湯煙ナイト。黒ネグリジェで誘惑。
2023年7月【湯けむりナイト in 博多弁 〜愛と笑いと鼻血ブー〜】
「ふぅ〜〜……やっと寝てくれたねぇ、双子ちゃんたち……」
夜の10時すぎ。
光子と優子がすやすや眠ったのを確認して、美鈴と優馬は忍び足で脱出成功。
「じゃあ、あれ行こっか?」
「……おう、お風呂やろ?もうそれしかなかろーもん」
──ちゃぷん。
ふたり並んで、湯船にちゃぽん。
美鈴の肩から湯気が上がり、優馬の目が自然と釘付けになる。
「なぁ、美鈴……その肩、今日もセクシーっちゃね……」
「また出た!エロ大魔王やん!」
「いやもう俺の名札にそう書いとっていいよ。“小倉優馬・エロ大魔王”ってな」
「名札ぶら下げとったら幼稚園入れんけん、やめとき!」
バシャっと湯をはねてツッコミを入れる美鈴。ふたりで笑いあいながら、ゆっくりお湯に浸かる。
「……でもさ、こうしてお風呂入っとるとさ、なんか信じられんっちゃんねぇ」
「わかるー。出会い、ぶっ飛びすぎとったけんね?」
「だってさ、美鈴が最初うちのアパートに現れたとき……幽霊やったろ?」
「しかも!夜中に“風呂貸してぇ”とか言うてきて!アレ、正気やないやん」
「ウチもびっくりしたっちゃん。幽霊やけど、汗かくんやもん」
「んで、おれ、幽霊にタオル渡した男になったと」
「そのあと、ちゃっかり布団にも入ってきたやん?」
「いや、入ってきたの美鈴やろがい!」
「ウチが“寒いけん!”って言うたら、“あ、そやか”って入れてくれたやん!」
「人情やろ!? 幽霊にも人情見せた男、小倉優馬です」
ふたりでケラケラ笑い合いながら、お湯がちゃぷちゃぷ波打つ。
「でもさ、美鈴がこうやって生き返って、ホントよかったっちゃね……」
「……なーに、いきなりしんみりしとるとね?」
「だって、お前おらんかったら……おれ、今こんな笑っとらんけん……」
「……あたしもやけん。優馬がおったけん、ずっと笑えたっちゃんね。幽霊のときも、いまも」
優しく見つめ合うふたり。
「……んじゃ、そろそろアレ、見せちゃろか?」
「え、なに?もしや……悩殺ポーズ!?!?!?!?」
「ご名答〜♡ 湯けむり悩殺、美鈴スペシャルじゃい!」
──パシャ!
「お、おいっ!なんで撮ると!?!?」
「記念やろ?“風呂場で鼻血ブー事件”として、フォルダ分けとく〜」
「や、やめぇぇえええっ!子どもに見られたら一生立ち直れんばいっ!」
「それもまたネタやん〜」
──バシャ!バシャ!ドッタンバッタン!!
風呂場に響くのは、湯気と笑い声と、夫婦漫才の応酬。
それは、誰にも真似できん、唯一無二の愛のカタチ。
「さ、あがって、冷たいコーラでも飲もっちゃ?」
「いや、その前に……コチョコチョタイム発動〜!!」
「ひぃぃぃっ!?また来たっ!?!?もうやめてぇぇ!!」
夜はまだまだ終わらん。
愛とギャグと、コチョコチョが止まらない――
それが、小倉家。
⸻
【激闘!出産バトル 〜実況優馬、まさかの全世界デビュー!?〜】
「いっててててててててぇぇぇっ!!!」
「お、落ち着いて美鈴っ!深呼吸、深呼吸ばいっ!」
福岡市内の産婦人科。
陣痛室は、美鈴のうめき声と、優馬のオロオロ声で満ちとった。
「……いったいなんね、この痛み!隕石が下腹部にぶち当たったような感じたいっ!」
「例えが天変地異なんよっ!!」
ドタバタする優馬の背中から、そっとスマホのカメラを構える美鈴の父・母。
──録画開始。
そして数分後、助産師さんが声をかける。
「さぁ、ご主人さん、もうすぐ分娩室に入りますよ〜。心の準備はいいですか〜?」
「お、OKばい!心はもう実況モードばい!」
その瞬間から、優馬のアナウンサーモードが発動した。
「さぁ〜〜!まもなく始まろうとしております、愛と根性のビッグイベント!“産まれる瞬間202X 福岡大会”!実況はわたくし、夫・小倉優馬が務めさせていただきますっ!」
「ちょ、待て!誰が許可した!?あたしの出産実況とか、全国ネットで流されたら一生笑い者やろがいっ!」
「いやいや、今回は特別協賛:小倉家、スポンサー:博多ラーメン!見守る視聴者:義父と義母!」
「スポンサー勝手につけんなやああっ!」
ドッと湧くスタッフの笑い。
一方、カメラを構えたままの美鈴の父は、にやにやしながらつぶやく。
「おい、これ孫に見せたら一生笑えるやつやろ」
「まちがいないね。あいつ、やっぱ美鈴を選んで正解やったわ」
そして、ついに分娩室へ。
美鈴「ぬあああああっっ!!!もうムリっちゃーー!!!」
優馬「ここで一気にラストスパート!母、渾身のいきみッッ!!さあ出てこい、小さなツッコミ大魔王たちよッッ!!」
美鈴「ツッコミ大魔王とか言うなっ!!……いでぇぇぇえええっ!!!」
優馬「いきみましたああああ!!!産道に光が見えるうううう!!」
──第一子、光子ちゃん誕生。
助産師「おめでとうございます、女の子ですよ〜!」
優馬「きたあああああああああああ!!第一ツッコミ大魔王、見参ッッ!!」
美鈴「は、早く抱っこさせてぇ……はぁはぁ……」
優馬「はい、美鈴ママに初抱っこっ!これは金メダル級の笑顔っ!ううっ……涙で画面が見えんばい……」
美鈴「……ちょっと……まだ、終わってないっちゃろが……」
──第二子、優子ちゃん誕生。
美鈴「っっっ!!出たあああああああああ!!」
優馬「二人目、ツッコミ大魔王Ver.2!ついに……ついに双子の時代が到来ばいっ!!これが……小倉家の、令和ツッコミ新時代やぁぁぁ!!」
──録画、終了。
数日後――
自宅のソファで授乳を終えた美鈴の元に、母から一本の動画が送られてきた。
タイトル:「出産実況 by 小倉優馬(永久保存版)」
「……まさか……録っとったっちゃ……?」
再生ボタンを押す。
──映し出されたのは、陣痛室で一人しゃべくり倒す夫の姿。
──流れるは、産声とともに高らかに叫ぶ「実況優馬」
「うわぁあああああ!!!」
優馬は顔を真っ赤にして、クッションに突っ伏す。
「なんやねんこれ!?再生回数とか見んでよかけん!!」
「ふふ……ふふふ……」さそ
沈黙数秒。
「なに笑っとるん?怖いんやけど?」
バシィィン!!!
「実況するなっち言うたろがぁぁああ!!」
「うぎゃああああ!!出産後もツッコミ大魔王健在ぃぃ!!」
──ドタバタ、ガシャーン!!!
【ツッコミ大魔王、DNAで継承!?】
出産から数日。優馬と美鈴は退院し、福岡市内のアパートで、ついに育児生活が始まった。
「……ふぅ……かわいかぁ……光子、優子……うちの子たち、ほんとにうちの子なんやね……」
授乳後の双子を腕に抱いた美鈴は、母性全開の優しい笑顔。
一方、優馬は、退院祝いとして買ったベビー服を手にしていた。
「なぁ、美鈴。これ、今日着せてみようや?」
「ん?どんなやつ?」
「これ!『将来のツッコミ大魔王』って書いたロンパース!」
「……バカやろぉぉぉぉ!!!」
美鈴のチョップが優馬の額にクリーンヒット。
光子:じーっ
優子:じとーっ
――無言のジト目。
「うっ……なんやこの視線……心が削れる……」
光子は小さな手で軽くモゾモゾと動く。
優子は顔をしかめて、まるで「パパ、それはちょっと……」と言わんばかり。
「まだしゃべれんのに、このツッコミ圧……DNAは嘘つかんなぁ……」
ベビーベッドの中で、ふにゃっと笑ったような表情を見せる光子。
その横で、優子がくしゃみを一発。
「ハックションッ!!」
「……えっ、まさか……パパの寒いギャグへのリアクションか!?」
「いや、普通のくしゃみやろ……」と美鈴。
でも、その直後――
優馬がボケた。
「よ〜し、今日は寝る前に絵本読むばい。タイトルは『パパのギャグ100連発』!」
光子・優子:くしゃみ×2、ジト目×2、ぐずりモード突入。
「うおっ、ダブルパンチ……!」
美鈴「はい、優馬アウト。ツッコミ大魔王の予備軍にすでに嫌われよるやん」
「……光子〜優子〜、パパ頑張るけん……将来は家族漫才目指そうや〜(涙)」
――そんな毎日。
美鈴が料理をしてる時、こっそり忍び寄って、背中をツンツンする優馬。
「わっ!」とびっくりした美鈴がひとこと。
「もう!また幽霊モードみたいなことするなって言いよるやろがぁぁ!!」
「ふひぃ〜ツッコミが鋭いばい〜〜」
そのやりとりに、双子がじっと目を丸くして見つめていた。
光子は、足をバタバタ。優子は、手をグーにして口元に。
「これ絶対、見とるね。パパのボケと、ママのツッコミ、完璧に吸収しよる」
「じゃあこの子たち、将来……」
「リアル夫婦漫才コンビが、ツッコミ師弟を育てる家庭ってやつやね」
その夜。
ようやく寝かしつけが終わり、二人で布団に潜る。
「……ほんとに、ここまで来たね」
「うん。……でも、やっぱしうち、幸せばい。幽霊やったときのこと思えば、今のあたし、生きとるって実感するもん」
「俺もや。……お前が目覚めて、笑ってくれて、双子が生まれて……こんな奇跡、ある?」
「あるっちゃ。あたしらが作った奇跡やけん」
優馬が美鈴の手を握る。
「さぁ、明日は朝からおむつ替え選手権やで?」
「負けるかいっ!」
クスクスと笑い合う声の向こうで――
光子と優子が、ほんのり微笑んだように見えた。
──まだしゃべれないけど、
この家族に生まれてきたことを、きっと喜んでいる。
霊界遺産、日常に降臨。
「なぁ、美鈴……やっぱり、今日もキレイすぎるわ……」
優馬がぽつりとつぶやく。
風呂上がり、美鈴はリビングの鏡の前で、髪を乾かしていた。
湯気を含んだ頬に、ふわりと笑みを浮かべる。
「え〜、今さら何言いよっと? もう結婚して、子どももおるとよ?」
「そやけど……毎日更新されとるっちゃもん、美しさが……。
日々アップデートされる“霊界遺産”やん?」
「そげん大げさな(笑)」
「いやいや!実際、あの霊界裁判官が言うとったやろ?
『黒崎美鈴のセクシーさは、霊界全体の文化遺産として認定されとる』って!」
「しかも、再生回数、億超えやろ?霊界SNSで」
「エグいってそれ……地上波超えとるやん……」
美鈴は笑いながらも、ちょっと得意げに髪をかき上げる。
「で、そん美鈴が今日、選んだルームウェアは……?」
「……黒。レース付き。やっぱし、霊界遺産の正装やけんね♡」
鼻血ブーッ!
その瞬間、優馬は床に膝をつく。
手にはティッシュを握りしめながら。
「こ、これはあかん。……二度見しただけで、脳に衝撃が……ッ!」
「なーに言いよっと(笑)」
美鈴はそのまま、優馬の隣にすとんと座り、にこっと微笑む。
「でもさ、私がこうして“生きて”て、優馬が“惚れてくれる”って……
なんかもう、それだけで奇跡なんよ?」
「奇跡も3秒で鼻血に変えるのが、うちの夫婦の宿命やからな」
「……ってことは、今夜も……?」
「もちろん!霊界遺産は、俺だけの世界遺産やけん!!」
「ちょっと、何言いよーと(笑)」
夜は静かに更けていく――
ツッコミと笑いと愛と、少しの鼻血とともに。
『ネグリジェは戦闘服!?夜の誘惑大作戦』
その夜、美鈴はなぜかやたらと静かだった。
テレビを見て笑っていた優馬がふと振り返ると、
リビングのドアのすき間から、ふわりと黒い影が――
「ん?……お、おぉ!?」
現れたのは、美鈴。
肩にふわりとレースがかかる、シルクの黒いネグリジェ姿。
背後からの照明を受けて、うっすらと透けたシルエットが浮かび上がっている。
「ど、ど、どしたん!? なんでそんな……その……妖艶な衣装ば……!」
「ふふっ、今日はちょっとだけ……攻めてみようかなって♡」
「攻めるにも程があるばいッ!!」
優馬は慌ててテレビのリモコンで音量を下げるどころか、テレビごとオフ。
美鈴は、優しく微笑みながら、そっと優馬の横に座る。
そして、小さな声で囁いた。
「優馬。私、今生きとるんよね。幽霊やった時とは違って……ちゃんと、“触れる”存在になれたけん。」
「……うん、うん……そやね。ほんとに……よかった……!」
「だから……今の私の“生きた姿”……ちゃんと見て欲しいと♡」
そう言って、美鈴はちょっとだけ、ネグリジェの胸元を指でつまんで――
「ぎゃあああああああ!! 鼻血でるぅぅぅううう!!」
ドバッ!!
優馬は後方にひっくり返り、ティッシュを取りに全力ダッシュ!
「ちょっとぉ!?どこ行きよっと!?」
「救急セットッ!鼻に栓ばせんと死ぬぅぅぅ!!」
「誰がそこまでやれって言うたとねぇぇぇ!!」
美鈴はぷいっとそっぽを向くが、すぐにクスッと笑って優馬に寄り添う。
「まったくもう……」
「……惚れ直したと?」
「毎秒更新中です。」
⸻
『ネグリジェ vs 宅配便!?〜ドアの向こうに笑撃が〜』
――その夜。
黒ネグリジェ姿で、優馬の心を撃ち抜いた美鈴は、満足げにリビングでくつろいでいた。
優馬はというと、鼻血に栓をしてソファに倒れこんでいる。
「もう……優馬ったら大げさっちゃねぇ〜」
と、ニッコリ笑って、キッチンで麦茶を取りに立ったその時――
ピンポーン。
「…ん?」
「うおっ!宅配やん!」
「え? うそ、こんなタイミングで!?」
「たぶん、昼間ネットで頼んどったやつばい。受け取りサイン必要やけん!」
「ちょ、ちょっと待って、今この格好は……っ!」
「はよしてくれんと帰られるっちゃ〜!」
パタパタパタ……!
慌てて玄関に走る優馬。
が、ここで悲劇――じゃなく、笑劇が起こる。
ガチャッ
「こんばんは〜宅配便です……って、あっ、あああああっ!?」
そこに立っていたのは、
優馬の高校の後輩で、バイトで配達している**八幡陸斗**くん!
彼の目の奥に、確かに写った――
黒のネグリジェ姿で麦茶を持ったまま固まっている美鈴の姿が。
「ひっ、ひゃわわわわ……っっ!!」
ガチャン!!
音速でドアを閉める美鈴!
「ちょ、ちょ、ちょっと!?優馬ぁぁぁ!!どうしてあん人が配達に来るとねぇえぇっ!?」
「こっちが聞きたいわ!うちの担当、佐川さんやなかったんか!?」
「う、うそやん……なんでこんな時に……こんな格好で……死ぬぅぅぅっ!!いや、もう一回幽霊になるぅぅぅ!!」
中で泡を吹きそうな美鈴。
一方、外の陸斗はというと――
(……今の、まさか奥さん?いや、彼女さん?めちゃくちゃキレイやったぞ……黒……ネg)
鼻血ブー。
⸻
その夜、陸斗のSNSには謎のポエムが投稿されたという。
「月の光に舞い降りた、黒衣の天使……もう一度、あの扉が開きますように……」
※美鈴、ドン引き。
「八幡、再び――そして黒ネグリジェの真相へ!?」
あの事件から数日後――
「はぁ〜…まだ思い出すだけで顔が熱うなるばい……」
美鈴は、洗濯物を干しながら頬を赤く染めていた。
一方、優馬はスマホを片手に眉間にしわ。
「……おい、美鈴。ちょっとコレ見てみ?」
「ん?なにね?」
スマホ画面には、例の陸斗のポエム風SNS投稿が…。
『黒衣の微笑み、俺の心のドアも開け放たれた気がしたんだ……』
#福岡市中央区の奇跡 #再会は突然に
「…………」
「…………」
美鈴:「なんそれ!!場所特定しとるやないとね!?福岡市中央区って!やらかしとるやない!!」
優馬:「いや、お前…顔、載っとらんけんバレてはないけど…これ、もう一回会いに来る気まんまんやぞ…」
――ピンポーン。
「え、えええっ!?今っ!?」
優馬がのぞくと、そこにはバッチリ髪をセットしてキラースマイルを浮かべた八幡陸斗が!!
「先輩〜!この前はどうもでしたっ!!いや〜配達って、出会いありますねっ!!!」
美鈴:「出会いやない!あれは事故やんね!?ギャグか!!」
陸斗:「あっ!今日はちゃんと、差し入れ持ってきましたっ。『黒ネグリジェが映えるスイーツ』特集から選んだんです!これ、モンブランっす!」
美鈴:「なんの特集見とんじゃあぁああああ!!!」
優馬:「モンブランっち、チョイスが絶妙すぎるわっ!!しかも黒に寄せてくるな!!」
――そこから30分。
陸斗の空回りアピールに、美鈴のツッコミが連打される。
・「もっかい見たいとか言わんとって!!」
・「ネグリジェは魔法の衣装やないっちゃん!!」
・「鼻血で配達できんなるけん、もう来んで!!」
最後は――
陸斗:「……じゃあ、また“偶然”の再会、楽しみにしてますっ!」(キラッ)
美鈴:「偶然じゃなくて、完全にストーカーやろがぁぁぁっ!!」
優馬:「あ〜あ、また来るやろなこれ……」
美鈴:「……次来たら、ビキニで対応して、魂ごと成仏させたろか?」
優馬:「やめてくれ…俺の命が持たん……」
⸻
あとがき
こうして、再び嵐のように過ぎ去った八幡陸斗の再訪。
だが、優馬と美鈴のドタバタで笑い溢れる日常は、まだまだ続いていく――。