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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
Lumière Crown編

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選抜、そして

 合宿五日目。スタジオの空気は張り詰めていた。

 今日はセンター決定オーディション。

 姉のサクラが正面に立つ。


「条件は一つ。“六人を引き上げられるかどうか”」

 順番にパフォーマンスが始まる。

 マドカ、アオイ、サヤカ、マツリ、ヒナタ。

 それぞれが全力を出す。

 そして、ムツミ。

 一歩前に出た瞬間、空気が変わる。

 視線の集め方。動きの芯。

 後ろの五人を自然と輝かせる立ち方。


 呼吸が揃う。最後のポーズ。


 次はヒナタ。

 胸の奥が熱い、一歩前に出る、負けたくない、でも壊さない。

 その気持ちを抱えたまま踊る、動きは鋭い、感情も乗っている。

 けれど、どこかに“力み”が残る。

 終わった瞬間、自分でも分かった。


 姉が静かに告げる。

「みんなありがとう、それじゃを発表するわよ」


「みんなとても良かったわ、熱意も感じたし、甲乙付けるのがとても難しかった」


「‥でも総合力で判断したわ。センターはムツミよ」


 空気が止まる。ムツミが息を呑む。

 ヒナタの胸が、ぎゅっと締まる。

 一瞬だけ、悔しさが込み上げる。でも。

 逃げない。ヒナタは一歩前に出る。


「……おめでとう」

 笑顔は少しだけ硬い。


 それでも、本物だ。

 ムツミの目が潤む。

「ありがとう」


 姉のサクラが頷く。

「ヒナタ」

 名前を呼ばれる。


「あなたは今、逃げなかった」

 静かな評価。

「それが一番の成長よ」


 夜。

 ヒナタは一人で外に出る。

 冷たい風が頬を撫でる。

 胸の奥に、わずかな痛み。


「悔しいな」

 本音が零れる。

 その瞬間。

 背後で気配が揺れる。


「ほら、やっぱり」

 甘い声。

 振り向くと、あの女が立っている。

 以前よりも輪郭は薄い。

 けれど確かに存在している。


「あなた、本当は壊したいでしょう?」

 囁き。

「選ばれなかった。悔しい。奪われた」

 胸の奥がざわつく。

 否定できない感情。

 女が近づく。


「今なら、まだ戻れるわよ」

 ヒナタは目を閉じる。悔しい。

 本当に悔しい‥でも。


 ムツミの背中を思い出す。

 六人で揃った呼吸。


 あのステージの感覚。

 ゆっくり目を開く。


「……悔しいよ」

 はっきり言う。


「でも、壊したいとは思わない」

 女の笑みがわずかに歪む。


「強がり」

「違う」


 ヒナタは一歩踏み出す。

「私は、あの真ん中に立つムツミを支える」

 胸の奥の痛みを抱えたまま。


「次は奪い返す。でも正面から」

 風が強く吹く。

 女の輪郭が揺らぐ。


「あなた、本当に変わったのね」

 声が遠ざかる。

「でも覚えておいて。感情は消えない」


「消さない」

 ヒナタは答える。

「抱えたまま、進む」

 その瞬間。

 女の姿が完全に崩れ、夜の闇に溶けた。


 静寂。

 ヒナタは空を見上げる。

 悔しさは残っている。

 でも、前を向ける。


 合宿最終日。

 六人のフォーメーションが決まる。

 真ん中にムツミ。その隣にヒナタ。

 音楽が流れる。

 六人の動きが重なる。今度は誰も揺れない。

 再出発の準備は整った。


 合宿六日目の夜。

 スタジオの空気は重かった。センターはムツミに決まった、フォーメーションも固まった。

 それでも、どこか噛み合わない。


 通し練習でリズムがわずかにズレる。

 視線が揃わないし小さな綻びが積み重なる。


「もう一回」


 姉のサクラの声が飛ぶ。


 やり直し。

 またズレる。

「ちょっと待って」


 アオイが息を切らして言う。

「今の、ヒナタ早かった」


 ヒナタが顔を上げる。

「合わせたよ」


「合わせきれてない」

 空気がピリつく。


「……私のせい?」

 ムツミが呟く。


「違う」

 ヒナタが即答する。

「でも」

 マドカが言う。


「正直、まだ遠慮してない?」

 その一言で空気が割れた。


「遠慮って何」

 ヒナタの声が強くなる。

「センターだから気を使ってるとか?」


「そうじゃない」

 ムツミも声を上げる。


「ヒナタが抑えてる感じがするの」

 沈黙。


 図星だった。

 悔しさを飲み込んで、無意識にブレーキをかけていた。


「だって」

 ヒナタの声が震える。


「また壊したら嫌だから」

 静まり返る。

 サヤカが言う。


「壊したのは、ヒナタ一人じゃないよ」


「私たちも冷たかった」

 アオイが続ける。


「本音、言わなかった」

 ムツミが一歩前に出る。


「私、勝ちたいって言った」


「でも、怖かった」

 ヒナタを見る。


「ヒナタに嫌われたくなかった」

 胸の奥が熱くなる。


「……私だって」

 ヒナタが声を上げる。


「ムツミに負けるの、怖い」

 涙が滲む。


「でも、隣にいないのはもっと嫌」

 言葉がぶつかる。

 感情が剥き出しになる。

 泣きながら、怒鳴りながら。

 六人が、初めて全部を吐き出す。


 長い沈黙。

 誰も目を逸らさない。

 姉のサクラは何も言わない。


 ただ見ている。

 やがて、ムツミが笑った。


「じゃあさ」

 涙でぐしゃぐしゃの顔。


「遠慮なしでやろ」

 ヒナタも笑う。


「うん」

 深く息を吸う。


「もう抑えない」

 通し練習、もう一度。

 音楽が流れる。今度は全員が本気。


 ぶつかるように、でも支え合う。

 センターはムツミ。


 隣でヒナタが全力で食らいつく。

 後ろの四人も遠慮しない。


 終わった瞬間。

 静寂。


 全員の呼吸が揃っている。

 六人は並んで立つ。

 もう迷いはない。


 悔しさも嫉妬も、全部抱えたまま。

 それでも同じ方向を見る。

 再出発の準備が、完全に整った。


 合宿最終日の夜。


 メンバーを送り届けたあとの帰り道、フロントガラスの向こう、街の灯りが遠くに見える。

 車内にはエンジン音だけが静かに響く。


 助手席でムツミはシートベルトを握ったまま、窓の外を見ている。


「……疲れた?」

 姉のサクラがハンドルを握ったまま聞く。


「ううん」

 小さく首を振る。

「ちょっとだけ、放心」


 苦笑い。数秒の沈黙。

 姉がぽつりと言う。


「正直ね」

 ウインカーの音がカチカチと鳴る。

「分解するかもしれないって思ってた」


 ムツミが振り向く。

「分解?」


「バラバラになるってこと」

 淡々とした声。


「センターの選抜、ヒナタの悔しさ、あなたの焦り。

 ‥あの“女”の件もあった」


 夜道をライトが切り裂く。

「感情が絡まったまま無理に進めば、どこかで崩れる」


 ムツミは唇を噛む。

「私……怖かった」

 本音が零れる。


「ヒナタに嫌われるんじゃないかって」


「嫌われたくないのに、勝ちたい?」

 姉が横目で見る。

 ムツミは苦笑する。


「わがままだよね」


「普通よ」


 即答だった。

「本気でやるなら、全員わがままになる」


 少しだけ声が柔らぐ。

「でも今回は」


 車がカーブを抜ける。

「ちゃんとぶつかった」


 ムツミの胸がじんわりと温かくなる。

「うん」


「遠慮がなくなった」


「うん」


「だからまとまった」

 姉は小さく笑う。


「奇跡じゃないわよ。

 あれは努力」

 ムツミは前を向く。


 街の灯りが近づいてくる。

「センター、やれるかな」


 不安が混じる声。

「やるの」


 即答。

「あなたが立つことで、六人が強くなるなら正解」


 信号で車が止まる。

 赤い光が車内を照らす。


「ヒナタは?」


「大丈夫」

 迷いのない声。


「悔しさを飲み込まずに抱えてる、あの子は伸びる」


 信号が青に変わる。

「それに復帰ライブ、控えてる」

 姉の声が少しだけ厳しくなる。


「ここからが本番よ」

 ムツミは深く息を吸う。


「うん」

 拳をぎゅっと握る。


「六人で、立つ」

 姉は小さく頷いた。


「その覚悟があるなら、もう分解しないわね」

 車は街へと滑り込む。


 夜は静かだ。

 でも、胸の奥には確かな熱が残っている。

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