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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
血の衝動、炎下家編

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水瀬の力

 激突は、唐突に終わった。

 牙哭が、ふっと距離を取る。

 その笑みが、今までとは違っていた。

 愉悦ではない。――把握された。


「なるほど」

 指先で宙をなぞり、牙哭は静かに言った。

「再生は“結果”だ。ならば――」


 視線が、玄弥の白装束の奥へ突き刺さる。

「そこへ至る“過程”を壊せばいい」

 次の瞬間。


 牙哭の妖気が、質を変えた。

 圧ではない、破壊でもない。


 侵食。

 踏み込みと同時に放たれた一撃は、霊装を叩くのではなく、

 その内側へ潜り込んできた。

「――っ!」


 玄弥の視界が、ぐらりと歪む。

 再生が、始まらない。

 傷は塞がるだが、遅い。


「どうした?」

 牙哭は、確信した声で続ける。


「再生には順序がある。

 命を繋ぎ、肉を戻し、霊を補う」


「その“霊力”を、削っている」


 再生の感覚が、鈍る。

 回復するたび、何かが――持っていかれる。


 その時。

「……言ったはずだ」

 八岐大蛇の低く、冷えた声が響いた。


「再生は、救いではない」

 玄弥を見下ろし、淡々と告げる。

「代償を払わねば、成立せぬ」


 胸の奥が、嫌な感覚で締め付けられる。

「再生一度につき――

 お前の霊力の“上限”が削れる」

 はっきりとした宣告。


「傷は治る。

 命も繋がる」


「だが、次に使える力は、確実に減る」

 牙哭が、声を上げて笑った。


「最高だ」

 手を叩き、心底楽しそうに言う。


「有限の再生。

 回復するほど弱くなる身体」


「滑稽だな」

 牙哭は、再び構える。

「さあ、選べ」


「立つたびに弱くなるか身体」

「ここで、終わるか」

 玄弥は、歯を食いしばる。


 再生すれば、削られる。

 だが、立たなければ、終わり。


 ――それでも。

 足に力を込め、玄弥は立ち上がった。

 白装束が、微かに軋む。

 その姿を見て、牙哭は満足そうに頷いた。


「いい」

「その顔だ」

 殺意と歓喜が、同時に膨れ上がる。


 呼吸が、続かない。

 玄弥は膝をつき、荒く息を吐いた。


 白装束はまだ形を保っている。

 だが、霊力の巡りが明らかに鈍い。

「……はぁ……っ」


 立ち上がろうとして、足が震える。

 その様子を見て、牙哭は満足そうに笑った。

「いい顔だ」


 ゆっくりと歩み寄りながら、愉悦を隠そうともしない。

「再生はした、だが完全に“戻っていない”」

 次の一撃。

 受け止めた瞬間、霊装が悲鳴を上げる。

 衝撃が抜けない。

 治らない。


 再生が――出来ない。

「ぐっ……!」

 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 白装束が光る。

 再生が始まる。


 ――遅い。

 そして、弱い。

「今ので……何回目だ?」


 牙哭は指を折る。

「四? 五?

 まあ、どちらでもいい」

 視線が、玄弥の胸へ突き刺さる。


「霊力の底が、見えてきたな」

 その時。


「……限界だ」

 低い声が、空間に落ちた。


 八岐大蛇が告げる。

「再生可能回数、残り1回程度だ」


 淡々とした宣告。

 玄弥の喉が、鳴る。

 再生できる。

 だが、それは――最後。


 牙哭が、嬉しそうに目を細めた。

「最高だ」


「ようやく壊せるな」


 構えが変わる。

 今までより、さらに静かで、鋭い。

「次は確実に殺す」


「再生するなら、それを削り切る」

「しないなら、そのまま終わりだ」

 玄弥は、ゆっくりと立ち上がる。


 視界が揺れる。

 力が入らない。


 それでも――剣を握る。

 白装束が、かすかに脈打つ。

 残された再生は、あと一度。


 それを使うのか。

 使わせられるのか。

 牙哭は、心底楽しそうに告げた。


「さあ」


「最後まで、踊ろうか」

 戦場の空気が、完全に凍りついた。


 牙哭の一撃が、玄弥を完全に捉える。

 再生はもう残っていない。

 八岐大蛇の気配が、沈黙を選ぶ。


 その瞬間、

 ナギサが前に出る。


 誰かを庇うような動きじゃない。

 割り込むというより、流れを変える動きだった。


「 ……西園寺くん」


 声は震えていない。

 覚悟を決めた巫女の声だった。



 世界が、静止する。

 ナギサの視界に、無数の未来が流れ込む。


 玄弥が倒れる未来

 八岐大蛇の再生が尽きる未来

 牙哭が嗤いながら立ち続ける未来

 そのすべてが、赤く濁っている。


 だが、一筋だけ。

 澄んだ水のような未来があった。

 ――玄弥が、刃を振り牙哭を切る未来。

 ただし条件がある。

 今、この瞬間に牙哭を追い詰めなければならない。



 ナギサは両手を合わせる。

 足元に、水紋が広がった。

 だが水は無い。

 濡れない。

 冷たくもない。

 それは未来の流れそのものだった。


「 ……ここから先あなたは、この動きしかできないように”縛る”」


 牙哭の動きが、わずかに“遅れる”。

 止まったわけじゃない。

 選択肢が”削られた”。



 牙哭はこのまま行けば余裕で勝てる未来となる。

 しかしそのすべてが、

 水の巫女によって“濁流に流される”。


「 未来を奪うか……ッ!」

 牙哭が初めて、焦りを見せる。



 ナギサは振り返らない。

「 西園寺くん次の一太刀だけ、外さないで」

 それだけ。

 未来はもう、一本に絞られている。



 牙哭の動きは巫女の能力によって縛られている。

 避ける未来が見える。

 斬り込む未来が見える。

 玄弥の刃が、**“そこにしか無い位置”**へ伸びる。


 まだ、決着は描かない。

 だが牙哭は――

 初めて、追い詰められている。


 ナギサが示した未来は、一本だけだった。


 迷えば、死ぬ。

 躊躇えば、牙哭は再生する。


 玄弥は、深く息を吸う。


 ――全開でいくしかない。


 霊力を解放した瞬間、身体の奥で何かが弾けた。

 今まで抑え込まれていた流れが、一気に奔流へ変わる。


 背後に、尾が顕れる。


 二本。

 そして、もう一本。


「 三本目……しまゃと?」


 葛葉の声が、驚愕を含んで響く。


 九尾の力が、確かに玄弥を通っていた。

 だがそれは、借り物じゃない。

 霊装と完全に噛み合った“自分の力”だ。


 白装束が、風もないのに大きく翻る。

 布の隙間から走る紋様が、完全に繋がっていく。


 ――霊装、完全解放。

 手にした刀が、鳴いた。


 刃は白く、しかし影を帯びている。

 八岐大蛇の再生の気配と、九尾の鋭さが、一本の線に重なる。


「……来い」


 玄弥の声は、低い。


 牙哭が嗤った。


「それでこそだ

 全力で斬られねば、意味がない」


 牙哭が踏み込む。

 未来は、ナギサの視界にすでに映っている。

 その“最悪の一手”を、玄弥は知っている。

 霊力が、限界を越える。

 身体が悲鳴を上げるが、無視した。


 刀を振り上げる。


 ――人ならざるモノのみを切る。

 制約が、完全に発動する。

 世界が、刃を中心に歪んだ。


 牙哭の再生が、追いつかない。

 逃げる未来が、ない。

 水の巫女が削り落とした“分岐”の先で。


 玄弥は、ただ一度だけ。

 全霊で、斬る。

 刃が、振り下ろされる。

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