痴漢撃退・そしてサプライズパーティー
私に触っていいのは、家族だけっちゃ!
4月のある平日、美鈴はひとり、宗像駅近くの実家へと帰省していた。
母から「アンタの大好きな手作りクッキー、焼いたけん取りにおいで」と連絡が入り、ちょっとした外出だった。
優馬はあいにく外せない仕事があり、双子の娘・光子と優子は、優馬の両親にお願いして、久しぶりの「おひとりさま帰省」。
実家に帰ると、母はいつものように元気いっぱいに迎えてくれた。
「まあまあ、美鈴! ちゃんと食べよる? 細かいことはいいけん、クッキーたんまり持って帰りぃ」
「ありがと、お母さん! 優馬も、あのクッキー大好きっちゃけん、絶対喜ぶわ〜!」
そんな、たわいもない会話が愛おしい。
母の焼いたクッキーの香りをバッグに詰め込み、美鈴は再び電車に乗って帰路についた。
──ところが。
夕方の博多近辺。電車は混雑し、美鈴は立ちっぱなし。
すると、なにやら“いや〜な感覚”が尻に伝わる。
「……ん?」
微妙な距離感で、スーツ姿のおっさんが背後に立っている。
──ちょ、ちょっとまって。今……触ったよね?
ガタンゴトン。電車は揺れる。
でも、美鈴の心は静かに怒りゲージが上昇していく。
(ま、まさか……痴漢!?)
ぷちっ。
音を立てて、なにかが切れた。
「あのさぁ、ちょっとよか?」
バチーン! その男の手首を美鈴ががっちり掴む。
「アンタ、誰の許可取って、私のお尻触っとるとね?!」
ヒールで足を思いっきり踏みつける!
「い、いやっ、違っ、誤解で……!」
「違わんっちゃ! お尻触る権利があるのは、ダーリンの優馬と、我が子の光子と優子だけっちゃ!」
車内が一気に静まり返る。
「ちょっと、次の駅で降りてくれん?」
──ドアが開くと同時に、美鈴、幽霊モード発動。
すぅ〜っと背後に現れ、低温ボイスで囁く。
「逃げても無駄ばい。霊界からも、ちゃんと見とるけんね?」
おっさん、顔面蒼白で降車。駅員に引き渡される。
そして、説教タイム。
「自分に娘や孫がおるとして、同じことされたらどう思う? 情けなか。恥ずかしかろ。
それでも人間かいな。反省ば、せんといかんっちゃ!」
──鉄槌のごとく響く、美鈴の怒りの博多弁。
まわりの乗客から拍手が起こる中、美鈴は胸を張って帰宅の途についた。
帰宅後、優馬に報告。
「……でね、ヒールでがっつり踏みつけてやったっちゃ!」
「いやいやいやいや、美鈴、それは……危ないって。
頼むけん、そういうときは駅員さんに言って、警察にも通報して。
美鈴に何かあったら、おれ……おれ、どげんしたらいいか分からんやん」
優馬のまっすぐな言葉に、美鈴の目にじわりと涙がにじむ。
「……なに、それ。そげん言われたら、泣くっちゃろもん……」
ぽろりと、こぼれた涙。
「バカやけんね、私。つい、カッとなって、動いてしもうたけど……でも、こうして心配してくれる人が、おるだけで、嬉しかとよ」
美鈴はクッキーの包みを取り出す。
「これ、お母さんの手作り。……一緒に食べよ。あんたにも食べてもらいたかったけん」
その夜、双子の娘たちを迎えに行き、四人で団らん。
光子と優子は、クッキーの甘い香りにご機嫌。
優馬も「お義母さんのクッキー、世界一うまか〜!」と絶賛。
美鈴は、優馬の肩にもたれながら思った。
──守られとるな、私。
だけど、私も、守りたい。あんたと、うちの娘たちを。
あんたに出会ってよかった。
そして、これからもずっと、笑って生きていきたいっちゃ。
そう誓う、美鈴の目には、涙ではなく、確かな光が宿っていた。
2025年4月、春爛漫、笑い満開!~桜とお弁当とサプライズパーティー~
ぽかぽか陽気に包まれた春のある日。
福岡の櫛田神社では、桜がまさに見頃を迎えていた。
「おお〜、咲いとる咲いとる! 桜、満開ばい!」
「花見ってやっぱええね〜。なんか、日本人でよかった〜ってなるとよね〜」
美鈴と優馬は、双子の娘・光子と優子をベビーカーに乗せて、仲良くお花見デート。
境内で恒例の「おみくじ」を引くと、まさかの二人とも中吉。
「“焦らずじっくりが吉”って書いてある。……なにこれ、私が早食いしよるの知っとるんかね?」
「おれは“転んでもただでは起きぬ者が吉”…え、どういうこと? 転べってこと?」
ふたりでおみくじにツッコミを入れながら、ケラケラと笑い合う。
境内の片隅、日当たりのいいベンチに腰かけて、
美鈴お手製の“愛情ぎっしり花見弁当”を広げる。
「卵焼き、ちょっと甘めにしてみたとよ〜♪」
「うまっ。……これ、春の味って感じする」
ふたりでおにぎりを頬張りながら、桜を見上げ、そしてソフトクリームを片手に、のんびりとした春の昼下がりを満喫していた。
――そこへ。
「ん? あれ、美鈴先生じゃないですか〜?」
振り返ると、美鈴の勤務先・八幡陸斗幼稚園の同僚、荒木由美子先生が彼氏らしき人と歩いていた。
「おお〜! ゆみちゃん!? うわ〜、奇遇やね〜!」
「お花見日和ですもんね〜! それより、聞いてください〜。私、夏に結婚することになりました〜!」
「えええっ!? マジで!? おめでとう〜〜〜!!」
優馬も「それはめでたい!」と拍手喝采。
「そんなん言うたらさ、前祝いせんといかんやん! うちで、パーティーしようや〜! 絶対楽しいけん!」
「わあ〜、いいんですか!? 喜んでお邪魔しま〜す!」
と、その場で春の桜の下・結婚前祝いパーティー開催決定!
──数日後、小倉家アパート。
「それでは、結婚前祝いパーティー、始まり始まり〜〜〜!!」
手作りごちそうに囲まれて、美鈴と由美子先生は乾杯。
光子と優子も、キラキラした風船に大興奮。
「キラキラ〜! キャッキャ!」と大はしゃぎして、風船を両手でぽんぽんしながら大爆笑。
だがしかし、パーティーはいつものドタバタ劇場に突入。
◆唐揚げを盗み食いしようとした優馬、光子に見つかり、ジト目で凝視される
◆由美子の彼氏の靴下の匂いに、なぜか優子が爆笑(謎)
◆お祝いケーキの上に、光子と優子が“お祝いチョコ”で「う●こ」って書いてしまう(!)
「や、やめんか〜〜っ!! どこでそんな言葉覚えたん!? あんたたちまだ1歳ばいっ!」
由美子と彼氏は大爆笑。「天才肌のギャグセンスです!」と謎の称賛。
「この家、毎回こんな感じですか?」と由美子の彼氏に聞かれ、
「うん、たぶん、前世からこんな感じやね」と美鈴。
「てことは、来世もやろね」と優馬。
「桜の季節。笑いの絶えないパーティー。
中吉のおみくじよりも、ずっとずっと幸せな時間が、小倉家には流れていた。
光子と優子、奇跡の1歳バースデー】
朝、目覚めた美鈴がまず口にしたのは――
「今日は勝負の日っちゃ。特等席(=美鈴の胸)は誰にも渡さんけんね!」
……はい、朝から仁義なき戦いの予感。
優馬は密かに、光子と優子にバースデー用のドレスをプレゼント。
それを着せた瞬間――
「ぱぁ〜〜」←見事なシンクロ笑顔。
「うちの娘ら、尊すぎて尊死するばい……」と鼻血ブー寸前の優馬。
その後、リビングにはケーキタワーと風船、そして「1」のロウソク。
家族だけの小さなパーティーかと思いきや、
美鈴の両親・優馬の両親・そして美鈴の幼稚園仲間の荒木由美子まで登場。
サプライズホームパーティー開幕
そんな中――事件発生。
優馬、誤って「一升餅」を1.5升に増量。
しかも「大盛特盛コース」と札が貼られていた。
美鈴「ちょ、どこのラーメン屋スタイル!?」
優馬「スタミナつけんといかんやろ!これから双子育てるとよ?」
……で、背負わされた光子と優子、あえなく尻もち。
が、同時に「ブゥ〜〜〜」と可愛くおなら。
親族一同、腹筋崩壊。
由美子先生「天才やん、この双子!」
さらに、プレゼントの山の中に、なぜか**「お笑い養成所入学セット」**が。
犯人はもちろん――
「霊界ギャグ連盟・九州支部からの推薦状やけん」←幽霊モードの美鈴がさらっと。
ラストは、お風呂タイム。
光子「まま〜〜」
優子「ぱぱ〜〜」
※初めての言葉がここで炸裂。
美鈴と優馬、即号泣。
お風呂あがり、二人の寝顔を見ながら――
美鈴「ほんと、幸せやね……」
優馬「うん。ギャグと愛でできとる家族やけん」
そして、寝室では――
美鈴「でも、今夜も……特等席は取らせんけんね」
優馬「そげな〜〜」
で、荒木先生の結婚式、お相手は博多区役所勤務の荒尾誠司。キリッとした顔立ちのナイスガイ。新郎新婦の入場の時、美鈴は自分の結婚式の時を思い浮かべていた。由美子のウェディングドレス、純白で清楚な感じがして、美しかった。誠司さんはタキシードを着て、めっちゃ緊張してるのがわかる。優馬もあんな感じだったな。2人の馴れ初めや、メモリアルフォトなどが流され、余興では、カラオケタイム。美鈴はあやかさんの虹色を歌い、由美子も口ずさむ。それぞれ、両親に感謝の言葉を述べる時間。涙が溢れれる由美子、そっと支える誠司さん。幸せにと願いながら、披露宴は終わり、帰宅した美鈴。優馬と子供達が出迎えてくれ、2年前の自分の結婚式の思い出に浸る美鈴であった。