第二話 柔らかさを求めて市場へ
昼下がりの陽射しが、石畳の街道を淡く照らしていた。
遠くに見える街門の上では、旗がひらめき、行き交う馬車や旅人の影が揺れる。
「……やっと着いたかぁ」
荷袋を肩に担ぎながら、晴人はあくびを一つ。
長い道のりを歩き詰め、足取りは重い。だがその目には、達成感よりも――「これで寝床にありつける」という安堵の光が宿っていた。
街門の前には、武装した二人の門番。
一人は槍を持ち、もう一人は帳簿を抱えて旅人の名前や持ち物を確認している。
「次の方、どうぞー」
晴人の番が来た。門番の若い男が目を細めて彼を見上げた。
「身分証か、ギルド証の提示を。……あんた、見ない顔だな。どこから来た?」
「えっと……森の方、ですね。名前は晴人。観光っていうか、まぁ……昼寝できる場所を探しに」
「昼寝?……はぁ?」
門番が呆れた顔をする。もう一人の年配の門番が笑った。
「まあいい、危険物は?」
「ないです。食材くらい?」
「ふむ、荷を見せてくれ」
晴人は肩の袋を開いた。中からふわりと、白い繊維の塊が顔を出す。
まるで雪の雲を掬い取ったような、透き通る白。
「……こりゃ、森綿か?」
「えっ、わかるんですか?」
年配の門番が目を見開いた。
「森綿なんて、普通は採れねぇぞ。しかも状態がいい……どこで手に入れた?」
「森の奥で偶然拾ったんです。木の枝に引っかかってて。ふわふわしてたんで……」
「拾った、ねぇ……あんた運がいいな。銀貨2枚はくだらねぇ代物だ」
晴人の目がわずかに光る。
「え、それって……売れるってことですか?」
「ギルドに持っていけ。鑑定料はかかるが、ちゃんとした査定をしてもらえる。
まあ、くれぐれも盗品じゃないって証明がいるがな」
門番は軽く肩をすくめた。
晴人は慌てて手を振る。
「拾い物ですよ、ほんとに!」
「ははっ、そう願うぜ。……よし、通っていい」
木製の門がゆっくりと開かれる。
石造りの街並み、雑踏のざわめき、香ばしい焼きパンの匂い。
晴人はふと目を細めた。
「……街って、にぎやかだなぁ」
そのまま門をくぐり抜けながら、彼はぽつりとつぶやいた。
けれど、その足取りはやはり「昼寝場所」を探すかのように気まぐれで、目的意識などほとんど見えなかった。
◆ ◆ ◆
ギルドは中央広場の一角にあった。
石造りの重厚な建物に、金属の看板で「冒険者ギルド支部」と刻まれている。
中に入ると、冒険者たちの声と金属の音、そして香辛料の匂いが混じり合っていた。
「……うわ、にぎやかすぎ」
晴人は一歩足を踏み入れた瞬間、思わず後ずさる。
受付前には長蛇の列、壁際には依頼書の貼られた掲示板。
その中を器用にすり抜けながら、彼は小声でつぶやいた。
「素材の換金だけ……素材の換金だけして、宿取って寝る……」
カウンターにたどり着くと、茶髪の受付嬢が笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ。素材の持ち込みですね?」
「はい。これ、森綿って言われたんですけど」
「……森綿?」
受付嬢の目が一瞬、驚きに染まる。
すぐに身を乗り出し、袋の中をのぞいた。
「状態、いいですね……!繊維が潰れてないし、採取直後みたい。どちらで?」
「森で、拾いました」
「拾った……そうですか。では鑑定士を呼びますので、少しお待ちくださいね」
晴人はうなずき、近くのベンチに腰を下ろす。
賑やかな空気の中で、どこか場違いな静けさをまとっていた。
鑑定士が現れたのは、それからほんの数分後だった。
年の頃は四十前後。白い外套を羽織り、片手には分厚い手帳と拡大鏡。目元は理知的だが、口調には職人気質の厳しさがあった。
「森綿の持ち込みと聞いたが、君か?」
「はい。これです」
晴人は袋を差し出す。
鑑定士は慎重に中身を取り出し、光に透かして繊維の状態を確かめた。
しばしの沈黙のあと、小さく息を漏らす。
「……本物だな。しかも――極上品だ。森綿の繊維がここまで揃っているのは、年に数件あるかどうかだ」
「本物……。あの、いくらぐらいになるんですか?」
「そうだな。純度と保存状態を考えれば、銀貨十二枚。この街では寝床一年分にはなる額だ」
晴人は思わず目を丸くした。
だが次の瞬間、ほんの少しだけ口元が緩む。
「一年寝て暮らせる……夢のようだ」
受付嬢が苦笑する。
「そんな理由で喜ぶ人、初めて見ました」
鑑定士も口元をほころばせながら帳簿に記入し、印章を押した。
「ただし、念のため確認だが――これは本当に君が拾ったものか? 森綿は採取区域が限定されている。勝手な採取は密猟扱いになる」
「拾い物です。木に引っかかってたんですよ」
「そうか。なら問題ない。これで取引成立だ」
鑑定士が封筒に銀貨を入れ、晴人へと手渡した。
じゃらり、と硬貨の音。
晴人はその重みに、ようやく現実味を感じる。
「……すごい、本当にお金だ」
「そりゃそうだろう。森綿を見事な状態で持ち込んだんだ。運がいいよ」
受付嬢が笑顔を見せた。
晴人は少しだけ照れくさそうに頭を下げる。
「じゃあ、寝床を探して……」
そう言いかけたそのとき。
ギルドの奥から、若い冒険者が駆け込んできた。
「おいっ、誰か氷を作れるやついねぇか!? 氷魔法だ、氷魔法!」
場の空気が一瞬で変わる。
晴人は首をかしげた。
「氷? どうしたんです?」
「外の屋台の氷が全部溶けたんだよ! 今日は商会の品評会があるってのに、冷やすもんがねぇ! 誰か冷却魔法使えるやついねぇのかよ!」
受付嬢が困ったように眉を寄せた。
「氷魔法は希少ですからね……ギルドにも今、該当登録者はいません」
晴人は一瞬迷った。
――関係ない。もうお金はあるし、早く寝たい。
だが、耳にした「氷が溶けた」という言葉が、なぜか気になった。
「……氷を作るだけでいいんですか?」
「え? あんた、できるのか!?」
「まぁ、ちょっとだけなら」
周囲がざわめく。晴人は手を上げて軽く集中した。
掌の上で、透明な光が集まり、空気がひんやりと震える。
数秒後、手の中には硬質な氷塊が形成されていた。
「おおっ……!」
歓声が上がる。
「本物の氷魔法使いじゃねぇか!」
「すげぇ……こんな澄んだ氷、初めて見た!」
晴人は少し照れたように頬を掻いた。
「これで足ります?」
「助かる! 急いで屋台に持っていこう!」
冒険者が慌てて氷を受け取り、走り去る。
受付嬢がぽかんとしたまま、ようやく口を開いた。
「……氷魔法、使えるんですね。登録すれば、かなり高報酬の依頼も受けられますよ?」
「えぇ、でも……疲れるし、昼寝の時間が減るんで」
「そ、そうですか……」
周囲から笑いがこぼれる。
晴人は肩をすくめ、封筒を握りしめながらギルドを後にした。
◆ ◆ ◆
外は夕方の光。
広場では屋台が並び、香ばしい匂いが漂っている。
焼き串、パン、果実水――そして一際人だかりができているのは、氷菓子屋台の前だった。
「さっきの氷魔法の人が助けてくれたんだとよ!」
「すげぇ! 冷たいデザートが戻った!」
そんな声を聞きながら、晴人はそっと屋台をのぞき込んだ。
桶の中に透明な氷が浮かび、そこへ蜜をかけたかき氷が盛られている。
しかし、使っている蜜は色も香りも乏しく、どこか味気ない。
(再現果の蜜の方が、ずっと美味しいのに……)
そう思った瞬間、隣にいた店主らしき男性が声をかけてきた。
「おや、あんた。さっきの氷、作ってくれた人だろ?」
「えっ……あぁ、まぁ、そうですけど」
「助かったよ! あのままだったら商会の試食会が台無しになるとこだった。……礼に、何か食っていきな」
晴人は一瞬、断ろうとした。
だがふと、空腹を思い出す。
腹の虫が静かに鳴いた。
「……じゃあ、一杯だけ」
「おう、ちょっと待ってな!」
木の器に盛られたかき氷が差し出される。
透明な氷に、淡い色の蜜がかかっている。
晴人は一口すくい、口に運んだ。
「……んー、悪くないですけど、ちょっと薄いかも」
「だろ? 蜜の材料が手に入らなくてなぁ」
晴人は荷袋を思い出す。
――再現果の蜜。あれなら、もっと香り高くて濃厚な味になる。
「もしよかったら、これ使ってみます?」
晴人は果実を一つ取り出した。
見た目は淡い橙色の小玉で、切ると透明な液体がじんわりとにじむ。
それを軽く冷やしてから蜜に混ぜると、ふわりと花のような香りが立ち上った。
「な、なんだこの匂い……!」
「これでかけてみてください」
店主が恐る恐る、再現蜜を氷にたらす。
次の瞬間――周囲から歓声が上がった。
「甘っ! 香りがすごい!」
「これ、なんだ? 今までのと全然違う!」
「冷たいのに、花の蜜みたいな味がする……!」
晴人は少しだけ微笑んだ。
その表情には、満足感というより「安心感」があった。
――この世界でも、自分の小さな工夫が通じる。
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「こりゃ商売になるな……!」
店主が目を輝かせる。
「なぁ、あんた。この蜜と氷、しばらく分けてくれないか? 売り上げの半分を渡す。どうだ?」
「えっ……でも、俺、寝たいんですけど」
「昼寝しながらでもいい! 材料だけ供給してくれ!」
周りの客が笑いながら「それでいいじゃねぇか!」と声を上げる。
晴人は困ったように頭をかき、結局うなずいた。
「……まぁ、寝る時間が確保できるなら」
「決まりだ! こいつは“昼寝氷”の誕生だな!」
そうして、偶然の出来事がひとつの小さな商売を生んだ。
晴人が作る透明な氷と、再現果の蜜――その組み合わせは、すぐに街の噂となって広がっていく。
◆ ◆ ◆
日が沈み、屋台が片付けられる頃。
晴人は街の端にある安宿の一室にいた。
木造の部屋に、簡素なベッド。窓からは夜風が流れ込む。
ベッドに身を沈めながら、晴人はぽつりとつぶやいた。
「銀貨十二枚と、氷とかき氷の屋台……悪くない一日だったな」
目を閉じると、森綿の柔らかな感触が指先に残っている気がした。
ふわふわとしたその感覚は、まるで今日一日の出来事を包み込むように優しかった。
――異世界でも、昼寝は最高だ。
そう思いながら、晴人は静かに眠りへと落ちていった。
朝の光が薄く宿の窓を照らす。
鳥のさえずりが聞こえ、通りのざわめきがゆっくりと広がっていく。
晴人はまだ布団の中でうつ伏せになりながら、ゆるりと目を開けた。
昨夜、ようやく手に入れた「寝床」で迎える朝。
それは、異世界に来てから初めて味わう穏やかな目覚めだった。
「……やっぱりベッドって偉大だなぁ」
森の地面で寝ていた数日を思い出し、思わず苦笑する。
あのときは木の根の感触が背中に刺さり、何度寝返りを打っても安眠とは程遠かった。
それに比べれば、この宿の薄いマットレスですら天国のようだ。
ただ――枕だけは、やはりしっくりこない。
藁を詰めただけの簡素なものは、首の形に馴染まない。
(やっぱり、森綿のクッションが恋しいな……)
ふと、昨日のことを思い出す。
森綿の柔らかさ、手触り、あの温もり。
あれがあれば、昼寝は格段に快適になる。
「……決まりだな。寝具屋を探そう」
晴人はそうつぶやくと、顔を洗い、昨日の銀貨のうち数枚を小袋に入れて宿を出た。
◆ ◆ ◆
朝の街は活気に満ちていた。
行商人が荷車を押し、香ばしいパンの匂いが通りを流れていく。
屋台の一角では昨日の「昼寝氷」が早くも噂になっていた。
「昨日の氷、最高だったよな!」
「蜜がすごい香りでさ、もう一度食べたい!」
そんな声を横目に聞きながら、晴人は小さく笑った。
――あの再現果の蜜、もう少し確保しておいたほうがいいかもしれない。
けれど今日の目的は「寝具」だ。
通りを歩きながら、木製の看板に目を走らせる。
すると、通りの奥にひっそりと古びた看板が見えた。
《寝具屋 アルモンド》
「お、ありました」
扉を押すと、木鈴の音がカランと鳴った。
中は静かで、ほのかに乾いた草の香りがする。
店主は初老の男性で、丸い眼鏡をかけて帳簿を見ていた。
「いらっしゃい。……珍しい顔だね、旅の人かい?」
「まぁ、そんなところです。寝心地のいい枕か布団を探してて」
「ほう、目が肥えてる客は久しぶりだ。で、どんな素材が好みだ?」
「ふわふわしてて、できれば森綿を使ったものが……」
店主の手が止まった。
そして顔を上げる。
「……森綿、だと?」
「はい。昨日、たまたま拾ったんですけど。あれ、すごく柔らかいですよね」
「たまたま拾った……? あんな高級素材を……?」
店主は立ち上がり、奥の棚から慎重に布包みを取り出した。
布の中には、少量の森綿が詰められた小さな枕があった。
「これが森綿入りの枕だ。王都に納める品で、一般には出していない。だが、触ってみるといい」
晴人はおそるおそる手を伸ばし、枕を押した。
指先が沈む。空気を含んだような弾力。
思わず息をのんだ。
「……すごい。これ、雲みたいですね」
「だろう? ただし、値も雲の上だ。これ一つで銀貨二十枚だ」
「二十!?」
思わず声が上ずった。
昨日手に入れた森綿を全部売っても、少し足りない。
「まぁ当然だ。森綿は秘境の花木からしか採れない。採取には熟練の冒険者でも命懸けさ」
晴人はしばらく考え込んだ。
手持ちでは足りない。だが、どうしても欲しい。
――自分の森綿を使って、自作できないだろうか?
そう思い、店主に尋ねた。
「もし素材を持ち込んだら、加工だけお願いすることはできますか?」
「持ち込みか……? それが本物なら、特別にやってやれなくもないが……見せてみろ」
晴人は慎重に荷袋から残りの森綿を取り出す。
光を浴びて淡く輝く白い繊維。
店主の目が一気に見開かれた。
「こ、これは……! 極上品じゃねぇか!」
店主は慌てて両手で包み込み、繊維の状態を確認した。
「これほど均一で柔らかい森綿は滅多にない。どこで……?」
「森の中で、木の枝に引っかかってたんです」
「奇跡だな……。あんた運がいい。いや、森があんたを選んだのかも知れん」
そう言うと店主は、静かに笑った。
「いいだろう。特別に加工してやる。ただし――代金は少し時間をもらう」
「お願いします!」
「仕上がりは三日後だ。それまでに宿を延長しておけ」
「わかりました!」
晴人は深く頭を下げ、店を後にした。
外に出ると、朝の日差しが目にまぶしい。
思わず大きく伸びをする。
(これで三日後には……理想の昼寝枕が手に入る!)
その瞬間、胸の奥がふわりと軽くなった。
◆ ◆ ◆
昼下がり。
再びギルドの前に立った晴人は、昨日と同じ受付嬢に声をかけられた。
「あっ、昨日の方! かき氷屋さん、すごい評判ですよ!」
「……え、もうですか?」
「“昼寝氷”って名前までついてました。今日の午後には商会の査定員が視察に来るらしいです」
「昼寝氷……ネーミングセンス……」
晴人は苦笑いを浮かべながら、受付の前に立った。
「ところで、素材の加工をお願いできる工房とかってあります?」
「加工ですか? 森綿のような繊維なら、寝具職人のアルモンドさんが一番ですね」
「やっぱりあの人、有名なんだ」
「えぇ。王都でも指名が入るほどの職人です。……まさか、彼に頼んだんですか?」
「はい。ちょうど今、枕を作ってもらってます」
受付嬢は目を丸くした。
「すごいですね! あの人、そう簡単には請け負ってくれないんですよ」
「運が良かったんでしょうね」
晴人は肩をすくめ、少し照れたように笑った。
そのとき、奥から別の職員が慌てて駆けてきた。
「受付さん! 例の“昼寝氷”の件で……!」
「え、もう来たんですか!?」
商会の査定員が現れ、晴人をまっすぐ見据えた。
初老の男性で、服装は上等。腰には印章入りの袋。
その眼差しには、商人らしい鋭さが宿っている。
「あなたが、“昼寝氷”の発案者ですね?」
「え、まぁ……そういうことに?」
「お見事です。昨日の屋台で試食させていただきましたが、再現果の蜜との組み合わせは非常に独創的。もし可能であれば、当商会で正式に扱わせていただきたい」
「正式に……?」
「はい。氷の供給と蜜の提供を定期契約する代わりに、対価として銀貨を――」
晴人は思わず口を挟んだ。
「すみません、俺、昼寝の時間が減るのはちょっと……」
その場の全員が固まる。
査定員が瞬きをし、ゆっくり息を吐いた。
「……昼寝の、時間……?」
「はい。昼寝は大事ですから。契約して仕事が増えたら、寝る時間なくなるじゃないですか」
受付嬢が苦笑を堪えきれず、肩を震わせた。
査定員は数秒沈黙したのち、意外にも穏やかな笑みを浮かべた。
「なるほど、筋が通っている。よろしい、週に一度の納品で構いません。それなら、昼寝の時間も確保できるでしょう」
「……ほんとにいいんですか?」
「えぇ。良い品は、無理して作らせても劣化する。あなたの“昼寝哲学”には、一理あります」
こうして、晴人は商会との契約を結ぶことになった。
“昼寝氷”は正式に商品化され、森綿の加工品と並んで、街の新名物として評判を呼ぶことになる。
◆ ◆ ◆
三日後。
寝具屋アルモンドの店先にて。
「おう、できたぞ。あんたの森綿枕だ」
差し出されたのは、柔らかな乳白色の枕。
触れると、指がゆっくり沈み、微かに体温を返してくる。
まるで生き物のように、形を持たずに馴染む感触。
「……すごい。想像以上です」
「森綿の性質を最大限に生かした。中に空気を抱かせてあるから、暑くても蒸れない。どんな姿勢でも頭が沈み込みすぎない」
「完璧ですね」
晴人は頬に枕を当てて、うっとりと息を吐いた。
「これで……昼寝が、完成する……!」
「はは、そんなに喜ばれると作りがいがあるな」
アルモンドは笑い、手を差し出した。
「また素材が手に入ったら持ってきな。森綿はあんたと相性がいいようだ」
「そうですね。また拾えたら」
晴人は銀貨を支払い、枕を大事に抱えて店を出た。
夕陽が街をオレンジに染める。
その光の中で、彼はまるで宝物を抱くようにそれを胸に当てた。
(森も、街も、悪くない。……でも、やっぱり昼寝が一番だな)
宿に戻ると、晴人は新しい枕をベッドに置き、ため息をついた。
横たわる。
柔らかな感触が頭を包み、身体の力が溶けていく。
「……最高だ……」
遠くで屋台の声が聞こえ、子供の笑い声が風に流れていく。
異世界の街は今日も穏やかだ。
だがその片隅で、ただ昼寝を追求する男が一人。
森綿の枕に顔を埋めながら、満ち足りた夢へと沈んでいった。
――次に目覚めたとき、また新しい出会いが待っているとも知らずに。
AIに代わりに書いてもらおうとか企んだこともあるんですが、出会ったことのないはずのギルドの人間となぜか顔見知りだったり、お金持ってないと言って仕事始める前にかき氷買って食い始めたり、散々でした。
これなら自分で書いた方が早いという結論だったんですけど、無料版使ってるからですかね…