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第一話 「昼寝のための生活基盤」

森綿に身を沈め、背中や首を支える感覚を確かめながら、晴人は目の前の昼寝空間を整えていた。太陽はまだ高く、木々の間から差し込む光が淡く森を照らす。今日、この森に来たのは初めてだ。異世界転生の経緯は未だに頭の片隅でぼんやりしているが、今はただ、自分だけの居場所を作ることに集中していた。


空間操作を試しながら枝や苔を運ぶ。少し力を入れすぎると、森綿の一部が跳ね上がり、枝を巻き込みながらポーンと飛ぶ。焚き火の近くに落ちると煙がもうもうと立ち上がった。慌てて引き戻すも、一部が少し焦げた程度で済む。大惨事にはならなかったが、慎重さが必要だと改めて思い知る。


「……でも、これで少しずつ理想の形に近づくはずだ」


森綿の層を重ね、枕部分の形を整える。厚みと柔らかさを調整すると、頭を沈めた時の首の角度がちょうどよく、背中全体が包まれる感覚が生まれた。和風布団のような柔らかさを意識し、軽く手で押して沈み具合を確認する。昨日の簡易ベッドよりも格段に快適だ。


その横で、昨日発見した空殻果を手に取る。かつ丼、カレーライス、そして今日は豚骨ラーメン。便利植物は森での生活を信じられないほど快適にしてくれる。集中して空間操作で割ると、中から湯気とともに濃厚な香りが立ち上る。豚骨ラーメンの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、思わず唾液を飲み込む。麺は完璧な茹で加減で、具材も整っている。手を加える必要はない。


「なるほど……かつ丼だけじゃない。カレーもある、そしてこれは……豚骨ラーメンか」


満面の笑みを浮かべ、少しずつ味わう。便利植物は昼寝前の栄養補給として理想的であり、森での生活には欠かせない存在だ。


食後、昨日採取した薬草や清浄草を再び鑑定する。癒し草は微弱な回復効果、清浄草は水を浄化する力があることを確認し、森綿の近くに整列させる。必要な時にすぐ取り出せるように空間収納も工夫する。便利植物、薬草、森綿の寝具……すべてが昼寝のために役立っている。


「……これで体調も、食料も、安心だ」


そう呟くと、森綿のふかふかさと枕の安定感が体全体を包む。掛け布団の代わりとして使う層も適度な重さがあり、体を優しく支える。完璧な昼寝環境に近づきつつある。


昼が過ぎ、夕方になると森は黄金色に染まる。焚き火の炎も揺れ、森綿の寝床を照らす。背中に少し残る痛みも忘れられるほど快適だ。香ばしい食事の匂い、焚き火の温もり、森の空気が五感を満たす。


眠気がじわじわと体を包み、まぶたが重くなる。夢の中ではすでに理想的な布団と枕が揃った部屋で、昼下がりの光を浴びながらうとうとしている。森の現実は湿気や冷たさがあるが、意識の中では昼寝空間は完璧に整っていた。


ここで初めて、晴人は異世界転生したことを思い出す。元の世界では想像もできなかった、森の中で昼寝だけで生活できる日々。空間操作の能力、便利植物、薬草、森綿の寝具、すべてが揃い、生活が成立している。


夜になると森は静まり返る。木々の葉が揺れ、遠くで小川のせせらぎがリズムを刻む。焚き火は残り火を灯し、森綿の寝床を柔らかく照らす。森での生活のリズムが少しずつ確立されつつある。


翌朝、霧が薄く漂う森の空気はひんやりと冷たい。森綿の枕は乾燥しており、掛け布団の代わりの層も体を支える。火は赤い炭で簡単に再点火でき、水も清浄草で安全に確保される。食事も空殻果で安定し、森での生活はますます安定している。


森綿に身を沈めながら、晴人は満足の笑みを浮かべる。森の風が頬を撫で、遠くで小川のせせらぎが静かに響く。ここは他の誰でもない、自分だけの場所。昼寝のために整えられた、完璧な森の小さな空間。今日も明日も、彼の昼寝を支え続けるだろう。

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完全にその日暮らしです。

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