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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
鵺激闘編

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葛葉との戦い


 玄弥は大きく息を吐いた。

 霊力はない、霊装も出せない。

 ‥それでも。


「わかった」

 正面から、葛葉を見た。

「——ふふ」

「全力で来るんじゃ玄弥」


 葛葉の笑みが、深くなった。

 金色の妖気が、辺り一面を満たした。


「最初からそのつもりだ」


 玄弥は大きく息を吐いた。

 霊力はない。

 霊装も出せない。

 死ぬかもしれない。

 というか、たぶん死ぬ。

 それでも。

「わかった」


 正面から、葛葉を見た。

「全力でかかってこい」

「——ふふ」


 葛葉の笑みが、深くなった。

 九本の尾が、ゆっくりと広がる。

 金色の霊気が、辺り一面を満たした。


「手加減はせぬぞ」

 嘘だった。

 葛葉は内心、ため息をついていた。

 ——手加減の加減が、難しいのじゃ。


「最初からそのつもりだ」

 玄弥は、知らない。


 葛葉が消えた。

「っ——!」

 気配が、ない。

 どこだ。

 上か——


「そこではないのう」

 真後ろだった。

 振り返る間もなく、尾が一本、首元をかすめた。

 それだけで。

 視界が、暗転した。


 気がついたら。

 空を見上げていた。

「……死んだ?」

「死んだ」

 八岐大蛇が答えた。


「俺が今、蘇生させた」

「……マジか」

「マジだ」

 玄弥はゆっくりと起き上がった。

 身体に痛みはない。

 というか、感覚がリセットされている。


「……あっさりすぎる」

「文句を言うな」

 八岐大蛇は腕を組んだまま、静かに言った。

「一回戦で学んだことを言ってみろ」

「……気配が読めない」

「それだけか」

「霊力がないと、反応する前に終わる」


「正解だ」

 八岐大蛇は地面に指を走らせた。

 地面に、霊気の紋様が刻まれていく。


「気配を感じる訓練を先にやる。五分で覚えろ」

「五分?!」

「文句を言うな。死ねばやり直せる」

「その蘇生をさらっと使うのやめてくれ」


 五分後。

 玄弥は再び、葛葉の前に立っていた。

「もう一度じゃ」

「ああ」

「今度はもう少し長く生きてみせよ」

「……それ、煽ってるよな?」

「そうじゃ」

 葛葉はにっこりと笑った。


 2回目

 今度は気配を探った。

 霊力がなくても、皮膚で感じる空気の流れ。

 音。

 気温の変化。

 葛葉の尾が動く前の、ほんの一瞬の静寂。


「——右!」

 躱した。

 一本目が空を切った。


「……ほう」

 葛葉の声に、わずかな興味が混じった。

 二本目が来る。

 今度は躱せなかった。

 でも当たったのは腕だけだった。

 三本目——

 四本目——

 ギリギリで、ギリギリで。

 それでも、立っていた。


「よく動くのう」

 葛葉は静かに言いながら、五本目の尾を動かした。

 玄弥は踏み込んで——

 懐に入ろうとして——

 六本目が、胸を貫いた。


 また。

 空を見上げていた。

「……今度はどのくらい生きた?」

「三分と少し」

 八岐大蛇が答えた。


「さっきより長い」

「……そうか」

 玄弥は起き上がりながら、拳を握った。

「葛葉の懐に入ろうとしたら、別の尾が来た」

「九尾は同時に複数の尾を独立して動かせる。一点に集中すれば別の角度から来る」


「全部を同時に見るのか?」

「見るんじゃない。感じろ」

 八岐大蛇は短く言い切った。


「次の特訓だ。目を閉じたまま動け」

「……目を閉じて?」

「五分だ」

「また五分か!」


 3回目。

 目を閉じて戦うのは、思ったより恐ろしかった。

 でも。

 見えない分、他の感覚が研ぎ澄まされていく。

 葛葉の尾が動く前の、空気の揺れ。

 踏み込む前の、地面への重心移動。

 攻撃の直前に、霊気が一瞬だけ収縮する。

 ——そこだ。


「一本——!」

 尾を掴んだ。

 両手で。

「……ほう」

 葛葉の声に、驚きが滲んだ。

 そのまま引っ張って——

 体勢を崩して——

 懐に踏み込む——

 玄弥の拳が、葛葉の腹に入った。


 しん、と空気が静まった。

 葛葉は数歩、退いた。

 自分の腹を見下ろして。

 それから、静かに口を開いた。

「……当てたのう」


 玄弥には見えていなかった。

 葛葉がその瞬間、尾の力をわずかに緩めていたことに。

 退いたのが、自分の意志であることに。

 でも。

 当てたことは、当てたことだ。

「じゃがまだ足りぬ」

「わかってる」

「続けるか?」


「当たり前だ——」

 言い終わる前に、背後から七本目の尾が来た。

 今度は、避けられなかった。


 三度目の空だった。

「今度は?」

「十二分」

 玄弥は小さく笑った。


「伸びてる」

「伸びている。だが」

 八岐大蛇は静かに続けた。

「葛葉に当てた後、油断した」


「……そうだな」

「手応えを感じた瞬間に、意識が緩んだ。そこを狙われた」

「下したと思ったわけじゃないけど……」

「感情が揺れた。それだけで隙になる」

 玄弥は黙って、拳を見た。


「次の特訓だ」

 八岐大蛇が立ち上がった。

「当てた後、すぐ次を警戒する。手応えは後で感じろ。戦いの最中は、常に空白を作るな」


 4回目。

 今度は違った。

 葛葉の動きが、見えるようになっていた。

 一本目——躱す。

 二本目——弾く。

 三本目——受け流す。

 四本目——踏み込みながら躱す。


 葛葉の眉が、わずかに上がった。

「……変わったのう」

「まだ序盤だ」

 五本目が来る前に、玄弥から動いた。

 先手を取った。

 葛葉の懐へ、一直線に。


「——ほう」

 葛葉は退かなかった。

 尾で迎撃しようとして——

 玄弥は低く潜り込んだ。


 そのまま、腹への右拳。

 脇腹への左拳。

 連打。

「っ——」

 葛葉が、大きく後退した。


 八岐大蛇が、初めて目を見開いた。

 ——追い詰めてきたな。

 葛葉は息を整えながら、玄弥を見た。

 その瞳の奥に、驚きがあった。

 そして。


 ——楽しい、という感情が。

「……やるのう」

「まだ終わってない」

 玄弥は止まらなかった。

 再び踏み込む——

 でも。


 葛葉の尾が、今度は八本展開した。

 さっきまでと、纏う空気が違う。

「少しだけ、本気に近づけてやろう」

 葛葉は静かに言った。


「それがお主への、礼儀じゃ」


 ‥一瞬だった。

 尾が八本、同時に動いた。

 玄弥は三本躱した。

 二本弾いた。


 残り三本は——

 ——どうにもならなかった。

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