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とAI  作者: 花黒子


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ケース2:工場の夜勤


 うちの工場の稼働は夜の方が多い。大手企業の孫受けの下請けみたいな位置だから、一つ上の企業の労働時間に合わせると、夜に仕事して昼頃、納品したほうが効率はいいのだとか。

 もちろん、休憩の仮眠時間もあるし、36協定も守っている。


「今月ミス何回目だ?」

 工場長からそう言われても、頭に入ってこないし、そもそもミスの数なんか数えちゃいない。

「もう俺も年です」

 開き直るしかない。

「いやぁ、頼むぜ。45歳だろ?」

「早めにヒューマロイドの導入を考えてください」

 すでにアメリカじゃ実用化されているらしい。

「AI導入できるなら、AI導入しているよ」

 そりゃ、そうだ。うちの工場ではシフト表すら、人間が考え、毎月シフトが変わっていく。

 難しい作業ではない。機械はすべて自動化されているから、その日のオペレーションを確認して稼働させて、製品ができあがったら梱包してフォークリフトで運んで終了。その他、細かい作業はあるものの大体の仕事の流れはこの程度なのに、検品のし忘れや梱包材の入れ忘れなど多発している。

 自分の不注意と言ってしまってはその通りだが、先日28歳の川島くんは仕事帰りに自転車で転倒。工場長が言うように年齢ではなく、この仕事自体、運が悪くなるようにできているのではないかと思っていた。


「はぁ、お疲れ様です。なんか、大したことをしていないのに疲れているの、なんなんですかね?」

 川島くんは、包帯だらけでも仕事場に来ている。

「いや、疲れるんだよ。大きい機械の隣で破片が飛んでくるんじゃないかと思っていたらさ。身体も緊張する。ケガ、治せよ」

「はい。仮眠いただきます」

「うん」


 午前0時を回ると、途端に眠たくなる。初めは効いていたエナジー飲料を飲みながら、梱包作業を進める。おそらくAIが導入されたら、俺達の仕事もなくなるだろう。

 コピー機で納品書のコピーを取ろうとしたら、紙が切れていた。在庫から持ってきて、コピー機に入れた瞬間、目眩がして動けなくなった。

 徐々に視界が狭くなるという例のアレだ。思い返すと、昨日は野球の試合を見ていて、いつもと違うときに寝ていた。

「寝ていなかった」という言い訳が思いついた数秒後、俺は倒れていた。

 

 気づけばベッドに寝かされている。

「大丈夫っすか?」

 川島くんが運んでくれたらしい。

「おおっ? 仮眠室か? 悪い。運んでくれたのか?」

「ええ。渡辺さんと救急車を呼んだほうがいいんじゃないかって話していたんですけど」

 渡辺さんというのは60代の派遣さんだ。渡辺さんをサポートにして、うちの工場は高齢者雇用給付金を貰っている。

「いや、大丈夫だ。たぶん、寝不足で体が限界だったんだと思う」

 そう言えば、食事もエナジー飲料だけだ。


 俺が倒れた一件はその日の日報に書かれ、翌日、労働基準監督署が来るかと思ったら信用金庫の小林さんという人が来た。


「はい。AI導入するので、仕事中はこれ付けておいてください」

「なんですか?」

 腕時計のようだが、心拍数も測れるらしい。別に大手のウォッチではなさそう。

「安物なんで、気にせず使ってくださいね。あと、仮眠時間以外でも夜勤の場合は寝たいときに寝てください。機械の配置も変えるので、ご協力を」

「え!? そうなんですか?」

「そうです。じゃなければ、病院に行ってから労働基準監督署に行ってください」

「それ、クビってことでは?」

「それはこの会社の不当解雇になります。大丈夫、訴えて構いません。仕事を続けてくれるなら固定給にしますから」


 何をどうしたのかわからないが、工場長と社長が来て、俺達が帰る頃には、めちゃくちゃに怒られていた。

 日報にも書かれていたが、小林さんが怒った内容を要約すると産業革命で時間労働が始まったが、情報革命で成果主義に切り変わったのに、「社員をパートタイムで働かせてんじゃねぇ!」ということらしい。つまり時給ではなく固定給で、時間外労働には残業代を払えという。その差分を粉飾する企業が後を立たないとか。

 さらに、今AI革命が起こっていて、成果主義ですらなく環境設計が主な業務で、オペレーションの確認と機械が滞りなく動いているのを確認するのが人間の仕事なのだとか。その労働環境そのものを設計していないおじさんたちが怒られたというわけだ。


 1週間後、仮眠時間が個別で変わることになった。

 さらに機械の下にマットが敷かれ、証明は蛍光灯ではなくちょっと黄色いLEDライトに変わった。仮眠時間に眠れない時のために、呼吸法やシャンプーや石鹸まで提案してくれる。

 その程度で眠れるようになったり、仕事が楽になるなら世話ないと思っていたが、いつ寝てもいいというのはかなり気持ちが楽になった。その分、就業時間は伸びる。仕事をした分の給料がもらえるのもいい。


「シフト、これAIが2分くらいで作ったものなんだが、いいか?」

 工場長は、すっかり萎んでしまった野菜みたいに老け込んでいた。完全に鼻っ柱を折られている。別にシフトに問題はない。むしろ就業時間は減り、固定給で大丈夫なのかと心配している。

「はい。大丈夫ですか?」

「お前たちにミスを起こさせない環境を設計するのが俺の仕事だと怒られてるよ。今年から導入されている法律もあるらしい」

 2025年から職業安定法という法律が施行されている。マネジメント、コンサルの仕事はどんどん更新されていく。

 工業地帯の外れにある、こんな工場でもAIが導入されて労働環境が変わった。


 ひと月後、生産性が15%上がったらしい。


「こんなに変わるもんなんですか?」

 工場に来た小林さんに聞いてみた。

「ミスが減ったでしょう?」

「いや……、確かに」

 確かにミスがなくなったが、それほど機械も稼働していないと思っていた。


「日報に自分たちのミスをちゃんと書いておいてくれて助かりました。事故率も離職率も下がると思います」

「なにをどうやったんですか?」

「疲労指数を計ったんです。限界に行かない設計にしただけです。深夜に機械音にさらされるとストレス値が上がって甘いもの食べたくなるじゃないですか?」

 確かにコンビニでお菓子を買って食べていた。タバコもコーヒーもやめられないと思っていたが、最近は仕事中に休憩してタバコを吸うこともいない。エナジー飲料を飲む回数も減った。最近は、お茶だ。


「甘いものを食べると血糖値上がって眠くなるけど、それがないのも生産性が上がっている要因です」

「そんな……。エナジードリンクって良くないんですか?」

「いつ飲むかによるんです。体重も落ちてませんか?」

「痩せていきます。ストレスだったんですかね?」

「はい。自分で自分の疲労を知るって結構難しいんで、普通にAIに頼むといいですよ。この工場で使ったのは、潜水作業をする人のための指標ですから」

「え!? 潜水って海底とか?」

 俺たちは陸で水中作業をしていたようなものか。

「そうです。水中だと水圧、潮の流れ、酸素、集中、孤立がストレスとして存在しているわけですよね? 陸上は、この工場は、無理に過集中にならないオペレーションしかしてないのに、集中力を上げる必要もないんですよね」

「確かに、仕事がそれほど難しいと思ったことはないです」

「でしょう。そのはずなんですけど、未だに情報革命から取り残された人たちが、努力をしないと成果が出ないと思って、仕事を無理やり難しくしてしまうんですよ。それで仕事の管理をしようとするんですけど、大した成果は出ないんです。生産性を上げるためにやるべきは休息の管理だったというのが、AIが出した結論です」

「持続的なパフォーマンスを考えると怠くならない程度の休息が重要ってことですか」

「そういうことです」


 給料は安定するし、AIを導入していいことしかない。


「疲労指数か……。なんで今までなかったんだろう?」


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