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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
Lumière Crown編

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123/207

アクシデント

 これは、西園寺玄弥が三ヶ月眠り続けている間の話である。


 私は二度目のライブ見学に来ていた。

 客席の熱気にも少し慣れ、前よりも落ち着いてステージを見られている自分に気づく。

  開演前、楽屋裏で挨拶を交わした五人は、緊張よりも楽しみが勝っている顔をしていた。


「今日も全力でいきます!」

「昨日より一歩でも前へ、です!」

「絶対最高の景色見せますから!」


 それぞれの言葉は軽やかで、嘘がなかった。


 ライブはいつも通り始まった。

 照明が落ち、歓声が湧き、イントロが鳴る。

 五人の動きは揃い、歌声は伸び、客席は一体になる。

 前回よりも余裕がある。

 視線の配り方、ファンとの距離の取り方、どれも洗練されていた。


 ――すごい。

 ただそう思う。

 最後の曲が終わり、深々と頭を下げる。

 拍手は鳴り止まない。

 アンコールの声が会場を揺らす。

 メンバーは一度はけるが、すぐに再登場する。

 息は上がっているが、全員笑っていた。


「アンコールありがとうございます!」

 再び音が鳴る、アップテンポの曲。

 観客も跳ねる。


 その時だった。

 フォーメーションが移動した瞬間、端にいた一人の動きがわずかに遅れる。

 ターンの着地が浅い、次のステップに入る瞬間、足元がぐらりと崩れた。


 「っ‥」


 それでも彼女は笑顔を崩さない。

 立て直そうとする。しかし右足に体重をかけた瞬間顔色がわずかに変わる。

 痛みを押し殺しているのが分かる。


 周囲は気づかない。歓声が大きすぎる。

 だが、舞台袖から見ていた少女には分かった。

 あれは――捻った。


 メンバーは歌い続ける。

 フォーメーションを微妙に変え、彼女を中央に置かないよう自然に動く。

 他の四人がカバーする。プロの動きだった。


 それでも、彼女の足は震えている。

 曲は終わる。最後のポーズ。

 歓声は最高潮に達する。

 だが、カーテンが閉じた瞬間、彼女は膝から崩れ落ちた。


「大丈夫!?」

「氷持ってきて!」


 楽屋が一気に慌ただしくなる。

 少女は、ただ立ち尽くしていた。

 笑顔の裏にあるもの、舞台の光の裏にある痛み。


 それでも彼女は、最後まで笑っていた。

 ――あそこに立つって、そういうことなんだ。


 胸の奥が、静かに震える。

 怖い。

 でも、それ以上に、目が離せなかった。


――


 アンコール後の楽屋は騒然としていた。

 氷で冷やしながら応急処置をし、姉がすぐに車を回す。

 救急搬送まではいかないが、判断は早かった。

 「念のため診てもらうよ」その一言で全員が動く。


 夜の病院は静かだった。

 待合の白い光がやけに冷たい。

 メンバー四人は落ち着かない様子で椅子に並び、足を挫いた彼女は処置室へ。

 姉は受付とやり取りをしながらも、常に状況を把握している。

 やがて診察室から呼ばれる。


 医師はレントゲンを示しながら淡々と告げた。

 「骨折ではありません。ただし、中度の捻挫ですね。ただ‥前回より状態は悪いですね」


 空気が止まる。

「どれくらいで戻れますか」

 姉は医者に問う。


「日常生活なら数週間、ただし、今まで通りの激しいダンスをするなら……最低二ヶ月は療養が必要です。無理をすれば癖になります」


 二ヶ月。

 その言葉が重く落ちる。


 足を挫いた彼女は俯いたまま何も言わない。

 唇を噛んでいる、他の四人も言葉を失う。

 ライブは続く。次の公演も決まっている。

 二ヶ月は長すぎる。


「分かりました。ありがとうございます」

 姉は深く頭を下げる。

 感情を見せない。

 だが、判断はもう始まっている目だった。


 病院を出た後、夜風が少し強い。

 車の中で、ようやく彼女が口を開く。


「ごめん……私のせいで」


「謝らないでよ」

「誰だって怪我する」

「私たちがカバーする」

 四人が口々に言う。


 姉はバックミラー越しに彼女を見る。

「焦らなくていい。身体が一番大事。ステージは逃げない」


 それは優しい言葉だったが、同時に現実でもあった。

 二ヶ月。

 その穴をどう埋めるか。


 プロデューサーとしての姉の思考は、もう次の一手を探している。

 助手席でそれを聞いていた少女は、静かに拳を握った。

 舞台は、誰かが欠けても止まらない。


 ならば――。

 胸の奥に、まだ言葉にならない何かが芽生えていた。

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