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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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八岐大蛇先生の鬼特訓1

 本契約を結んだ翌日。

 あの八岐大蛇から、珍しい言葉が出た。

「今日は休め」

「……え?」


「聞こえなかったか」

「聞こえたけど、お前の口から出る言葉と思わなかった」

「一日だけだ。蘇生を繰り返した身体は、霊力が馴染むまで時間がいる」

 八岐大蛇は淡々と続けた。


「明日から地獄を見せてやる。今日くらい休め」

「……地獄、って言い方やめてくれないか」

「事実だ」

 玄弥はため息をついた。


 異界の片隅。

 黒い木々の根元に腰を下ろして、玄弥は空を見上げた。


 薄紫の空が、今日は少し明るい気がした。

「のんびりしておるのう」

 隣に、気配もなく葛葉が座っていた。

 扇子を広げて、風を作りながら。


「お前、いつからいた」

「さあのう」

「……答える気ないやつだ」

「ふふ」

 葛葉はくすりと笑った。

 それから、静かに空を見上げた。


「本契約、じゃったのう」

「ああ」

「どうじゃ。何か変わった感じはするか」

 玄弥は自分の手を見た。

 霊力が、全身を流れている。

 前とは明らかに違う、深い流れが。


「……お前がそこにいる感じがする」

「ほう」

「うまく言えないけど。繋がってる感じ、というか」

「そうじゃろ」

 葛葉は扇子を閉じた。


「本契約というのはそういうものじゃ。わらわとお主は、もう切り離せん」

 その声が、どこか柔らかかった。

「……悪くないのう」

「葛葉」

「なんじゃ」


「ありがとう」


「……ぬっ、ばかめ‥」

 葛葉は顔を逸らした。

 その耳が、金色の髪に隠れて見えなかった。


 翌朝。

 八岐大蛇が腕を組んで待っていた。

「来たか」

「ああ」

「では始める」

 その目が、どこか楽しそうだった。

 嫌な予感がした。


「まず確認する。今、尾は何本出せる」

「二本」

「出してみろ」

 玄弥は霊力を流した。

 葛葉の力が呼応して、背後に金色の尾が二本、ゆっくりと展開する。


「問題ない。では」

 八岐大蛇は静かに言った。

「三本目を出せ」


 玄弥は霊力をさらに流した。

 三本目に、力を送り込む。

 いける——

 そう思った瞬間だった。


「——っ」

 全身が燃えた、内側から。

 骨の髄まで‥熱い、じゃない。

 焼けている。細胞が、一つ一つ崩れていくような——


「がっ——あっ——!」

 膝をついた。

 手が震える。

 三本目の尾が、ぼんやりと形を作りかけて——

 霊力が、制御できなくなった。


 暴走する。

 辺りの地面が抉れる。

「消せ」

 八岐大蛇の声がした。

「今すぐ」

「っ——わかってる——!」

 三本目の尾を、無理やり引っ込めた。

 途端に、全身から力が抜けた。

 地面に倒れる。

 息が、できない。


「……これが」

「それが三本目の代償だ」

 八岐大蛇は静かに言った。

「九尾の力は、人間の器には過剰すぎる。二本までが、今のお前の限界だ」

「じゃあ……どうやって三本に——」

「器を広げる。それだけだ」

 玄弥は荒い呼吸のまま、八岐大蛇を見上げた。


「……どのくらいかかる」

「まぁ、百年かかるだろう」

「は」


「百年かかる」

「……そんなに」

「文句があるか」

 玄弥は地面に額をつけたまま、しばらく黙っていた。


「……いや」

 それから、立ち上がった。

「やる」


 特訓が始まった。


 一日目。

「まず走れ」

「走る?」

「霊力を全開で流しながら走れ。二本の尾を展開したまま、この異界を百周だ」


「……百周?」

「文句を言うな」

 玄弥は走った。

 霊力を全開で流しながら。

 二本の尾を出しながら。


 最初の十周で、足が鉛になった。

 三十周で、霊力が揺らぎ始めた。

 五十周で、尾の制御が乱れた。

「乱れるな」

「わかってる——!」

 七十周で、視界がぶれた。

 九十周で、意識が飛びかけた。

 百周目。

 ゴールした瞬間、崩れ落ちた。


「……合格だ」

「……褒めてる……のか」

「初日にしては、だ。明日は二百周だ」

「鬼か」

「そうだ」


 時は流れ十年目

「三本目を出せ」

「出す」

 霊力を三本目に送り込む。


 全身が焼ける。

 骨が軋む。

 五感が歪む。

 世界の色が反転して。

 音が、消える。

 それでも。


「——っ……出でた」

 三本目の尾が、震えながら姿を現した。

「保て」

「っ……わかって——」

 十秒。

 二十秒。

 三十秒で、暴走した。


 また地面が抉れた。

「消せ」

 引っ込めて、倒れた。

「三十秒だ」

「……そこまでしか‥」

「先週は十秒だった」

 八岐大蛇は淡々と言った。


「伸びている」

 その夜。

 葛葉が隣に座った。


「辛そうじゃのう」

「辛い」

「正直じゃ」

「隠す元気もない」

 葛葉は静かに笑った。


「わらわの力が、お主の身体を壊しておるのはわかっておる」

「お前のせいじゃない」

「じゃが」

「俺が選んだことだ」

 玄弥は空を見上げた。

「葛葉の全部を引き出したい。俺が決めた」


「……玄弥」

「弱音は今だけだぞ」

「今くらいはよいじゃろ」

 葛葉はそっと、玄弥の隣に身を寄せた。

 何も言わなかった。

 ただ、そこに居てくれた。


 更に時は流れ三十年目。

 特訓の内容が変わった。


「今日から実戦形式だ」

「実戦?」

「三本目を出しながら、俺と戦え」

 八岐大蛇が立ち上がった。

 長い黒髪が揺れる。

 眼帯の下で、何かが光った気がした。


「死んでも蘇生してやる。存分に来い」

「……わかった」

 三本目を出した。

 全身が焼ける。

 視界が歪む。

 それでも。

「来い——!」


 八岐大蛇は強かった。

 当然だった。

 八つの頭を持つ大妖怪が、人の姿をしているだけだ。

 玄弥は三十秒で死んだ。


 蘇生した。

 また死んだ。

 また蘇生した。

 一日で二十七回死んだ。


「……新記録か」

「黙れ」

 八岐大蛇はわずかに口端を上げた。

「だが、最後の一回は三分生き残った」

「……そうか」

「伸びてはいるな」



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