Lumière Crown-光の王冠-
あれアイドル目指す話になってる‥
事務所の会議室。丸テーブルを囲む五人と姉。松葉杖をついた彼女の足元には、まだ冷却用の包帯が巻かれている。
診断結果は重い。激しい動きは二ヶ月不可。無理をすれば長引く。
姉が口を開く。
「選択肢は三つ。延期、構成変更、四人で継続。現実的なのは四人で回すこと」
静かな声だった。
「フォーメーションを再編すれば可能。穴は埋められる」
プロの判断。
だが、空気は動かない。
「……それ、五人じゃないよね」
センターの子が呟く。
「私たち、五人で一つでしょ」
「四人でもできる。でも、それは違う」
「待てるなら待ちたい」
言葉は揃う。
怪我をした彼女は俯いたまま、拳を握っていた。しばらく沈黙が落ちる。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……待ってほしい、って言いたい。でも」
視線が、会議室の隅に向く。
見学に来ている少女と目が合う。
「私、あの子に託したい」
全員が息を呑む。
「復帰するまでの間、私の場所を」
ムツミの心臓が強く跳ねる。
「ステージは止めたくない。でも四人にもしたくない。五人でやりたい。だから――」
言葉を探すように、ゆっくり続ける。
「代わり、じゃない。一緒に立ってほしい」
「ちょ、ちょっと待って……!」
思わず声が出る。
姉は目を細める。「本気?」
「本気。あの子、ずっと真剣に見てた。目が違う」
他のメンバーも少女を見る。
「ライブの後、私たちのこといっぱい聞いてくれたよね」
「振りも覚えてたし」
「素質あると思う」
突然の視線の集中に、息が詰まる。
「でも、私……」
「急に決めなくていいよ」
怪我をした彼女が微笑む。
「ただ、お願い。私が戻るまで、このチームをお願い」
それは重い言葉だった。
“穴埋め”ではない。
“託す”という選択。
姉は腕を組み、静かに少女を見る。
「やるなら本気だよ。遊びじゃない」
鼓動がうるさい。
五人で一つ。
その輪の中に、自分が立つ?
怖い。
でも――。
あのステージを思い出す。痛みを隠して笑っていた彼女。支え合っていた四人。
胸の奥が熱くなる。
答えは、まだ喉元で震えている。
静まり返った会議室。
視線が、すべて自分に向いている。
心臓がうるさい。喉が渇く。逃げ道はいくらでもある。まだ見学者だと言い訳もできる。
でも。
ステージの光景が頭から離れない。
五人で作る空気。支え合う背中。怪我をしてもなお「五人で」と言ったあの声。
託す、と言われた。
それは代わりじゃない。責任だ。
ムツミは、ゆっくりと立ち上がる。
膝が少し震えているのが自分でも分かる。
「……私」
声が裏返りそうになるのを、ぐっと堪える。
姉が何も言わず見ている。逃げるなら今だという目ではない。覚悟を量る目だ。
深呼吸。
胸の奥にある熱を、そのまま言葉にする。
「やらせてください」
空気が止まる。
「私、まだ何もできないです。ダンスも歌も、皆さんに比べたら全然で……」
正直に言う。背伸びはしない。
「でも、五人で一つなんですよね」
怪我をした彼女を見る。
「その“今の五人”に、私を入れてもらえるなら」
拳を握る。
「本気でやります。逃げません。戻ってくるまで、絶対に守ります」
沈黙のあと。
ふっと、誰かが笑う。
「顔、覚悟決まってるじゃん」
「うん。いい目してる」
「ようこそ、だね」
怪我をした彼女が、少し泣きそうな顔で笑った。
「ありがとう」
姉がゆっくりと立ち上がる。
「決まりだね」
その声は、もうプロデューサーの声だった。
「今日からレッスン入るよ。甘くないから覚悟して」
「はい!」
即答だった。
怖さは消えていない。
でも、それ以上に。
胸の奥に確かな火が灯っていた。
ムツミの、新しい一歩が始まる。
レッスン室へ向かう前、怪我をした彼女がふと思い出したように笑った。
「あ、そういえば」
皆が足を止める。
「ちゃんと自己紹介してなかったよね」
今さら? と誰かが笑う。
「今さらでも大事でしょ。これから一緒に立つんだから」
松葉杖をついたまま、彼女が胸を張る。
「改めて。私、天城ヒナタ。センター。今は離脱中だけど、絶対に戻る」
真っ直ぐな目。
次に、背の高い少女が一歩前へ出る。
「神代アオイ。リーダー。ダンス構成担当。フォーメーション考えるのが好き」
落ち着いた声で言う。
ふわりと微笑む子が続く。
「白石マツリ。ボーカル。高音域とバラード担当かな」
優しく、それでいて芯がある。
「柊マドカ。ムードメーカー。MCと煽りは任せて!」
ぱちんと指を鳴らす。
「桐生サヤカ。振付補助と基礎トレーニング担当。静かだけど、ちゃんと見てる」
短く、それだけ。
ひなたが頷く。
「私たちは――」
五人が自然に横一列に並ぶ。
声を重ねる。
「“Lumière Crown”」
光の王冠。
ステージで輝くための名前。
ムツミの胸がどくんと鳴る。
アオイが視線を向ける。
「あなたは?」
「……風木ムツミです」
自分の名前が、少しだけ重みを持つ。
「今日から、よろしくお願いします」
ひなたが柔らかく笑う。
「よろしく、ムツミ」
その呼び方が、もう少しだけ距離を縮めた。
五人で一つの“光”。
その中に、自分が加わろうとしている。
六つ目の光が、静かに灯ろうとしていた。




