支えた。


「あたしが支える。ナギサ、右側頼む」

「はい」

 ナギサが静かに来て、右側から支えた。


「……ありがとう」

「礼はあとでいい」

 ミユキはぶっきらぼうに言った。

「今は帰るわよ」

「ああ」


 平原に、静けさが戻ってきた。

 残りの妖怪は、葛葉が片付けた。

 綻びは、まだ開いている。

 でも。

 鵺は、いなくなった。


 玄弥は空を見上げた。

 ——未来視が通じない。

 ——霊力の量を把握されている。

 ——本気すら出させられなかった。

 それでも。


「……次は」

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