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極彩色の窒息  作者: 八宮泉


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12/15

純白の解析、クリアな共鳴

図書館の閲覧ホールは、夕暮れの残光が差し込み、本来なら一日のうちで最も美しい時間帯のはずだった。しかし、結人の目には、書架の隙間から這い出すような漆黒のすすが、空気そのものをドロリと濁らせているのが見えた。

「優妃……!」

結人は、その黒い霧が最も濃く渦巻いている奥の資料室へと駆け込んだ。そこには、床に散らばった楽譜の真ん中で、耳を塞ぎ、蒼白な顔で立ち尽くす優妃の姿があった。彼女を取り囲むように、九条が死神のごとき静けさで立っている。

九条は手にしたタブレットに何かを書き込みながら、獲物を品定めするような冷徹な声で言った。

「興味深い。彼女が発する『音』は、周囲の情報を書き換える力がある。……ですが、過負荷オーバーロードだ。これでは、すぐに壊れてしまう」

九条が優妃に一歩近づこうとした瞬間、結人がその間に割り込んだ。

「彼女に触れるな……!」

結人の全身から溢れ出す「純白」の波紋が、九条の足元に広がる黒い泥を真っ向から押し返す。白と黒の境界線で、火花のようなノイズが弾けた。

「結人くん……? 嫌、来ないで! 私のなかの音が、全部壊れちゃいそうなんだ……!」

優妃の声は、絶望的な「ひび割れた紫」のノイズとなって震えていた。九条の存在そのものが、彼女の繊細な感覚を暴走させ、内側から彼女を焼き切ろうとしていた。

結人は怯まず、優妃の手を強く握りしめた。

「大丈夫だ、優妃。君の音は壊れない。俺が今、そのノイズを全部『翻訳』して消してやる」

結人は意識を極限まで研ぎ澄ませた。九条から放たれる圧倒的な漆黒の圧力を、「恐怖」として受け取ることを拒絶する。それをただの物理現象、ただの「数値データ」として、冷徹に脳内で処理プロセスしていく。

『周波数:固定。波形:不規則。……ただの、意味のない、醜いだけのデータだ!』

結人の視界の中で、九条を包んでいた威圧的な黒い霧が、意味を失い、細かな砂のような粒子へと分解されていく。

「……何をした?」

初めて、九条の無機質な表情に驚きの色が浮かんだ。

結人が放つ純白の光が、優妃の紫色のノイズと混ざり合い、化学反応を起こす。それはやがて、透明度の高い「澄んだクリスタル」のような輝きへと変質していった。

図書館を支配していた腐ったインクの臭いが消え、代わりに、春の嵐が去った後のような、研ぎ澄まされた静寂が戻ってきた。

「……サンプルB(結人)、君は。単なる『受信者』ではなく、世界を『上書き』する側になったというわけですか」

九条はそれ以上追及することなく、静かに眼鏡を直すと、闇に溶けるようにその場を去っていった。

後に残されたのは、荒い息をつく結人と、彼の腕の中でようやく震えを止めた優妃、そして散らばった楽譜だけだった。

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