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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
Lumière Crown編

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134/207

夢の続き、そして

 復帰ライブ当日。

 会場は満員ではない。

 けれど、空席もない。

 静かなざわめきが広がっている。


 ステージは暗い。

 派手な演出はない。

 スポットライトも最小限。

 バックヤード。

 六人が円になる。


「行こう」

 ムツミが小さく言う。


 ヒナタが頷く。

 他の四人も、何も言わずに手を重ねる。


 ドラムのカウントもない。

 ゆっくりと、ピアノの単音が響く。

 幕が上がる。


 まずはヒナタのソロ。

 静かなバラード。

 照明は白一色。

 客席は息を呑んでいる。


 ヒナタはまっすぐ前を見る。

 悔しさも嫉妬も、全部抱えた声。

 揺れない。

 二番からムツミが入る。

 ハモりが重なる。

 二人の声が溶け合う。


 サビ。

 残りの四人が静かに加わる。

 振りは小さい。

 でも、呼吸が揃っている。

 客席の何人かが涙を拭う。


 派手な復活ではない。

 宣言もない。

 ただ。

 六人がそこにいる。


 間奏。

 ムツミが一歩前に出る。

 センター。

 けれど、その視線は横へ。

 ヒナタを見る。


 ヒナタは小さく笑う。

 その一瞬で、空気が変わる。


 ラストサビ。

 振りが広がる。

 声が強くなる。

 静かに始まった曲が、確かな熱を帯びていく。

 最後のポーズ。


 静寂。

 一拍遅れて、拍手。


 そして大きな歓声。

 誰も泣いていない。

 誰も崩れていない。


 ただ、胸を張って立っている。

 ムツミがマイクを握る。


「ただいま」

 シンプルな一言。

 ヒナタが続ける。

「ここから、また始めます」


 客席が応える。

 スポットライトが六人を照らす。

 もう“女”の気配はない。


 あるのは、確かな選択の積み重ね。

 静かに始まった再出発は、確実に未来へ向かっていた。

 復帰ライブから三か月。

 最初は小さな変化だった。


 動画の再生数が、少しずつ伸びる。

 SNSのフォロワーが、毎週のように増えていく。

 口コミ。


「このグループ、なんか違う」

 そんな言葉が広がり始める。

 次のライブは、前回よりも大きな会場。


 開演前から、ペンライトの光が揺れている。

 バックステージ。

 六人が並ぶ。

 緊張はある。


 でも、あの日のような不安はない。

「行こ」

 ムツミが言う。

 ヒナタが笑う。

「うん」


 幕が上がる。

 歓声が、前よりも大きい。

 センターに立つムツミ。


 その隣で、全力で歌うヒナタ。

 後ろの四人も、遠慮はない。

 ぶつかるように輝く。

 楽曲は増えた。

 表現の幅も広がった。


 悔しさも嫉妬も、今では推進力になっている。

 インタビューで聞かれる。

「強さの秘訣は?」


 ムツミは少し考えてから答える。

「ちゃんと喧嘩することです」

 ヒナタが横で笑う。

「逃げないこと」

 記事になる。

 “本音でぶつかる六人組”


 ライブは次第に即完売。

 地方公演も決まる。

 やがて、全国ツアーの文字がポスターに載る。

 楽屋。

 サクラが腕を組み、静かに言う。

「ここからよ」


 昔のような心配はない。

 分解の兆しもない。

 六人はもう知っている。

 感情は消えない。

 でも、向き合えば力になる。


 ステージ袖。

 開演前の暗闇。

 ムツミが小さく呟く。


「最初の合宿、覚えてる?」

 ヒナタが頷く。


「分解しそうだったやつ?」

 二人が笑う。


「今は?」

「最強」

 即答。


 幕が上がる。

 光が六人を包む。

 歓声が波のように押し寄せる。

 センターはムツミ。

 その隣にヒナタ。

 誰も欠けない。

 誰も遠慮しない。

 ぶつかり合いながら、一つになる。


 あの夜に選んだ答えが、今の光景を作っている。

 このグループの名前は、確実に広がっていく。

 そして物語は続く。


 まだ、もっと遠くへ。


――


 ……暗い。

 深い水底から浮かび上がるように、意識がゆっくりと戻ってくる。

 最初に感じたのは、畳の匂い。

 次に、微かな薬草の香。


 重たいまぶたを押し上げる。

 視界に入ったのは、見慣れた炎紋の天井。

 炎下家の客間。

 障子越しの光が、柔らかく差し込んでいる。


「……ここは」

 喉が掠れる。

 身体を動かそうとして、全身に鈍い痛みが走った。

 包帯の感触。

 霊力は、底の底。


 そこで、記憶が弾ける。

 牙哭。

 あの異形。

 裂ける空間。


 最後の一撃。


「……っ」

「ようやく起きたか」


 低く、静かな声。

 視線を横へ向ける。

 部屋の隅、柱に寄りかかるようにして葛葉が立っておる。


 腕を組み、相変わらずの無表情。

 その目の奥には僅かな疲労。


「随分とのんびり寝ておったではないか。わらわが退屈で死にかけたわ」


「……悪かった」

「謝罪はいらぬ」

 その声が、わずかに柔らかくなった。


「起きたならそれでよい」


「そうじゃ。よく生きておったと思うぞ、正直なところ」


 葛葉は扇子をぱちりと閉じた。

「牙哭との戦いで、お主の霊力はほぼ空になっておった。身体もボロボロじゃったしのう。炎下の家の者が必死に手当てしてくれなければ、どうなっておったか」


「どれくらい……」


「三ヶ月じゃ」

 即答。

 空気が止まる。


「……三ヶ月?」


「そうじゃ」

 淡々と続ける。


「牙哭を討った後、その場で倒れた」


「霊脈は焼け、魂は擦り切れ、呼吸も止まりかけた」

 静かな事実の羅列。


「三日三晩、炎下家総出で繋いだ」

 玄弥は息を呑む。


 そんな状態だったのか。

「……牙哭は」


「滅んだ」

 短い。

「完全に、な」


 その言葉で、胸の奥の重石が一つ落ちる。

 だが。


「他の妖怪たちは?」

「小康状態じゃ」

 葛葉はあっさり言った。


「牙哭が消えたことで、大きな動きは止まっておる。まあ、嵐の前の静けさというやつかもしれんがのう」


「……そうか」

「安心するのはまだ早いぞ」

 からかうような目で、葛葉が続ける。


「それより、自分の状態を確かめてみよ」


 玄弥は目を閉じた。

 内側に意識を向ける。

 霊力を、探す。

 ……。

 ……ない。


「っ」

 底を叩いたような感覚だった。


 水が一滴も残っていない、からからの器。

 霊装を呼ぼうとする。

 武器も。

 白装束も。

 何も応えない。


「霊力が……完全に枯渇してる」

「うむ」

「霊装も出せない」

「うむ」

「これ、まずくないか」

「まずいのう」


 葛葉は涼しい顔で頷いた。

「妖怪と戦える状態では、まったくないのう。今のお主では子供の妖怪にも負けるじゃろ」

「言うな」

「事実じゃ」


 こうして玄弥は目覚めた。

 炎下家の静かな客間。

 三ヶ月の眠りを経て。


 物語は、再び動き出す。


挿絵生成AIで作りました。

ご参考までに。。

挿絵(By みてみん)

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