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極彩色の窒息  作者: 八宮泉


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8/15

世界で一番優しいメロディー

二人の手が触れ合った夜から、彼らの関係は劇的な進展を見せた。次の週末、結人は優妃を連れて、少し人里離れた高台の公園へと向かった。

ここは、周囲の住宅街からも遠く、ノイズが希薄な場所だった。地面にシートを敷き、二人は並んで夜空を見上げた。都会の光害が少ないため、星々がその存在を主張するように強く瞬いている。

「ここは、『黒』が深いね。でも、その黒は『虚無』じゃない。星の『銀色』と夜空の『群青』を受け止める、優しい黒だ」

結人は静かに周りの色を読み取った。

「結人さん」

優妃が結人の肩にそっと頭を乗せた。その感触は、結人の全身に、彼の内側から発せられた「純白」の波紋を広げた。

「優妃、寒くない?」

「ううん。結人さんの隣にいると、不思議と冷たさを感じない。まるで、結人さんが私に『温かさ』の色を分けてくれているみたい」

しばらくの静寂が流れた後、優妃が小さく口を開いた。

「ねえ、結人さん。私はずっと、自分の世界がモノクロなことを、誰にも言えなかったんだ。言っても理解されない、変わらない孤独だと思っていたから」

彼女の周りの空気は、普段と変わらない「透明」だったが、結人の視界には、優妃の心臓の辺りから、ごく微細な、砕けたガラスのような「白」の粒子が揺れ動いているのが見えた。それは、彼女が抱えてきた「寂しさ」の輪郭だった。

「僕もだよ。この極彩色のノイズを、誰に話しても、狂っていると思われるだけだった。だから、ずっと耳を塞いで、誰とも目を合わせないように生きてきた」

結人は、自分の過去を優妃に語ることに、何の抵抗も感じなかった。初めて、自分の呪いを共有できる相手がいる。それは、深い安堵だった。

「誰にも言えない秘密を抱えている時、世界って、本当に自分一人だけのものに感じるよね」優妃は、結人の手の甲に自分の指を絡めた。「でも、今は違う。結人さんと私だけの、この『静かな聖域』がある」

結人は、優妃の言葉の力に感動した。彼女は、彼の感情を「翻訳」するだけでなく、その感情に名前を与え、二人の共通言語へと昇華させてくれる。

「優妃。一つ、教えてくれる?」

「なあに?」

「君にとって、僕の『純白』はどんな風に見える?」

優妃は少しの間、夜空の星を見つめた後、ゆっくりと答えた。

「『純白』……うん。結人さんの純白はね、音がないの。ノイズがすべて吸い込まれた後の、完璧な『無音』。でも、冷たくない。そこにあるだけで、私が呼吸できる。だから、私にとって結人さんは、世界で一番優しい音色なんだよ」

世界で一番優しい音色。

その言葉は、結人が何よりも恐れていた「ノイズ」に対する、最大の「赦し」だった。彼を苦しめていた極彩色の奔流は、優妃によって「優しい音色」を持つ世界へと変えられたのだ。

結人は、優妃の頭をそっと抱き寄せた。彼の胸に顔を埋めた優妃の周りの透明な空気が、初めて「熱」を帯びたように感じられた。それは、触れ合った体の温もりだけではない、心の深い部分から発せられる、「満たされた愛情」の熱だった。

「優妃。愛してる」

結人は、自分の心が、何のノイズにも汚されることなく、優妃への感情を示す「純白」の光で満たされているのを感じた。そして、優妃の体から、その「熱」に応えるように、微かな、しかし確かな「安心」の光が結人の視界に広がる。

高台の夜空の下、二人は互いの秘密を分かち合い、孤独な魂を結びつけた。

彼らの世界は、ノイズとモノクロという、相反する呪いから生まれた。しかし、今、その呪いは、二人だけの特別な愛の形へと昇華したのだった。

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