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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
血の衝動、炎下家編

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ナギサとミユキ

 最近、ミユキの様子がおかしい。

 そう思ったのは、

 はっきりした出来事があったからじゃない。


 ただ――

 視線が合わなくなった。

 廊下ですれ違えば、少しだけ歩調を早める。


 声をかけようとすれば、

 タイミングよく用事を思い出したみたいに、距離を取る。


 「……俺、何かしたか?」

 小さく呟いてみるけど、答えは返ってこない。


 思い当たる節は、ない。

 喧嘩をした覚えもなければ、ひどいことを言った記憶もない。


 それなのに。


 昨日は、同じ部屋に入った瞬間、空気が変わった。

 ミユキが、一瞬だけ息を詰めたのが分かった。

 気のせいにするには、あまりにもはっきりと。


 「……ミユキ?」

 名前を呼んだだけで、

 彼女の肩が、びくりと揺れた。


 そのまま、視線を逸らされる。

 「ごめん、急いでるから」

 それだけ言って、足早に去っていった。


 背中を見送りながら、玄弥は、胸の奥に引っかかるものを感じていた。


 拒絶、というほど強くはない。

 でも、確実に――避けられている。

 理由が分からないのが、一番きつい。


 (……俺が近くにいるの、嫌なのか?)


 そんな考えが浮かんで、すぐに振り払う。

 勝手な決めつけだ。

 そういうことをするタイプじゃない。


 それでも。


 霊力を探ると、

 ミユキの気配は、いつも少しだけ遠い。


 まるで、こちらに触れないよう、意識して距離を取っているみたいに。


 「……何なんだよ」

 誰に言うでもなく、零す。


 問い詰めるのは、違う気がした。

 無理に踏み込めば、余計に遠ざけてしまいそうで。


 だから玄弥は、何も言わない選択をした。


 気づかないふりをして、いつも通りに振る舞う。


 ――それが、

 一番間違った選択だとも知らずに。


 遠くで、ミユキの霊力が、微かに揺れた。


 触れれば壊れそうなほど、

 張り詰めたままで。


――


 学園の中庭。

 夕暮れの光が、静かに落ちていた。


 ナギサが足を止めたのは、そこに――妙に張りつめた霊力を感じたからだ。


 強い。

 けれど、荒れていない。

 抑え込まれている。

 それも、無理やり。


「……あなた」

 声をかけると、少女がゆっくりと振り向いた。


 長い髪。

 感情の読めない視線。


「何」


 それだけ。


 ぶっきらぼうで、近づくなと言わんばかりの声音。


 ナギサは一瞬だけ間を置いてから、名乗る。

「水瀬ナギサです」


「……ミユキ」

 名字も、肩書きもない。

 最低限の返答。


 それ以上話す気はない、

 というのがはっきり分かる態度だった。

 「少しあなたのことが気になりまして」


「……用があるなら、それだけ言って」

 会話を切る気だ。

 ナギサは気にしない。

 視線だけを、そっと周囲に巡らせる。


 ――視線の先。


 そこにいるのは、玄弥だった。

 ミユキの視線が、一瞬だけ――そちらへ向く。

 すぐに、逸らされた。


(……やっぱり)

 「西園寺くんと、知り合いなんですか?」


 その問いに、ミユキの肩が、僅かに揺れた。

「……別に」


 否定とも肯定とも取れない、短い言葉。

 けれど。


 ナギサには分かった。

 それが嘘ではないことも、真実を隠していることも。


「そうですか」

 それ以上、追及しない。

 沈黙が落ちる。


 ミユキは、その空気に耐えかねたように、踵を返した。


「……じゃ」

 それだけ残して、立ち去っていく。

 背中は、どこか追い詰められているように見えた。



 その夜。

 ナギサは、偶然――

 二人が同じ空間にいる場面を見た。

 西園寺くんと、ミユキ。

 距離は、確かにある。


 けれど、ミユキの霊力は――異様だった。


 張りつめ、

 細く、鋭く。


 まるで、近づけば壊れてしまうものを、必死に守っているかのように。


 西園寺くんは、気づいていない。

 いや、気づいてはいるのだろう。

 ただ、理由が分からない。


(……逃げてる)

 それも、彼から。


 嫌悪じゃない。

 恐怖に近い。


 ナギサは、胸の奥が静かに冷えるのを感じた。

(この人……)

 何かを、抱えている。


 それも、西園寺くんに知られたら、壊れてしまう類のものを。


 ナギサは、そっと息を吐いた。

(放っておくわけには、いかない)


 それが何かは、まだ分からない。

 でも――

 もう、気づいてしまった。


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