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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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決戦準備

 異界の入り口を抜けた瞬間、空気が変わった。

 薄紫の空。

 黒い木々。

 濃密な霊気。


 木の根に、人影があった。

 八岐大蛇が、腕を組んで立っていた。


「来たか」

「久しぶりだな」

 八岐大蛇は、ミユキとナギサを見た。


「……連れてきたのか」

「ああ。この二人と連携の特訓をしたい」

「それと、霊装の強化と顕在化も」

 葛葉が続けた。

「できるか?」


 八岐大蛇は短く答えた。

「できるぞ、ただし、甘くはない」


「まず、今の実力を見せろ」

 八岐大蛇が地面に霊気の紋様を刻んだ。

「三人で、私に挑め」

「……いきなりか」

「当然だ。何ができて何ができないかを見なければ、教えようがない」


 玄弥は霊装を顕在化した。

 ミユキは手の平に炎を灯した。

 ナギサは静かに構えた。

「行くぞ」


 玄弥が先行した。

 八岐大蛇の懐へ刀をを叩き込む——

 躱された。

 ミユキの炎が、八岐大蛇の背後から来る——

 片手で弾かれた。

 ナギサが水の刃を放つ——

 尾で薙がれた。


「——っ」

 三人とも、地面に転がった。


「話にならん」

 八岐大蛇は冷たく言った。


「三人で戦っているのに、全員バラバラだ」

「……」

「玄弥は前に出すぎる。ミユキはタイミングが遅い。ナギサは攻撃が読まれている」

 八岐大蛇は続けた。


「連携というのは、三人が同時に攻撃することではない。互いの動きを補完し、隙を作らず、相手に対応の余地を与えないことだ」


「もう一度やる」

 玄弥が立ち上がった。

「待て」

「なんだ」

「その前に、霊装の話をする」


 八岐大蛇はミユキを見た。

「炎下ミユキ」

「……なに」

「お前の炎は、まだ荒い」

「荒い?」

「炎の形を自在に変えられるか」

「……変えられない」

「温度の調整は」

「できない」

「ならば、それを覚えろ」

 八岐大蛇は地面に炎の紋様を刻んだ。

「炎は破壊だけではない。形を変え、温度を操り、時には守りにもなる」


「水瀬ナギサ」

 八岐大蛇はナギサを見た。

「はい」

「お前の霊装は、まだ顕在化していない」

「……そうです」

「霊力はある。だが形になっていない。なぜだかわかるか」

 ナギサは少し黙った。

「……わかりません」

「恐れているからだ」


 ナギサの目が、わずかに揺れた。

「恐れ?」

「自分の力を、信じきれていない。だから霊装が形にならない」

 八岐大蛇は静かに続けた。

「霊装とは、己の核から生まれるものだ。己を信じろ。それだけで顕在化する」


 一年目。

 特訓が始まった。


 ミユキは炎の形を変える訓練をした。

「炎を球にしろ」

「……っ」

 手の平の炎が、不安定に揺れる。

 球になりかけて、崩れる。

「集中が足りん」

「わかってる——!」

 何度も。

 何度も。

 一年かけて、ようやく球の形が安定した。


 ナギサは霊装の顕在化に挑んだ。

「自分の核を探れ」

「……核」

「お前が何者で、何のために戦うのか。それを見つけろ」

 ナギサは目を閉じた。

 内側を、探る。

 霊力は、ある。

 でも形がない。

 ——私は、何のために。

 答えが、まだ見つからなかった。


 玄弥は二人の動きを見ていた。

「葛葉」

「なんじゃ」

「俺、何かできることあるか」

「見守ることじゃ」

「それだけ?」

「それが一番大事なのじゃ」


 五年目。

 ミユキの炎が、変わってきた。

 球だけではなく、刃の形にもなる。

 壁の形にもなる。

「温度を上げろ」

「……っ」

 炎の色が、赤から青に変わった。

 熱量が、跳ね上がる。

「いいぞ」

 八岐大蛇が初めて、褒めた。

「もう一段階上げられるか」

「やってみる」


 ナギサは、まだ霊装が出なかった。

 焦りが、少しずつ積もっていた。

「……出ない」

「焦るな」

「でも——」

「霊装は焦って出るものではない」

 八岐大蛇は静かに言った。

「お前の中にある答えを、ゆっくり探せ」


 ある日。

 ナギサが水辺に座っていた。

 玄弥が隣に来た。

「……西園寺くん」

「どうした」

「私、役に立ててないですよね」

「そんなことない」

「嘘です」

 ナギサは水面を見た。

「炎下さんは強くなってる。西園寺くんはもっと強い。私だけが——」

「ナギサ」


「お前が一緒に来てくれて、助かってる」

「……どうしてですか」

「お前がいるから、俺も頑張れる」

 玄弥は空を見上げた。

「ミユキもそうだ。二人がいるから、戦える」

「……」

「霊装が出ないことを気にするな。お前はもう十分、強いから」


 ナギサは少し黙っていた。

 それから。

「……ありがとうございます」

 小さく、言った。


 十年目。

 連携訓練が本格化した。

「玄弥が前衛。ミユキが中衛。ナギサが後衛だ」

 八岐大蛇が指示を出した。

「玄弥は懐に入って相手の注意を引け。ミユキは玄弥の隙を炎で補え。ナギサは二人の動きを見て、最適なタイミングで攻撃しろ」


 最初は、やはりバラバラだった。

 玄弥が踏み込むタイミングと、ミユキの炎が合わない。

 ナギサの攻撃が、玄弥と被る。

「——っ、もう一回」

 何度も。

 何度も。

 繰り返した。


 十年目の終わり。

 少しずつ、息が合ってきた。

 玄弥が踏み込む。

 ミユキの炎が、すぐ後から追いかける。

 ナギサの水刃が、隙間を縫って飛ぶ。

「……いいぞ」

 八岐大蛇が頷いた。

「ようやく形になってきた」


 二十年目。

 ナギサに変化が起きた。


 その日。

 ナギサは一人で訓練していた。

 水を操る。

 形を変える。

 でも、霊装にはならない。

「……なんで」

 呟いた瞬間。

 胸の奥で、何かが動いた。


 ——私は、何のために戦うのか。

 答えが、見えた。

 ——守りたいから。

 ——西園寺くんを。炎下さんを。みんなを。

 ——だから、戦う。


 霊力が、爆発した。

 ナギサの周囲に、水が渦を巻いた。

 その水が、形を成していく。

 剣の形。

 盾の形。

 そして——

 淡い水色の装束が、ナギサの身体を包んだ。

「——っ」

 霊装が、顕在化した。


「ナギサ——!」

 玄弥が駆け寄ってきた。

「出たのか」

「……出ました」

 ナギサは自分の手を見た。

 水の剣が、手の中にある。

「やっと、出ました」


 ミユキが、にやりと笑った。

「遅いわよ」

「……すみません」

「謝ることないでしょ。よくやったわ」

 ミユキは腕を組んだ。

「これで、やっと三人揃ったわね」


 三十年目。

 連携が、完成してきた。


 八岐大蛇を相手に、三人で挑む。

 玄弥が前に出る。

 四本の尾を展開して、懐に入る。

 八岐大蛇が反撃しようとした瞬間——

 ミユキの炎が、視界を塞ぐ。

 八岐大蛇が炎を払おうとした瞬間——

 ナギサの水刃が、背後から来る。

「——っ」

 八岐大蛇が、初めてよろめいた。


「……やるな」

 八岐大蛇が、口端を上げた。

「初めて私を動かしたぞ」

「まだ倒せてないけどな」

「当然だ。私を倒せるなら、鵺にも勝てる」


 四十三年目。

 時間的にも最後の特訓だった。


「三人同時に、私に挑め」

 八岐大蛇が構えた。

「全力で来い」


 玄弥は四本の尾を展開した。

 ミユキは青い炎を灯した。

 ナギサは水の剣を構えた。

「行くぞ」


 玄弥が踏み込んだ。

 未来視が働く。

 五秒先に、八岐大蛇が右に動くのが見えた。

「ミユキ、右!」

「わかった!」

 ミユキの炎が、右を塞ぐ。

 八岐大蛇が左に動く——

 ナギサの水刃が、そこを狙っていた。


「——っ」

 八岐大蛇が尾で弾く。

 その一瞬の隙に、玄弥が懐に入った。

「《紫電》——!」

 刀が、八岐大蛇の腹に入った。


 八岐大蛇が、後退した。

 片膝をついた。

「……合格だ」

 静かに、言った。

「四十三年、よく頑張った」


 三人は、地面に倒れた。

 息が、荒い。

 全身に疲労が溜まっている。

 でも。

「……やったな」

 玄弥が笑った。

「やったわね」

 ミユキも笑った。

「……はい」

 ナギサも、小さく笑った。


 葛葉が、三人の前に立った。

「よくやったのう」

 扇子を開いて。

「四十三年、見ておったぞ」

「葛葉」

「うむ」

「俺たち、強くなったか」

「なったのう」

 葛葉は静かに笑った。

「見違えるほどに」


 八岐大蛇が立ち上がった。

「現世に戻る準備をしろ」

「ああ」

「鵺が来るまで、あと二日だ」

「……そうか」

 玄弥は空を見上げた。

 長かった。

 でも、無駄じゃなかった。

「行くぞ、みんな」

「うん」

「はい」


 異界の出口へ向かう。

 薄紫の空が、青い空に変わる。

 現世の風が、肌に触れる。

 炎下家の庭に、戻ってきた。


 炎下家当主が、庭で待っていた。

「……戻ったか」

「ただいま戻りました」

「五日ぶりだな」

「こっちは四十三年ぶりです」

 玄弥は笑った。

「でも、準備はできました」


 ミユキが手の平に炎を灯した。

 青い炎が、刃の形に変わる。

「あたしの炎、強くなったわよ」

 ナギサが水の剣を顕在化させた。

 そして装束が、身体を包む。

「私も、霊装を顕在化できました。」


 炎下家当主が、静かに頷いた。

「……頼もしくなったな」

「ありがとうございます」


 玄弥は空を見上げた。

 鵺が来るまで、あと二日。

 四十三年の特訓が、今ここに活きる。

「来い、鵺」

 呟いた。

「今度は、負けない」


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