16. 無理に無理が重なって無理ぃぃぃ!!
「みなさん!」
るなが仲間たちと市民たちに向かって叫んだ。
「一緒に戦いましょう!」
「はい!」
全員の声が重なる。
「理不尽を許さない心を込めて!」
「はい!」
「弱い者を守る気持ちを込めて!」
「はい!」
「そして——愛と友情を込めて!」
「「「はい!」」」
みんなの想いが、るなの拳に集まった。
「バカバカしい! そんな綺麗事で——」
「綺麗事じゃありません」
るなが前に出る。
「これが人間の真の力です」
「《キング・オブ・アナイアレーション》!」
キングが最強の殲滅技を放つ。
「《愛と正義のボディブロー》!」
るなも渾身の一撃で応える。
ドゴォォォン!
二つの力がぶつかり合う。だが——
「まだまだ!」
るなの攻撃が止まらない。
「無理ィィィ!」
一発。
「無理ィィィ!」
二発。
「無理ィィィ!」
三発。
「ちょっと……るな様……」
仲間たちがドン引きし始める。
「無理ィィィ!」
四発目。
「いくらなんでも……」
「無理ィィィ!」
五発目。
「るな様……もう十分では……」
「無理ィィィ!」
六発目。キングの巨体がよろめく。
「ば、バカな……」
「無理ィィィ!」
七発目。
「無理ィィィ!」
八発目。
「る、るな様……そろそろ……」
アランが心配そうに言う。
「無理ィィィ!」
九発目。キングが膝をつく。
「無理ィィィ!」
十発目。
「ストップ! ストップ!」
ガルス団長が必死に制止しようとする。
「無理ィィィ!」
十一発目。
「無理ィィィ!」
十二発目。
「るな様! いくらなんでもやりすぎです!」
マリアが叫ぶ。
「無理ィィィ!」
十三発目。
「無理ィィィ!」
十四発目。
「だれか止めてください!」
トムが青ざめている。
「無理ィィィ!」
十五発目。
「無理ィィィ!」
十六発目。キングがさらによろめく。
「るな様……そろそろ本当に……」
リサまで心配になってくる。
「無理ィィィ!」
十七発目。
「無理ィィィ!」
十八発目。
「こ、降参だ……」
キングが弱々しく言う。
「無理ィィィ!」
十九発目。るなは止まらない。
「無理ィィィ!」
二十発目。
「るな様!!!」
仲間たち全員が叫ぶ。
「もう勝負は決まってます!!!」
その声でようやく——
「あ……」
るなが我に返る。
「やりすぎました……?」
「やりすぎです!」
仲間たち全員が声を揃えて叫んだ。
「でも……」
るなが最後にキングを見る。
「最後は心を込めて、きちんと決めないといけませんね」
「えぇ……」
仲間たちが冷や汗をかく。
「みなさん! 最後の一撃です!」
「は、はい……」
仲間たちが恐る恐る応える。
「愛と友情と正義の心を込めて!」
るなが最大の力を溜める。
「みんなの想いと一緒に——」
「「「無理ィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」」」
るなと仲間たち、そして市民たち全員の声が重なった。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
史上最大の愛と正義のボディブローが、キング・オブ・モラハラの腹部に炸裂した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶対君主の巨体が宙に舞い上がった。官邸の天井を突き破り、雲を突き抜け、成層圏を越えて、宇宙の彼方まで飛んでいく。
空に輝く星となったキングを見上げながら——
「やった……」
るなが膝をついた。でも今度は疲労ではなく、達成感だった。
「やりましたね……」
仲間たちも、複雑な表情で微笑んでいる。
「でも……ちょっとやりすぎでしたね……」
「愛と友情のためです……」
「「「説得力ないわ」」」
仲間たちの声の揃ったツッコミにるなが苦笑いする。
「いやでも、ほら、理不尽はこうでもしないと撲滅出来ないから」
るなは空を指さして言う。指先に視線を釣られて、全員が空を見上げる。キング・オブ・モラハラは、文字通り宇宙の彼方に飛んでいった。
------
キングが宇宙まで飛ばされてから3時間後——
「あ、何か落ちてきます」
マリアが空を指差した。
小さな点が段々と大きくなり、やがてキングの巨体だと分かる。
「うわぁ、戻ってきた」
トムが慌てる。
「また戦闘ですか?」
「いえ……」
るなが首を振る。
「何か違います」
ドスン!
キングが官邸の庭に着地した。だが——
「あの……」
キングが立ち上がると、なんと正座して頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
「え?」
全員が驚く。
「宇宙まで飛ばされている間に、色々と考えました」
キングが涙を流しながら言う。
「私は間違っていました。完全に、根本的に間違っていました」
「キング市長……」
「私は力だけを信じて、人の心を踏みにじってきました」
キングが震え声で続ける。
「でも、宇宙から地球を見て分かったんです」
「何がですか?」
「人間は一人では生きていけない。みんなで支え合って生きる生き物なんだということが」
キングの目に、本当の涙が浮かんでいる。
「地球がこんなに美しいのも、そこに住む人々が愛し合って暮らしているからなんですね」
「キング市長……」
「私は支配することしか知りませんでした。でも本当は、共に歩むことが大切だったんです」
「私も……」
ドラコニアが前に出てきた。
「本当は分かっていたんです。るな様の言葉が正しいことを」
「ドラコニア……」
「でも、認めるのが怖かった。これまでの自分を否定することになるから」
ドラコニアが頭を下げる。
「私も心から謝罪します」
「僕もです」
グリードも続く。
「お金を追いかけることしか知らなかった僕に、本当に大切なものを教えてくれました」
「俺もだ」
ゴルドが重い口を開く。
「腐敗した政治家として生きてきたが、清廉な心の美しさを知った」
「私も同じです」
アクティブも頭を下げる。
「知識をひけらかすことばかり考えていましたが、相手を思いやる心の方が大切だと学びました」
4人が並んで深く頭を下げる。
「私たち4人も、心を入れ替えて各市の改革に協力します」
「みなさん……」
るなが感動する。
「市民のみなさん!」
キングが官邸のバルコニーから呼びかけた。
下には洗脳されていた市民たちが集まっている。
「これまで私は、皆さんを苦しめてきました」
キングの声が街に響く。
「重税を課し、思想を統制し、自由を奪ってきました」
市民たちがざわめく。
「でも今日から、全てを改めます」
「えぇ?」
「まず税金を10分の1に減税します」
「ええぇぇ!」
市民たちが驚く。
「思想統制も廃止します。みなさんは自由に考え、自由に発言してください」
「本当ですか?」
「本当です。そして私は市長を辞職します」
「え?」
「代わりに、民主的な選挙を行います。皆さんが本当に望むリーダーを選んでください」
市民たちの目に光が戻ってきた。
「自由……」
「本当に自由になれるの?」
「はい」
キングが微笑む。
「皆さんは自由です」
その瞬間——街を覆っていた暗い霧が晴れた。
太陽の光が街に降り注ぎ、市民たちの顔に笑顔が戻る。
「ありがとうございます!」
「キング市長、ありがとうございました!」
歓声が街中に響いた。
------
翌日から、各市で本格的な改革が始まった。
グランベル市では——
「市民の皆さん、これからは対話重視の市政を行います」
ドラコニアが市民集会で宣言する。
「皆さんの意見を聞かせてください」
「本当に変わったんですね」
市民たちが安堵の表情を浮かべる。
ベルモント市では——
「これまで取り上げた財産を、全て市民にお返しします」
グリードが市役所前で発表した。
「そして今後は、皆が豊かになる経済政策を進めます」
「やったー!」
市民たちが喜ぶ。
シルバーウッド市では——
「汚職は完全に廃止します」
ゴルドが透明なガラス張りの新市役所で言う。
「全ての政治活動を公開し、クリーンな政治を実現します」
「素晴らしい!」
市民たちが拍手する。
アイアンクロー市では——
「学歴や知識で人を差別するのは間違いでした」
アクティブが教育改革を発表する。
「これからは一人一人の個性を大切にした教育を行います」
「ありがとうございます!」
子供たちが目を輝かせる。
そしてオークヒル市では——
「民主的な選挙の結果、新市長が決まりました」
選挙管理委員会が発表する。
選ばれたのは、草の根連合のリーダーだったエドワードだった。
「市民の皆さんと一緒に、新しい街を作っていきます」
エドワードが就任挨拶をする。
------
1週間後、5市合同の特別式典が開催された。
「本日、我々5市は共同で宣言いたします」
エドワード新オークヒル市長が壇上に立つ。
「モラハラ撲滅都市共同宣言を!」
大きな拍手が会場に響く。
「我々は宣言します」
ドラコニア、グリード、ゴルド、アクティブ、そして元キングも壇上に並ぶ。
「一、いかなる形のモラハラも許さない」
「二、市民一人一人の人権と尊厳を守る」
「三、対話と協力で問題を解決する」
「四、差別と偏見のない社会を築く」
「五、子供たちに希望ある未来を残す」
5つの宣言が読み上げられると、会場は大きな歓声に包まれた。
「そして!」
エドワードが続ける。
「この偉大な改革を導いてくれた理不尽撲滅隊に、5市合同で感謝状を贈呈いたします」
るなたちが壇上に上がると、割れんばかりの拍手が響いた。
------
その夜、5市合同の祝賀会が開かれた。
「るな様!」
市民たちがるなを囲む。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ」
るなが謙遜する。
「私は何もしてません。みなさんが本当は正しい心を持っていただけです」
「そんなことありません」
エドワードが言う。
「あなたがいなければ、私たちは変われませんでした」
「そうです」
ナースも続く。
「希望を与えてくれたのは、るな様です」
「私たちも同感です」
改心した元市長たちも口を揃える。
「あなたのおかげで、本当の自分を取り戻せました」
宴は夜遅くまで続いた。みんなの笑顔があふれる、温かい時間だった。
------
宴が終わり、みんなが寝静まった夜——
るなは一人でバルコニーから星空を見上げていた。
「長い戦いでしたね……」
アランが隣に立つ。
「そうですね」
るなが微笑む。
「でも、素晴らしい結果になりました」
「るな様のおかげです」
マリアも加わる。
「いえいえ」
るなが首を振る。
「みんなのおかげです」
仲間たちが一人、また一人と集まってくる。
「それにしても」
リサが思い出したように言う。
「最後のボディブロー連打は凄かったですね」
「あ……」
るなが恥ずかしそうに赤面する。
「あれは……つい……」
「20発は多すぎでしたよ」
ガルス団長が笑う。
「でもおかげで、キング市長も完全に改心しましたね」
「宇宙まで飛ばされれば、誰でも反省するでしょう」
トムが苦笑する。
みんなで笑い合いながら、星空を見上げる。
「次はどこに行きましょうか?」
アランが聞く。
「そうですね……」
るなが遠くの街並みを見つめる。
「きっと、まだ他の場所でも理不尚で苦しんでいる人がいるでしょう」
「はい」
「だから、旅は続きますね」
「もちろんです」
仲間たちが頷く。
「理不尽撲滅隊の使命は続きます」
------
翌朝——
「いよいよお別れですね」
エドワードをはじめ、5市の代表者たちが見送りに来てくれた。
「寂しくなります」
「でも、皆さんならもう大丈夫です」
るなが微笑む。
「本当の心を取り戻したんですから」
「はい」
元キングも深く頭を下げる。
「私も新しい人生を歩みます。今度は人のために」
「応援してます」
「ありがとうございます」
改心した4人の元市長たちも並んで挨拶する。
「私たちも、本当の改革を続けます」
「頑張ってください」
るなたちが荷物を背負う。
「また会えますか?」
子供たちが尋ねる。
「もちろんです」
るなが約束する。
「困ったことがあったら、いつでも呼んでください」
「はーい!」
子供たちが手を振る。
「元気でー!」
「皆さんも元気で!」
理不尽撲滅隊が歩き出す。朝日に向かって。
------
街を出て、街道を歩きながら——
「今回は本当に大変でしたね」
マリアが振り返る。
「Sランクの敵は強すぎました」
「でも勝てましたね」
アランが微笑む。
「みんなの力で」
「そうですね」
るなが頷く。
「一人じゃ絶対に勝てませんでした」
「私たちも、るな様がいなければ何もできませんでした」
リサが言う。
「お互い様ですね」
ガルス団長が笑う。
「これが本当のチームワークだ」
「そうですね」
トムも同意する。
「でも……」
るなが少し心配そうに言う。
「私、最後にちょっとやりすぎたかも……」
「「「ちょっとどころじゃありません」」」
全員が声を揃えて言った。
「20発は明らかにやりすぎです」
「反省してます……」
るなが苦笑いする。
「でも結果オーライでした」
「それもそうですね」
みんなで笑い合う。
「あ、見えてきました」
前方に新しい街の影が見える。
「次の街ですね」
「どんな街でしょうか」
「きっと新しい理不尽が待ってますよ」
「そうですね」
るなが歩みを止めずに言う。
「でも、もう怖くありません」
「なぜですか?」
「みんながいるからです」
るなが仲間たちを見回す。
「愛と友情と正義があれば、どんな理不尚にも負けません」
「はい!」
仲間たちが力強く応える。
「理不尽撲滅隊、出発です!」
「おー!!!」
6人の声が青空に響いた。
新しい街へ向かって、新しい冒険へ向かって——
李夫人撲滅隊の旅は続く。
一旦終わりにします。
お付き合いいただきありがとうございました。