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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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境界の綻び2

 玄弥は歪んだ空気を見た。

 そこから、暗い何かが滲み出ている。

 冷たい風が、そこだけ吹いている。


「どのくらいで広がる」

「早ければ今夜中」

「遅ければ」

「一日、といったところかのう」

「時間がないな」

「うむ」


「西園寺」

 ミユキが口を開いた。


「なんだ」

「あたしとナギサも行く」

「危ない」

「知ってる」

「葛葉が今言っただろ。存在が引き裂かれるって」

「知ってる」

 ミユキは真っ直ぐに玄弥を見た。


「あんたが待ってる間、あたしたちも準備してたって言ったでしょ」

「……ミユキ」

「足引っ張らない。だから連れてけ」


 ナギサが、静かに頷いた。

「私も、行きます」

「ナギサまで」

「西園寺くんが一人で行く理由はないです」

「理由はある。危ないからだ」

「危なくない戦いなんて、今まであったんですか」

 玄弥は返す言葉がなかった。


「……なかったな」

「なかったですよね」

「……わかった」

 ため息をついて、頷いた。

「ただ無茶はするな。やばくなったら、すぐ引け」

「西園寺が言う?」

「俺は霊装がある。お前たちと状況が違う」

「理屈はわかる」

 ミユキは腕を組んだ。


「でも嫌だ」

「……ミユキさん」

「うるさい」


 葛葉が、くすりと笑った。

「賑やかな仲間じゃのう、玄弥」

「うるさい」

「うむ、うるさいのう」

「お前に言ったんじゃない」

「わかっておる」

 葛葉は歪んだ空気を見た。

 その目が、静かに引き締まった。


「冥界の綻びを封じる。それが今やるべきことじゃ」

「ああ」

「鵺が来るとすれば、あの綻びを利用するかもしれん」

「こちらから攻める前に、あっちから来るか」

「その可能性はある」


 玄弥は立ち上がった。

 全身に霊力が満ちている。

 四本の尾が、静かに揺れている。

 ミユキとナギサが、隣に立った。

 葛葉が、前に出た。


 歪んだ空気が、ゆっくりと広がりつつある。

「行くか」

「うむ」

 九尾が、金色に輝いた。



 歪んだ空気は、炎下家の裏手に向かうにつれて濃くなった。

 冷たい風が、一方向から吹いている。

 妖気の匂いが、土に染み込んでいる。

 玄弥は足を止めずに歩きながら、葛葉を見た。


「鵺について、聞いておきたい」

「うむ」

「前に鵺の分体が現世にいたよな」

「おったのう」

「分体って何だ。本体と別物なのか」

 葛葉は扇子を開いた。


「妖怪の中には、自分の力を分割して別の存在として動かせるものがおる。鵺クラスでは容易じゃ」

「分体はどのくらい強い」

「本体の二割程度じゃろうのう」

「二割……それで十分強かったけど」

「うむ」

 葛葉は静かに続けた。


「冥界と現世の間には壁がある。強い妖怪ほどその壁を越えられない。本体の鵺では、通常は現世に来られないのじゃ」

「だから分体を送り込んだのか」

「二割の力なら、壁を抜けられる。あくまで分体じゃから、本体は冥界に残ったままでの話じゃがのう」


「じゃあ本体は」

「冥界にいる。今もおそらく」

「本体の力は」

「分体の五倍じゃ」

 玄弥は少し黙った。


「分体でもあれだけ厄介だったのに」

「うむ」

「本体は、それ以上か」

「それ以上じゃ」

 葛葉の声は、変わらず穏やかだった。

 でもその目が、真剣だった。


「ただ」

「なんだ」

「今回の冥界の綻びは、鵺にとっても予想外だったはずじゃ」

「どういうことだ」

「本来、冥界の壁を綻ばせるには、よほどの力がいる。地震程度で綻ぶのは——」

 葛葉は少し、間を置いた。


「妖怪の王の封印が、それだけ緩んできた証拠かもしれんのう」


「妖怪の王……」

 ミユキが呟いた。

「前に酒呑童子がそんなこと言ってたな、復活が近いって」

「誰から聞いた」

「葛葉さんから少し」

「まあのう」

 葛葉は扇子を閉じた。


「封印が解けていくにつれて、冥界の壁も薄くなる。今回のような綻びが、これからも起きるかもしれん」

「つまり」

「今回だけの話ではないということじゃ」

 玄弥は前を向いた。

 歪んだ空気が、さらに濃くなっている。

「まず目の前のことをやる」

「それでよい」


 裏手の林を抜けた先に、それはあった。

 直径二メートルほどの歪み。

 空気が渦を巻いている。

 中心が、暗い。

 ただの暗さではない。

 光を吸い込むような、そういう暗さだった。


「……でかくなってる」

 ミユキが言った。

「さっきより広がってる」

「時間が経つほど広がると言うたじゃろ」

 葛葉は歪みを見ながら、静かに言った。

「封じるには、あの中心に霊力を叩き込む必要がある」

「中心って、あの真っ暗な部分か」

「そうじゃ。あそこが冥界への入り口になっておる。そこを内側から塞ぐのじゃ」

「入らずに外から封じることはできないのか」

「試してみるかのう」


 玄弥は霊力を集めた。

 四本の尾を展開して。

 歪みの中心に向けて、霊力を叩き込む。

 霊力が、中心に触れた瞬間——

 弾かれた。

 強く。


「っ」

「やはりのう」

 葛葉は静かに言った。

「外からでは届かん。冥界の入り口は、内側からでないと封じられないのじゃ」

「構造上の問題か」

「そうじゃ。扉は内側から閉めるものじゃからのう」

「……なるほど、理屈はわかった」

 玄弥は歪みを見た。

 暗い中心が、ゆっくりと広がっている。


「入るしかないな」

「その前に」

 葛葉の目が、鋭くなった。

「来るぞ」


 歪みが、揺れた。

 中心から。

 何かが、滲み出てきた。

 最初は一体。

 黒い靄のような形。

 目だけが、赤く光っている。


「冥界の怪物じゃ」

 次に二体。

 三体。

 五体。

 歪みから、次々と這い出してくる。


「妨害しに来たな」

「うむ」

 葛葉は扇子を構えた。

「玄弥。お主は歪みの封印を頼む」

「わかった」

「わらわとミユキとナギサで怪物どもを抑える」

「葛葉、お前が封印した方が——」

「わらわでは入れない」

 葛葉は静かに言った。


「九尾の妖力は、冥界の入り口と相性が悪い。入れば弾かれる」

「……そうか」

「お主の霊力と、わらわの妖力が混ざった今の状態だからこそ入れる。それだけじゃ」


「ミユキ、ナギサ」

 玄弥は二人を見た。

「ここで怪物を押さえてくれ」

「言われなくてもわかる」

 ミユキは手の平に炎を灯した。

 赤い炎が、暗い空気の中で揺れる。


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