とある男の子との出会い
夏の暑い空気に包まれた午後、美鈴は近所の商店街を歩いていた。夕飯の買い物ついでに、少し遠回りして深緑の街路樹を眺めていたときのことだった。ふと、前方から小学生くらいの男の子が、うつむいて歩いてくるのが見えた。肩を小刻みに震わせ、袖で目を拭っている。
「……どしたと?」
思わず声をかけると、男の子はびくっと体を震わせて、美鈴を見上げた。涙に濡れた瞳が、美鈴の心を掴んだ。
「なにか嫌なことあったん?お腹すいとる?喉乾いてない?」
男の子は小さく頷いた。美鈴はバッグからお茶のペットボトルを取り出して差し出す。
「はい、これ。うちの特製ただのお茶やけん。砂糖も入っとらんけど、愛情はたっぷりよ♪」
その言葉に、男の子がふっと口元をゆるめ、恐る恐るお茶を受け取った。
しばらく無言でお茶を飲んだあと、ぽつりぽつりと話し出す。「……毎日学校で、からかわれて、お小遣いとられて……死ねって言われたこともある」
その言葉に、美鈴の表情がきゅっと引き締まる。
すると、近くの駐輪場の影から、「やべっ!逃げろ!」と声がして、数人の子どもが走り去ろうとするのが見えた。
「逃がすかーい!!」
美鈴、母の本気を発動。買い物カゴ片手に猛ダッシュ。逃げる男の子のランドセルをがしっと掴み、
「待たんかい、このワルガキ小僧!うちが誰かわかっとるんか!?元・幽霊のツッコミ大魔王ぞ!!」
振り返った男児の顔から血の気が引いていた。
「人に『死ね』とか言える人間が、自分が本当に死んで戻ってきた人に、同じこと言えるんやろうね?」
ピシャリと叱る美鈴の声に、周囲の空気が凍りついた。
そしてアキラ――名乗ったその男の子に、自分の住所と電話番号を書いたメモを渡した。
「また困ったことがあったら、いつでも電話して。うちは、あんたの味方やけん」
アキラは小さく「ありがとう」と言い、その日はそれで別れた。
――数日後。
休日の午後。光子と優子と一緒に、優馬と四人でまったりごろごろしていたとき。ピンポーン。
「だれやろ?」
ドアを開けると、そこにはアキラと、その祖母と思しき上品なおばあちゃんが立っていた。
「こんにちは。この前は、本当にありがとうございました。孫が、美鈴さんに助けてもらったと……」
話を聞くと、アキラは両親を事故で亡くし、祖母とふたり暮らしをしているという。涙ながらに頭を下げる祖母に、美鈴は慌ててそれを制し、
「そげん、頭下げんでよかって。うちも、あの子と会えて嬉しかったけん♪」
と笑って言った。
すると、光子と優子が、アキラにとことこと歩み寄り、
「にーに、にーにー!」と両手を伸ばしてぴょこぴょこジャンプ。初対面とは思えない懐きっぷりに、美鈴もほっこり。
「うち、生きとるって実感するのは、こういう時やな……って、思うとよ。アキラくん、生きとるだけで、もう十分偉かよ」
そう言って、そっとアキラを抱きしめた。
そしてその数日後。
今度はアキラをいじめていた男の子とその両親が、美鈴の家を訪れた。
「うちの子が、本当にすみませんでした……知らない方なのに、叱ってくださって、本当にありがとうございました」
平謝りする父母。男の子も深く頭を下げて、
「もう、二度としません」と、しっかり誓った。
美鈴はそれを見て、そっと微笑む。
「よかよ。過ちを認めて謝れるって、すごいことやけん。強か人やけんね。がんばりぃ」
この日、美鈴の心には静かな達成感があった。大切なものを、ちゃんと守れた――そんな感覚。
優馬はぽつりと、
「……やっぱり美鈴って、すごい人やな」
と、つぶやくと、光子と優子が同時にくしゃみ。
美鈴:「……え、今の寒かった?」
優馬:「いや、笑えて泣けて、ちょっとあったかくなった気がする」
そんな小倉家の午後は、今日もドタバタとあたたかく、笑いに包まれて過ぎていった――。
それは、小春日和のような穏やかな休日のことやった。
ピンポーン♪
玄関チャイムの音に、光子と優子がいっせいに「にーに!」と叫んで、ハイハイ&よちよちダッシュ。出迎えたのは、笑顔を浮かべたアキラだった。
「こんにちは〜」
「お〜、アキラ!来たな〜!腹筋の準備は万端か〜!?」
優馬がにやりと笑いながら、いきなり“エロ大魔王マント”を羽織って登場。
「うおっ!?な、なんしよるん!?優馬、朝っぱらからそれはやばかろうもん!」
美鈴が思わずスリッパ片手にツッコミ炸裂。
「これがうちの旦那の通常運転やけんね……」
アキラは最初、ぽかーんと見ていたが――
「それ、何そのマント!?ヒーローのつもり!?エロ戦隊!?笑」
ドカーーーン!!!
美鈴がすかさず「ちょ、子どもの前やけん!」と突っ込みながら、優馬のマントを没収。光子と優子は、その横で拍手して大笑い。
「ほらね、にーに。毎日こんなやとよ」
「……お腹痛い、笑いすぎたっちゃ……!」
アキラ、いつのまにか、床に転がって腹抱えて大爆笑。
そこからは、ボケとツッコミの応酬!
・お風呂で特等席争奪戦の再現コント
・ツッコミ大魔王 vs コチョコチョ大魔王の熱き戦い
・優馬の伝説の“おならでドアを開ける技”実演(※失敗)
そして極めつけ――
「優馬の変顔30連発〜!時間内に笑ったら罰ゲーム!!」
アキラ、もう顔くしゃくしゃにして笑い泣き。
最後は、光子と優子がアキラの顔を覗き込んで、ちょんと手を握り、ニコッと笑った。
「にーに、また来てね?」
「うん、絶対来る!ここ……なんか、ほんと、家族みたいやね」
美鈴がほほえみながら、そっとアキラの頭を撫でた。
「やけん言うたろ?うちはアキラくんの味方やけんね」
夕日が差し込むリビングで、笑いとぬくもりが満ちていた。
大切なものは、家族のカタチを超えて、ちゃんとつながっていく。
そんな、素敵な午後やった。
その日の夕暮れ。
アキラは祖母と一緒に家へ帰る道すがら、まだ笑いが止まらず、時々吹き出しては――
「……ははっ、あかん、また思い出したっちゃ……優馬さんの変顔30連発……ぐふっ、笑……いててて……」
と、お腹を押さえてうずくまる。
「アキラ、大丈夫かいね?ほんとにお腹痛いんじゃないと?」
心配する祖母に、アキラは涙目で笑いながら振り返った。
「ううん、大丈夫。……たぶん、笑いすぎて腹筋つっただけ」
帰宅後も、夕飯の時にふと光子と優子のシンクロくしゃみのことを思い出して、また吹き出す。
「はっ……はっはっ……ううっ、も、もうやめて……頭ん中で再生される〜……!」
ごはんが喉を通らないほど笑い続けるアキラ。
「まさか、笑いで筋肉痛になるとは思わんかった……ほんと、小倉家って、何者なんや……」
その夜。
布団に入っても、ニヤニヤしながらアキラは呟いた。
「……あんな家族、ほかにおらんっちゃ。でも――めっちゃ、好きやな」
――ある春の休日。
ピンポーン♪
小倉家のチャイムが鳴る。出てきたのは、美鈴。ドアの向こうには、見覚えのある少年たちの姿が。
「こんにちはっ……あの、ボクたち……」
その中の一人、眼鏡をかけた少年が口を開く。
「アキラに、“笑いの師匠ん家”って聞いて……連れてきてもろたとです」
彼らの名前は――由紀夫、正徳、幹也。かつてアキラをいじめていた3人だが、叱られてから心を入れ替え、今ではアキラの仲間に。しかもアキラから、「小倉家は笑いの聖地」だと聞いて訪ねてきたのだった。
「……へぇ。そんなに言うなら、笑いの修行、受けてもらおうかね?」
にやっと笑う美鈴。
「よっしゃ!今日のテーマは“家庭内ボケツッコミ祭”じゃ!」
そこから始まる、小倉家 vs 笑い修行生トリオのドタバタ漫才劇。
優馬、突然カーテンから飛び出して:「今宵、参上いたしました!エロ大魔王、光臨ッ!!」
→ 美鈴:「だから、そげな登場やめんね!まず子供たち見よって!」ズバァンッ!
→ 光子と優子:「ジト目攻撃〜(無言)」←シンクロ技炸裂
由紀夫:「先生っ、俺も大魔王になれますか?」
→ 美鈴:「あんたはまだ“チョイ悪小僧Lv1”たい!まず鼻血の出し方から練習しんしゃい!」
正徳、調子に乗って優馬に変顔チャレンジ
→ 幹也、爆笑しすぎて転倒:「腹いてぇぇぇぇ!!あばらがバキバキ言いよる〜!!」
優馬、冷蔵庫から漬物取り出し:「この“ぬか漬け大魔王”の酸味を受けてみよっ!!」
→ 美鈴:「やかましか!今日のご飯のおかずば取ってからに!」
→ アキラ:「それ、昼飯用やろ!?やっぱこの家、ギャグで命懸けすぎるやろっ!!」
30分後、全員が笑いすぎて、畳に転がっていた。
「……ハァ、ハァ……先生ん家、マジで……修行っていうか、笑撃道場っちゃね……」
「う、動けん……ボク、笑いだけで痩せた気がする……」
「お腹よじれた……もう、ワシら今日で“弟子入り”でよか?」
美鈴はニコリと笑って言った。
「よかよか。そんかわり、これからも誰かを笑顔にすることだけは、忘れんことたい」
こうして由紀夫、正徳、幹也は**“笑いの弟子三銃士”**として、小倉家の“ボケツッコミ道場”に正式入門(!?)することになったのであった。
そしてこの日――
**“小倉家 笑撃的7人体制”**が、ついに誕生した。
――そして、それからの休日。
「ピンポ〜ン♪」
またもや玄関のチャイムが鳴る。
「どしたと〜今日は?」「あ、また誰か来たとや?」と、光子と優子が美鈴の足元にまとわりつく。
「は〜い!」と玄関を開けると――
そこには、由紀夫・正徳・幹也に加え、アキラのクラスの**“ギャグ選抜メンバー”**が勢ぞろい。
「今日の自由研究は、“笑いのツボ”の研究っす!」
「先生!今日もツッコミ講座お願いしまーす!」
「俺、昨日寝言で“ドッカーン!”て言うたら、親にシバかれたばい!」
もはや、小倉家は地域の笑いの駆け込み寺と化していた。
リビングでは――
優馬が真剣な顔でギャグノート片手に登場。
「この前の“冷蔵庫からぬか漬け大魔王”は、思いのほかウケたけん、次は“押し入れから納豆仙人”でいくとよ!」
→ 美鈴:「発酵系ばっかり攻めんでよかっ!息がくさなっとるやろが!」
→ アキラ:「先生のツッコミが炸裂するたび、俺の腹筋が進化しよる!!」
子どもたちも負けてない。
由紀夫:「昨日、掃除当番サボったら“バチ当たり小僧”って先生に言われました!」
→ 正徳:「でもそれ、今日の新ネタやけん、笑いに昇華しとる!」
→ 幹也:「俺の人生、すでにボケ街道まっしぐらっす!」
優馬はその様子を見て、ニヤリ。
「はは〜ん……こいつら、なかなか腕を上げたのぅ。特に正徳、**“間”**が良くなった」
→ 美鈴:「なに言いよると〜?まだまだツッコミ耐性が甘いったい!」
→ バシィッ!(ぬいぐるみでソフトにツッコミ)
→ 正徳:「ツッコミ……ありがとうございますっ!」(感涙)
その日の小倉家は、まるで笑いのテーマパーク。
光子と優子も笑い転げて、**“コチョコチョ大魔王ジュニア”**を発動。優馬、奇襲を受けて転がりながらも「これが未来の笑撃継承者か……!」と感慨深げ。
そして夕方。
「先生!また来てもいいっすか?」
「こんな楽しい家、他にないっちゃん!」
「もちろん!ただし……笑いの覚悟はできとるね?」
美鈴がニヤッと笑うと、みんなが口を揃えて叫んだ。
「はい!よろしくお願いします、ツッコミ大魔王っ!!」
――こうして、小倉家は今日もまた、笑い声とボケとツッコミが絶えない、“ギャグの殿堂”として、にぎやかな一日を終えるのであった。