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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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八岐大蛇先生の鬼特訓2

 また時は流れ、六十年目。

 三本目の尾が、安定してきた。

 焼ける感覚は消えない。


 でも。

 慣れてきた。

 痛みと共に動く方法を、身体が覚え始めていた。

「八岐大蛇」

「何だ」

「三本の尾を同時に制御するコツがわかってきた気がする」

「言ってみろ」

「霊力を均等に分けようとすると崩れる。三本それぞれに、役割を持たせる方が安定する」

 八岐大蛇は黙って聞いていた。

 それから、短く言った。


「正解だ」

「……やっと気づいたか、って顔してる」

「していない」

「してる」

 八岐大蛇は頭をかきながら呟く。

「……少し、していた」


 八十年目。

 葛葉との模擬戦が始まった。

「本格的にやるぞ、玄弥」

「待ってた」


 葛葉は尾を四本展開した。

 玄弥は三本で応じた。

 前とは、明らかに違う戦いだった。

 葛葉の尾を、三本で捌く。

 一本で防いで。

 一本で反撃して。

 一本で次の攻撃を読む。


「——ほう」

 葛葉の目が細くなった。

「本当に変わったのう」

「まだ下せないけどな」

「当然じゃ」

 葛葉は笑いながら、五本目を展開した。

「まだまだ足りぬぞ」


 九十九年目。

 その日の特訓は、普通ではなかった。

「今日は葛葉と八岐大蛇、二人同時に相手しろ」

「……は?」

「二対一だ」

「正気か」

「正気だ」

 八岐大蛇と葛葉が、並んで立った。

 葛葉が扇子を広げながら言う。


「わらわも手加減はせぬぞ」

「……二人を同時に」

「できるとは思っていない」

 八岐大蛇は静かに言った。

「ただ、限界を超えろ。それだけだ」


 玄弥は死んだ。

 五秒で。

 蘇生した。

 また死んだ。

 十二秒で。

 また蘇生した。

 何度も、何度も。


 でも。

 少しずつ、長くなっていった。

 一分が、三分が、五分、七分。

 そして最後の一戦。

 玄弥は十三分、二人を相手に立ち続けた。

 そして死んだ。


 蘇生した後。

 玄弥は地面に横になったまま、空を見た。

「……あと少しだ」


 そして百年目。

 朝。

 玄弥は目を覚ました。

 いつもと、何かが違った。

 身体が。

 軽い。


「……なんだ、この感じ」

 霊力を流した。

 三本目に、送り込む。

 焼ける感覚が——

 ない。

 いや、ないわけじゃない。

 でも。

 もう、耐えられる熱さじゃなかった。


「三本目——」

 展開した。

 震えなかった。

 制御できた。

 完全に、安定していた。

「……出せてる」

「うむ」

 八岐大蛇が静かに頷いた。

「キッチリ百年かかったな」

「……長かった」

「長かったか?」

 玄弥は少し考えた。


「……いや。短かった気もする」

「そうだ」

 八岐大蛇は空を見上げた。

「必死に生きた時間は、短く感じるものだ」


 その瞬間だった。

 玄弥の視界に、何かが映った。

 一瞬だけ。

 フラッシュのように。

 ——葛葉が、扇子を開く。

 次の瞬間。

 葛葉が、扇子を開いた。


「……え」

「どうした」

「今……見えた」

 玄弥は自分の目を押さえた。

「葛葉が扇子を開く前に、開く姿が見えた」

 静寂が落ちた。


 八岐大蛇の目が、わずかに細くなった。

「葛葉」


「うむ」

「これは?」

 葛葉は静かに言った。


「九尾の尾3本目は未来を見通す力がある」

「未来視じゃ」


「未来視?」

「五秒先の未来が見える」

 葛葉は扇子を閉じた。


「九尾の力の一端じゃ。過去でも未来でも見通す力が、わらわにはある。三本目を制御できるようになったことで、その欠片がお主に流れ込んだのじゃろ」


「五秒先……」

「戦闘において、五秒先が見えることの意味がわかるか」

 玄弥は黙って、拳を握った。

 わかる。

 十分すぎるほど、わかる。

 五秒先に相手の動きが見えるなら。

 全ての攻撃を、先読みできる。


「——とんでもない能力だな」

「うむ。わらわの力じゃからのう」

 葛葉はにやりと笑った。

「感謝するがよい」

「めちゃくちゃ感謝してる」

「よろしい」


 八岐大蛇が口を開いた。

「では次だ」

 玄弥は八岐大蛇を見た。


「……四本目か」

「そうだ」

「どのくらいかかる」

「三百年だ」

 玄弥は天を仰いだ。


「……三倍か」

「三本目より代償も重い。覚悟しろ」

「代償が重いって、三本目でもあれだけきつかったのに」

「比べ物にならん」

 八岐大蛇は静かに、でも確かに言った。

「四本目は、お前の存在そのものが揺らぐ」

 玄弥は黙った。

 しばらく、異界の空を見ていた。

 それから。


「……やる」

 迷いは、なかった。

「他に選択肢はない」

「そうだ」

 八岐大蛇は短く頷いた。


「では明日から始める。今日は——」

「休みか?」

「わかってきたな」

「一日だけだろ」

「そうだ」


 夕暮れの異界。

 葛葉が隣に座った。

「百年、よく頑張ったのう」

「まだ終わってない」

「そうじゃな」

 葛葉は扇子をゆっくりと広げた。


「じゃが今日くらいは、少し休め」

「……そうする」

 玄弥は目を閉じた。

 全身に霊力が満ちている。

 三本の尾が、静かに揺れている。

 葛葉の気配が、すぐそばにある。


「葛葉」

「なんじゃ」

「四本目……絶対に制御してみせる」

「うむ」

「それで——もっと強くなる」

「うむ」

 葛葉は静かに笑った。

「わかっておる」

 その声が。

 どこまでも、柔らかかった。


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