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呪壊の陰陽師 ―霊力ゼロの陰陽師が最強の妖狐と結ぶ仮初の契約―  作者: 仁科異邦
水瀬家編

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幕間 鵺の怒り

 闇の底。

 重く澱んだ妖気が、空間を満たしていた。


 ――切れた。


 鵺は、はっきりとそれを感じ取った。

 分体との繋がりが、断ち切られた感覚。


 「……あの小僧め、我の分体を殺したか」


 次の瞬間。


 妖気が爆発的に噴き上がる。


 「許さねぇからなぁ、玄弥ぁぁ!」


 低く、だが剥き出しの殺意、周囲の空間が軋み、影が歪む。


 「人間ごときが、身の程を知らせてやろうかぁ?」


 踏み出そうとする鵺の前に、静かに杯を置く音がした。


 酒呑童子だった。


 表情は変わらない、怒りも、嘲りもない。


 「……騒ぐな」


 短い一言。

 鵺が睨みつける。

 「黙れ、酒呑め、力で捻じ伏せれば済む話だ」


 酒呑童子は、ゆっくりと首を横に振った。

 「それが一番、状況を悪くする」


 それ以上、声を荒げない。

 「分体がやられた事実は変わらん」

 「だが今、本体が動けば――人間側は“覚悟”を決める」


 鵺は鼻で笑う。

 「覚悟など、力の前では無意味だ」


 「無意味ではない」

 酒呑童子は、視線だけを向けた。

 「人間は、追い詰められた時にだけ

 想像を超える手を打つ」


 沈黙。

 鵺の妖気が、荒れたまま揺れる。


 「……だから、見逃せと言うのか」

 酒呑童子は、首を振る。


 「見逃すのではない」

 「王が復活するまで待つ」

 ただそれだけ。


 「それにあちらの器が育ちすぎている」

 「今殺せば、次の手は必ず早まる」


 鵺は、舌打ちした。

 「貴様は臆病だ」


 「違う」

 酒呑童子は淡々と言う。


 「失敗を嫌うだけだ」

 再び杯を手に取る。

 「力を振るうのは、最後でいい」

 「勝ちを確定させてからだ」


 鵺は、しばらく黙っていたが――

 やがて、低く唸った。

 「……次に会う時は、殺す覚えておきな玄弥ァァ!?」


 酒呑童子は、それに否も肯も示さない。

 ただ、静かに言った。

 「‥その時まで、生かしておけ」


 闇の中。

 暴力を信じる妖と、破滅を避ける妖が、並び立っていた。


 だがその静けさの底で、

 鵺の妖気だけが、抑えきれずに脈打っている。


 「……待つ?生かしておく?」


 低く、苛立ちを孕んだ声。


 「分体を斬られなおも待てと言うのか」


 拳を握る。

 力が、破滅を欲している。


 「人間は、斬れる時に斬るべきだ、迷いがあるうちに、潰す」

 鵺の視線が、闇の奥へ向く。


 そこに――

 呼べば応える存在がいる。


 「我が配下の中でも、最強格……」

 名を呼ぶ前に。


 「やめておけ」


 酒呑童子の声が、静かに割り込んだ。


 振り返らずとも分かる。

 感情のない、冷えた声。


 「来るべき日に備え、力を蓄えろ」


 鵺は、鼻で笑った。

 「だから何だ、恐れろと?」


 「恐れではない、これは忠告だ」

 酒呑童子は、淡々と言う。


 短い沈黙。


 だが、鵺の妖気は引かない。


 「それでも構わん」

 「力でねじ伏せる」


 その言葉に、酒呑童子は一歩だけ近づいた。

 「――負ける可能性を、考えないのか」


 鵺の尾が、強く揺れた。

 「無い」


 即答。


 「我が配下は、

 人の世で抑えきれる存在ではない」


 酒呑童子は、それ以上言わなかった。

 止めても、聞かない。

 それが分かったからだ。


 鵺は、一瞬だけ考え――

 やがて、口元を歪めた。


 「いいだろう」

 「ならば、“我が隊の最強クラスの駒”を送る」


 闇が、応えるようにざわめいた。

 鵺の妖気が、抑えもせずに溢れ出している。

 理屈も、待つ理由も――もう要らなかった。


 吐き捨てるように言う。

 「恐怖で、分からせるまでだ」


 酒呑童子は、止めなかった。

 止められないと、理解していたからだ。

 「呼ぶのか」


 短い問い。


 鵺は答えず、ただ地を踏み鳴らす。

 瞬間、空間が裂けた。

 生臭い妖気が奔流のように溢れ出す。


 「――来い」


 「牙哭がこく


 闇の裂け目から現れたのは、

 巨大な獣だった。


 狼にも虎にも似ていない。

 全身を覆うのは黒く硬質な毛皮、

 顎には幾重にも重なった牙。


 四肢は異様に太く、

 立つだけで地面が沈む。


 ――牙哭。

 鵺の配下でも、

 理性を捨てた純粋戦闘用の妖怪。


 言葉は通じない。

 理解するのは、

 「敵」と「命令」だけ。


 牙哭は、鵺の前で低く伏せた。

 だがその目は、すでに人の世を向いている。


 「人間の領域へ行け」


 鵺の声が、冷たく響く。


 闇が裂け、獣が姿を現した。


 牙哭は、地に降り立った瞬間――

 鼻を鳴らした。


 空気を嗅ぎ、

 無数の匂いの中から、

 一つだけを選び取る。


 鵺の妖気が、その背に重なる。


 「探せ」


 短い命令。


 「――西園寺玄弥を」


 その名が告げられた瞬間、

 牙哭の身体が、明確に反応した。


 咆哮はない。

 ただ、獣の瞳が鋭く細まる。


 標的は一つ。


 群れも、街も、意味はない。

 この獣にとっての世界は、

 玄弥へと繋がる線だけ。


 「殺さない程度に壊せ」

 鵺は、冷たく言い放つ。


 酒呑童子が、静かに口を開く。

 「…ふむ、これが最強格か」


 鵺は、嗤った。

 「最強は、最短を選ぶ」

 「狙いは最初から、一人だ」


 牙哭は、地を蹴った。

 霊脈を踏み砕き、結界を無視し、

 一直線に――


 西園寺玄弥へ。


 その進路上で、何が壊れようと、誰が傷つこうと、関係ない。


 酒呑童子は、杯を置いたまま呟く。


 「……人の世が、騒がしくなるな」


 鵺は、満足げに言った。

 「それでいい、人間は、守るものがあるほど弱くなるからなぁ」


 闇が閉じる。


 獣はすでに、玄弥の気配を捉えている。


 逃げ場はない。


 これは偶発ではない。

 明確な“狩り”の開始だった。


夕暮れの校舎裏。

赤く染まる空を背に、ナギサは少し落ち着かない様子で立っていた。


「……あの」


声をかけた相手は、白い尾を揺らす九尾――葛葉。


『どうしたのじゃ、ナギサ。

 そんな顔をして、妖怪でも見たかのようじゃな』


「いえ、そうじゃなくて……その……」


言葉を探すように視線を彷徨わせてから、ナギサは小さく息を吸う。


「読んでくれている方たちに、お願いをしたくて」


『ほう?』


葛葉が面白そうに目を細める。


『珍しいのう。

 お主がそんな事を言い出すとは』


「……からかわないでください」


少しだけ拗ねたように言ってから、ナギサは真剣な表情になる。


「もし、このお話を読んで……

 少しでも“良かった”と思ってくださったなら」


一拍。


「評価を、いただけたら嬉しいです」


『ふむ』


葛葉は腕を組み、うんうんと頷いた。


『要するにじゃな』

『★を押してほしい、というやつじゃ』


「ちょ、ちょっと……言い方があります」


『事実であろう?』


悪びれもせず、葛葉は続ける。


『九尾の力も、読者の応援がなければ発揮できぬ』

『物語とは、そういうものじゃ』


ナギサは一瞬言い返しかけて――

でも、静かに頷いた。


「……はい」

「ブックマークも、していただけたら……なお嬉しいです」


『うむ。素直でよろしい』


葛葉は満足そうに尾を揺らす。


『読者諸君』

『もし心が動いたなら、力を貸してほしいのじゃ』


ナギサも、小さく頭を下げる。


「よろしく、お願いします」


夕暮れの風が吹き、

九尾の尾と少女の髪を、同時に揺らした。

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