お風呂で遭遇!?湯けむりの乱入者
2022年4月お風呂で遭遇!?湯けむりの乱入者
「ただいま帰りました~……」
会社帰りの優馬が、ぐったりと白金荘201号室のドアを開ける。
ネクタイはヨレヨレ、シャツは汗だく。
見上げる天井のシミが、なぜか今日はドクロに見える。
「はぁ~……この世にビールと風呂がなかったら、俺はもう死んどったかもしれん……」
ぐしゃっと脱ぎ捨てたシャツから、湿気を含んだ男の香りがふわり。
「……くっさ。俺、犬なら失神してるレベルやん」
足早に風呂場へ直行し、蛇口をひねって湯船を張る。
服を次々と脱ぎ捨て――
ジャバン。
「ああ……命が生き返る~……」
脱力しながら目を閉じる優馬。
だがその数分後。
キィ……
風呂場の扉が、ゆっくりと開いた。
「ふぃ~……やっぱり今日も暑かったっちゃね~……」
優馬「……ん?」
まぶたを開けた瞬間――視界に映ったのは、
タオルもまとわぬ、すっぽんぽんの美鈴。
しかも、ちょっと小首をかしげている。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったあああああぁぁぁああ!!??」
ザッパーーーン!!
「なんね!?」
「なんねじゃなかろーもん!!裸っ!!裸っ!!俺もっ!!君もっ!!ダブルで全裸っ!!」
「ちょ、落ち着きんしゃいって! こげん暑い日、幽霊でも汗かくったい! 背中びちょびちょたい!」
「いや、汗かくんかいっ!?ってか入ってくるならせめてノックしてぇぇええ!!」
「ていうか、あんたも裸やろ?おあいこやん?」
「おあいこじゃ済まされんっ!!ワンルームでこの密度は事件やけん!!」
慌てふためいて、湯船に沈む優馬。
その頭の上で、美鈴がふつうに桶で肩を流している。
「……霊でも風呂入りたくなる日ってあるっちゃねぇ」
「そもそも幽霊って、物理的に風呂入れるの!?なんで湯も流せるし桶も持てるん!?設定どこ!?」
「女の子には、見せられん設定もあるっちゃ♡」
「やめて!?意味深な言い方ほんとやめて!下半身が混乱しとるけん!!」
ぷいっと背を向けた美鈴は、そのまま湯船にざぶんと浸かり――
ぷはっ、と顔を上げた。
「……ん~、気持ちよか。人肌やね、あんたのお湯」
「やめろぉぉおお!?なんで俺の湯温が基準なん!?俺のパーソナルスペース返してぇぇ!!」
「なんか……ばり恥ずかしかったら、目、つぶっとってもよかよ?」
「違う、そうじゃないっ!問題の本質そこじゃないっ!!」
「じゃあどこたい?」
「俺が……俺が今、人生初の女湯シチュに突入しとるとこやあああぁぁぁ!!!」
「うるさっ(笑)ほんと、あんたアホやね……」
――湯気の中、肩を並べて浸かる男女。
片や汗と疲れを流す人間、片や成仏できぬ幽霊。
ふたりの間に、曖昧でくすぐったい時間が流れていた。
⸻
おまけ:風呂あがりの攻防
風呂から出た優馬は、バスタオルを腰に巻いて部屋へ戻ると――
そこにはドライヤーで髪を乾かす美鈴の姿。
「ふわぁ……ええ湯やった……。あ、優馬、背中のとこ髪の毛ついとるよ。取ってあげよっか?」
「もうやめてぇぇぇええ!!風呂上がりまで“リアル彼女み”出さんでぇぇ!!」
「リアルやないけん。うちは幽霊彼女♡」
「うっ……なんかそれ、ちょっと刺さるからやめて……!」
こうして――
優馬と美鈴の、一線ギリギリのドタバタお風呂事件は幕を閉じたのだった。
(※翌日、優馬は鼻血を出して会社に遅刻した)