俺のトランクス返して〜からの刺激的な誘惑
その姿、犯罪級!? 俺のトランクス返してくれぇぇ!
――翌朝。
「……んあ~……」
優馬が布団の中でゴロリと寝返りを打つ。
昨日は美鈴と同じベッドで眠るという、とんでもない状況に見舞われたわけだが――
(あれ……意外と、ぐっすり寝とったかも)
そう思って、ゆっくりと目を開ける。
すると。
ちゃぶ台の前で、歯磨きをしている美鈴の姿が目に入った。
「……ん? お、おぉはよう……」
「んん~? おはよ、優馬♪」
にっこりと微笑む美鈴。
――が。
その格好が問題だった。
下は、明らかに優馬のトランクス。
しかも、腰骨のあたりでちょっとゆるくて、色っぽくずれてる。
上は優馬のTシャツ――ぶかぶかサイズで、肩がずるっと落ちてる。
つまるところ、
オーバーサイズTシャツ+男物トランクス+素足
という、最強の「無防備彼女ルック」がそこに完成していた。
「お、お、おい!? なんで俺のトランクス履いとるんやあああぁぁぁ!!?」
「ん? あー……だって、うちの下着、消えてたっちゃもん」
「消えた!?」
「霊界メンテの影響やろね。あっちの世界に引っ張られたっぽい」
「いや知らんし!!そんなん知らんし!!!俺の理性が限界たい!!」
優馬は手で顔を覆ったが、視界には焼き付いた“その姿”。
「……ほら、ちゃんと見てみて? 意外と似合ってるっちゃろ?」
美鈴は、腰に手を当て、軽くくるりと一回転。
トランクスの裾が、ふわっと揺れる。
「だ、だめやて……もう完全に犯罪の域たい……っ」
そして――
ぷしゅうぅぅぅっ。
鼻から、見事なほど真っ赤なものが噴き出す。
「うわぁ!? 大丈夫!? ティッシュ、ティッシュ!!」
「ちが……っ、これは、ただの生理現象やけん!!正直者の証明やけん!!」
「バカっ、鼻血出すとか、思春期男子かあんたは!!」
慌ててティッシュを押し当てる美鈴。
だがその手つきがまた優しくて、どこかくすぐったい。
「……でも、ふふっ。ちゃんと“女”として見てもらえてるっちゃね、うち」
「ちょ……あんた、わざとやろ……!?」
「うーん、どうやろうね?♡」
ふわりと、朝の光が差し込む白金荘201号室。
今日も優馬の理性は――持ちこたえる気がしなかった。
ランジェリーショップの黒い罠!? 俺の鼻血は無限に出ません!
――週末、午後。
「……で? 俺、なんでここおるん?」
優馬は、ビルの一角にある煌びやかなランジェリーショップの前で、魂が抜けかけていた。
「え、なんでって……下着、買うためやろ?」
振り返った美鈴は、今日もばっちり実体化モード。
白いワンピースに身を包みながら、楽しげにドアを開けた。
「いや、たしかに買うのはええけど、なんで俺が付いてくるん!?」
「だって優馬のお金で買うけん♪ 選ぶときも付き合ってくれんと」
「ひどくね!? 幽霊に貢がされる男子って、全国でも俺くらいやろ……」
「うち、もうあのトランクス借りるのも限界たい。くいこむし」
「いやそんな生々しい感想いらんけん!!」
ぐいっと引っ張られるまま、優馬はランジェリーショップの中へ。
店内には、目のやり場に困るようなレースだのリボンだの極小布面積の下着がズラリ。
しかも、周囲は女性客だらけ。
完全に“浮いてる男”優馬。
「な、なぁ……ここ、ほんとに俺おって大丈夫なん……?」
「大丈夫やけん。下着なんて、みんなが履くもんやけん♡」
「ちがう、見とる方が問題なんよ!!脳が耐えられん!!」
美鈴は気にせず、黒、赤、紺……と次々にセクシー系の下着を手に取っていく。
優馬の心の声:
『頼む、お願いやけん、もうちょっと布の多いやつ選んでくれぇぇ……っ!!』
そしてレジ。
「えーっと、合計で……12,800円になります~」
「え、ちょ、まって!? たっっか!? 黒いの、レースついとるだけでなんで1万超えとると!?」
「優馬、よろしくね♪ クレカで」
「え……うそやろ……俺のクレカ、まさか幽霊に吸われるとは……」
カードを通す手が、震えていた。
⸻
――そして夜。
帰宅後、ぐったりとソファに倒れこむ優馬。
「はぁぁ……なんやねん今日。支払い俺、羞恥心も俺、体力も削られたの俺……富んだ出費ってこういうこと言うんやな……」
そのとき、バサリと何かが落ちた音。
振り返ると――
そこには、黒いブラとショーツをつけた美鈴が、仁王立ちしていた。
「……ど、どう? 今日の“成果”♡」
「ぶぶぶぶっっ!!!」
ぷしゅうぅぅっ!!
――鼻血、ドカン。
「ちょっ!?またぁ!? ティッシュティッシュ!」
「待って、まさか“また”鼻血出すと思わんかったし、うちのほうが焦るっちゃけど!!」
「出るもんは出るんやあああ!!Eカップの破壊力なめんなあああ!!」
美鈴はぷいっと顔を背けながら、照れたように腕を組む。
「……でも、あんたがあれだけ付き合ってくれたけん。お礼に、今日は特別にサービス……てことで♡」
「サービスのレベルがもはや違法なんよっ!!明日までに回復せん自信ある!!」
「ふふ。じゃあ、今度は――もっと“赤い”のにしてみようかな」
「やめて!?出血死するっ!!」
こうして――
優馬の鼻血は、乾く暇なく流れ続ける運命となったのであった。
霊界温泉で混浴事件!? 俺の魂が昇天する!
――翌日・夕方。白金荘201号室。
床には、乾いたティッシュの雪崩。洗面所は赤い悲鳴。
優馬、生命力ゲージ3割。
美鈴「ねぇ優馬。温泉、行かん?」
優馬「いや今の体力で湯入ったら、出汁になってまうけど?」
美鈴「大丈夫やけん。“霊界と現世の中間温泉”やし、湯ざましも早いし」
優馬「単語全部怖か!」
ピンポーン。
大家さん(低音)「201号室ー。最近ティッシュの消費量が異常っちゃけど…鼻風邪?」
優馬「(違う意味で風邪)…あ、はい、季節性鼻春です」
大家さん「春関係なか季節ね」
美鈴(見えたり見えんかったりの半実体)「……(そっとのれんの影へ)」
大家さん「今なんか透けたね?」
優馬「(終わった)」
大家さん「……若いってよかね(ニヤ)」
霊界連絡バス(片道:やばい)
運転手(半透明)「次はぁ〜“湯けむり結界前”、湯けむり結界前〜」
優馬「車内アナウンスの声、三重和音で響いとう…」
美鈴「二重じゃなくて三重。三途前仕様やけん」
優馬「語尾が怖い!」
車窓の外、鳥居が逆さに差し込んで、川が空へ流れてる。
優馬「物理法則、転職しとるやん…」
到着:「半分こ湯」(通称:ハーフ&ハーフ)
“右:現世エリア(のれん青)/左:霊界エリア(のれん白)/中央:混合渦”
注意書き:
・タオルは片側世界の物理しか纏えません
・見えていい線引きは自己責任です
・鼻血は各自で管理
優馬「最後の一文が斬新」
美鈴「ほら、これ着替え」
優馬「いやその“赤いの”はアカン!温泉やろ!もうちょい湯けむり寄りの布量ないと!」
美鈴「(にっこり)赤は血液リサイクル応援カラーやけん」
優馬「スポンサー付いとる!?」
湯けむり発生ギャグ①:タオル反乱
のれんをくぐる美鈴。半実体モードON。
タオル「さらば(フワァ…)」
優馬「タオルーーー!帰ってきてぇぇぇ!!」
美鈴「霊体にタオル、摩擦係数が0.04しか効かんとよ」
優馬「小数点やめぇ!」
慌てて“現世側タオル”を投げる優馬 → 現世タオル、美鈴の肩にだけピタ。
逆側はふよふよ浮遊。
美鈴「ファッションやん?」
優馬「片側だけ布は逆に刺激強いと!」
湯けむり発生ギャグ②:混合渦でのぼせ挙動
中央の“混合渦”が、コポコポ。
店内アナウンス「現在、霊圧3%上昇中。半透明注意」
優馬「半透明注意って何!?」
美鈴(ちょい透)「……ど、どげん?」
優馬「宇宙規模で似合っとる!!」
ぷしゅうううう(音速)
美鈴「鼻血の速度バグっとる!」
霊界管理人おばちゃん参上
おばちゃん(湯桶ドン!)「あーたたち!のぼせる前に水飲みんしゃい!」
優馬「助かります…(ごくごく)」
おばちゃん「で、そこの透けとうお嬢さん、のれん間違えとるばい。青-白-青の千鳥足やったやろ?」
美鈴「す、すみません…」
おばちゃん「若い二人はよかね。あったかい笑い出しよる。温泉はな、湯だけやなか。空気の温度が一番効くと」
優馬「(急に沁みる…!)」
美鈴「(目が潤む)」
おばちゃん「泣き目に鼻血は相性悪かけん、ティッシュは折ってから当てんしゃい」
優馬「実用情報ありがとございます!」
常連じいちゃん(成仏寸前)と雑談
じいちゃん(コポ)「若いのぉ。わしも昔、ばあさんにのれん間違えられての」
優馬「はは…うちも、よう間違えられてます」
じいちゃん「間違いは笑いに変えりゃよか。わしの最後の言葉も“タオルどこやった?”じゃった」
美鈴「最後それ!?(クスクス)」
じいちゃん「笑うてくれてありがとな。ほんなら、湯気の上で会おう」
ふわり、湯気に紛れて光粒。
美鈴「……あったかいね」
優馬「うん……」
(しんみり1分)
おばちゃん「はい、しんみり1分終了!若者はサービスショットから再開!」
優馬「切り替え秒」
クライマックス:混浴の誤解、全方位バグ
・現世客(女子グループ)が中央渦で写真:
「わ、え、今なんか映り込んだ!?」「半透明カップルやん!」
・霊界客(男子グループ):
「現世の青年、鼻から紅白幕出しとる!」
・おばちゃん、緊急放送:
「全エリアに告ぐ!“青春過多”につき、湯けむり濃度10%アップ!」
モクモクモクーー!
視界ゼロ!音だけピーピー!!
優馬「どこ!?美鈴どこ!?」
美鈴「ここー!(腕を掴む)」
すべる。
ドシャン(美鈴の胸元に顔ダイブ)
美鈴「きゃっ!」
優馬「ご、ごめん!物理演算ミス!」
おばちゃん「若さ警報レベルMAX!」
ぷしゅううううううう(過去最高記録)
掲示板:鼻血メーター:Sランク(祝)
ほっこり→即ギャグのフィニッシュ
湯上がり。ラムネ。ベンチ。
美鈴「……ねぇ、ありがと。うち、こうやって笑いよる時間、ほんと好き」
優馬「俺も……まぁ、命の前借り気味やけどな」
美鈴「じゃあ返してもらわなやね。一生分」
優馬「重たいこと言うなぁ…(でも嫌じゃない)」
美鈴「ほら、最後に――」
紙袋から真っ赤な何か。
優馬「待って!赤はダメ!赤はダメーー!」
美鈴「“情熱割”、本日最終便〜♡」
優馬「割引制度やったんか!!」
ぷっっっっしゅううううう!!!(今季ベスト)
――結論。
霊界温泉は保湿に良いが、鼻には悪い。
湯気がふっと薄くなった瞬間、月みたいに白い肌がのぞく。
美鈴の胸元――二つの丘が、湯のリムライトで柔らかく浮かびあがった。
優馬「っ……!」
(心臓、ドラムロールMAX。鼻、非常ベルMAX。)
美鈴、そっと目を合わせて、湯けむり越しに微笑む。
美鈴「……うち、優馬となら、よかよ」
間。
湯の音だけがコポ…コポ…と二人の間を埋める。
優馬「……本気で言いようと?」
美鈴「うん。こげん一緒に笑って、泣いて、支えてくれた人、初めてやけん」
優馬「……俺で、よかと?」
美鈴「あんたやけん、よかと」
指先がそっと触れて、手のひらが重なる。
湯気よりも熱い温度が、掌から心臓へまっすぐ上がってくる。
優馬「……じゃあ、行こ。無理はせんで。嫌やったら、すぐ言って」
美鈴「うん。嫌やない。むしろ――嬉しか」
ふたり、のれんの影――**家族風呂(個室)**の札へ向かう。
カタン、と内鍵。
湯気はやさしく、世界を狭くする。
美鈴「ねぇ、優馬」
優馬「ん?」
美鈴「……目、こっち向いて」
近づく。距離が1メートル→50センチ→キス直前。
――その時。
館内アナウンス「ピンポンパンポーン! 本日、湯けむり濃度が過度に青春成分を含有したため、恋愛注意報を発令します。職員はラムネとタオルを携帯して巡回してください」
優馬「このタイミングで!?」
美鈴「おばちゃん、空気読まんどって!」
(ドアの外)おばちゃん「読んどる読んどる!タオル二枚差し入れ〜!」
二人、思わず吹き出す。
笑いが落ち着くと、また静けさ。
見つめ合って、今度は誰も邪魔しない。
美鈴「……ね。改めて」
優馬「うん。改めて」
ゆっくり、そっと、キス。
湯とラムネの甘さが混じって、時間がとろける。
美鈴「……ありがとう」
優馬「こっちの台詞やけん」
抱きしめる腕。湯気の向こうで、世界がさらにやわらぐ。
(ここから先は、二人だけの会話。湯けむりが上手に目隠しをしてくれる。)
――しばらくして。
おばちゃん(小声・ドア越し)「若いの、水分補給は忘れんごとね。あと鼻血、折りティッシュで」
優馬「(笑)了解です」
湯上がり、並んでラムネ。
美鈴は肩にタオル、頬は湯上がりピンク。
優馬の鼻は――今日は奇跡的に、無事。
美鈴「……うち、幸せ」
優馬「俺も。――これからも、ゆっくりでよかけん。一緒に、進もう」
外に出ると、夕焼け。
現世と霊界の境い目で、二人分の影がちゃんと並んで伸びた。
美鈴「帰ろ。201号室へ」
優馬「うん。……あ、でもその前に――」
ぷしゅ。
美鈴「え、今?なに見たと!?」
優馬「夕焼け……と、二つの丘の残像」
美鈴「残像って言うなぁぁ!」
二人の笑い声が、湯けむり空に溶けていく。
――霊界温泉、これにて【恋愛注意報 解除】。
けれど、胸の高鳴りは、解除されそうにない。




