ツッコミ大魔王ジュニア爆誕
2022年10月〜2023ねん7月【記念写真、ついに日の目を見る】
退院から数週間。
ようやく日常を取り戻しつつある小倉家では、毎日が爆笑とちょっぴりのときめきで彩られていた。
「ただいま〜、今日もツッコミ炸裂させてきたでぇ」
美鈴が元気に帰ってくる。幼稚園での仕事も順調、子どもたちの「せんせー、今日もおもしろかった!」の声に背中を押されていた。
「おかえり。今日もおつかれさま、ツッコミ大魔王」
優馬はキッチンで夕食の準備中。エプロン姿で、魚を焼きながら美鈴を振り返った。
「なーなー、今日、アレ見せてもいい?」
「アレって?」
「うちらの“記念写真”。幽霊時代のやつ」
優馬の手がピタッと止まる。
魚が焦げるのも気にせず、振り返る。
「まさか……あの、悩殺黒ブラと黒ビキニのやつ!?」
「せやで♡」
優馬の鼻の奥がムズムズし始める。
「そ、それは、やばい……オレ、また鼻血でるやつや……!」
「大丈夫大丈夫。今日はティッシュ大量に用意しといた♡」
──数分後、リビングの大画面テレビにUSBを差し込むと、映し出されたのはあの幻のショット。
「うっわああああ……」
優馬、崩れ落ちる。
画面には、あの黒のビキニを身にまとった美鈴。
照れながらも、少し得意げにポーズを決めていた。
つづいて、黒のレースランジェリー姿。照明の加減で肌がやさしく光り、まるで写真集のワンシーンのよう。
「これ……生きてる今やからこそ、見せたかってん」
「……お、おまえ、これ、誰にも見せたことないやろ?」
「うん。幽霊のときに、意識が戻ったら、優馬にだけ見せよって決めとった」
優馬は感動と興奮で、また鼻からティッシュ。
「おまえ……そんなん見せられたら、感動してしまうやないか……!!」
「ふふ。でもな、あの時のうちの気持ち、写っとると思う」
「気持ち?」
「『今ここにおる。生きてるあなたと、ちゃんとつながってる』っていう証。…幽霊やったうちには、それがほんまに嬉しかったんよ」
美鈴が、そっと優馬の手に自分の手を重ねる。
「いま、こうして手をつなげることも、ほんまは奇跡なんやって思う。ほんで、今こうして優馬の前で、恥ずかしい格好でも笑いながら見せられる。それが、なんか嬉しくてな」
優馬は言葉を詰まらせながら、美鈴を見つめる。
「じゃあ……この写真、うちらの新しい思い出のアルバムに追加しよ」
「ほんま? あの……エロ大魔王、鼻血出さんようにちゃんと管理してや?」
「むしろ、これ“結婚式で披露したろか”って思ってるぐらいやぞ!!」
「バカかあんたはぁぁあぁああ!!」
バチン!!
見事なツッコミが、優馬の額に炸裂。
でも、そのあとふたりは、腹を抱えて笑い転げた。
画面に映る、幽霊だった頃の美鈴。
いまはちゃんと血が流れ、温かい体で、隣にいる。
優馬は思う。
「あのとき、おまえを信じてよかった」
美鈴も思う。
「この人の隣で笑える今が、人生でいちばん幸せかもしれん」
ティッシュ片手に、ギャグと愛情にまみれた夜は、またも更けていく。
⸻
【分娩室は戦場だ!?〜ツッコミ大魔王、美鈴出産す〜】
「なぁ優馬……お腹痛いっていうか……陣痛来たっぽい」
朝5時前、美鈴が寝室の布団で丸まっていた。
「えっ、えっ、マジで!? 病院病院っ!! タクシーっ!! え、財布どこ!? あ、オレ、パンツやんけ!!」
「うるさいっちゅうねんっ! まずはズボン履けやっ!!」
──バチン!!
朝一で美鈴のツッコミが優馬の後頭部に炸裂。まだ破水もしていないのに、分娩室並みのテンションである。
そのまま産婦人科へダッシュ。受付で震える手で保険証を差し出しながら、優馬はオロオロ。
「うちの……嫁が……その……双子で……ギャグ担当で……ツッコミもして……あ、いや、痛いらしいんですっ!」
「落ち着いてくださいね〜。はい、美鈴さん、こちらへ」
看護師さんに支えられながら、美鈴は陣痛室に連れて行かれる。
──そして、それは始まった。
「……んんっ……いったぁああああぁぁ!!」
「だ、だいじょぶか!?」
「陣痛ってなぁ……! 隕石が時速300キロで腹ん中突っ込んできたみたいやぁぁっ!! 鼻に火山岩詰め込まれる感じやっ!!」
「例えが宇宙規模ぉおおお!!」
ツッコミどころ満載の陣痛実況に、看護師も思わず吹き出す。
「はーっ……はーっ……次の陣痛までの間に、ちょっとだけ……ボケさせて……」
「今は休めっ!!」
──そして、いよいよ分娩室へ。
「旦那さんもお入りください!」
「えっ、マジでオレも!? え、オレ、立ち合い!? えええぇ!?」
「うるさいっ!! はよ来いっ!!」
バチン!!
またもや見事なチョップが飛び、優馬はフラフラしながらも美鈴の横に立つ。
「ほら、深呼吸〜、ヒッヒッフーですよ〜」
「ヒッヒッフーってな! アレ、何の意味があるんかいな!? こんな痛いのにっ!」
「そんなん言うなや! それ言い出したら、出産自体ギャグみたいやんか!」
「何やとぉぉぉ!! ほな産んでみいや優馬ぁぁぁ!!」
──怒涛のツッコミと絶叫。
「もうちょっとですよ〜、頭見えてきてますよ〜!」
「いったぁぁぁ!! 岩石や!! 今、岩石出たっ!!」
「ちゃう、赤ちゃんや!!」
「誰が岩やぁぁあ!!」
──助産師含め、全スタッフが肩震わせて笑いを堪える。
そして──
「おめでとうございます、女の子です!」
「ふぉおぉお……ひとり目……」
「ふたり目、もうすぐですよ〜!」
「えっ!? あ、双子やった!! 忘れとった!!」
「忘れるなぁぁあ!!」
──そして──
「おめでとうございます! おふたりとも、元気な女の子ですよ!」
「……出た……出た……うちの腹から……ツッコミ予備軍とボケの新星が……!」
優馬が美鈴の手を握りしめながら、涙を流していた。
「おまえ、ほんま……がんばったな」
「……そやろ……うち、めっちゃがんばったやろ……。でもな、隕石より痛かった。マジで。マグマ級」
「わかったから、もう隕石ネタ封印しよな」
──そして、生まれたふたりの娘は、まるで生まれながらのツッコミとボケのコンビ。
生後1分で見つめ合って、何かを確かめ合うようにフニャフニャ笑っていた。
「この子ら、将来絶対トリオになるで。エロ大魔王と、ツッコミ大魔王と、新生ギャグ大魔王で」
「誰がエロ大魔王や!! って、それオレか……」
──爆笑の渦に包まれながら、家族がまたひとつ増えた。
幸せとは、笑いとともにあるもの。
今日もまた、この家族の物語は、ドタバタしながら続いていく。
⸻
【双子のツッコミ大魔王、誕生す!?~笑いが絶えぬ新生活~】
「ふわ〜、赤ちゃんのにおいって、なんでこんなに幸せ感じるんやろなぁ……」
生後3日目。
病院の個室で、柔らかな光に包まれながら、美鈴は腕の中の小さな二人の命にほほえみかけていた。
光子と優子。
彼女たちは、生まれて数日目にして、すでに並の赤子とは一線を画していた。
まず、優馬の寒いギャグに対する反応である。
「なぁ、なぁ、美鈴〜、赤ちゃんのオムツって、オ・ム・ツ・コミュニケーションやなっ!なんちゃってぇ〜!!」
その瞬間、ベビーベッドの中から…
「ヘクチッ!!」「ヘクチッ!!」
双子が同時にくしゃみをしたかと思うと、眉間にシワを寄せてジト目で優馬の方向を見つめていた。
「……寒いらしいわ。あんたのギャグが」
美鈴がクスクス笑いながら布団をかけてやる。
「ツッコミセンス、はやっ!!」
「まさに生まれながらのツッコミ大魔王予備軍。将来が楽しみやなぁ」
──そんなこんなで、優馬と美鈴の育児生活は笑いとツッコミに満ちていた。
夜中の授乳、オムツ替え、寝不足……大変なはずなのに、どこかにユーモアがあるから乗り越えられる。
そして──相変わらず、優馬の「コチョコチョ大魔王」っぷりは健在である。
ある日、美鈴がキッチンで洗い物をしていると、背後から音もなく近づく優馬。
「わっ!!!」
「うひゃっ!?!?!?」
ビクンッと背筋を跳ねさせた美鈴は、泡だらけの手で思わず優馬にピシャッと反撃!
「びっくりしたやないの〜〜〜っ!!……でも、はい、びっくり返し〜!」
そう言って、指でVサインを作って、
「イッヒッヒ〜〜! 大成功っ☆」
とピース。
それを見て優馬も笑い崩れる。
「ま、まさかのリバースびっくり!?お主、なかなかやるのぅ……!」
「ツッコミ大魔王は不滅やからな!」
そんな二人の様子を、光子と優子がジト目で見ていた。
寝返りはまだだけど、気配を察知する能力はすでに一級品らしい。
──夕方。
ふたりがベビーカーに乗って近所を散歩していると、近所のおばあちゃんが声をかけてきた。
「あらあら〜、可愛い双子ちゃんやねぇ! でもちょっと……見つめられると心が試されるような気がするわ〜」
「それ、ウチも思ってました!このジト目、なんか内面のギャグセンスまで審査されてる気がするんですよ〜!」
──そして夜。
ベビーベッドに寝かしつけようとする優馬が、小さなぬいぐるみで手作りの「おやすみ劇場」を始めた。
「ある日のこと。うさぎさんが『今日も一日おつカレー!』って言いました〜〜!」
……沈黙。
「ねぇ、あの子たち、白目むいてない……?」
「寒すぎて気絶寸前なんちゃう?」
「マジか……ギャグ界、厳しい……」
──しかし、それでも二人は日々成長し、ちょっとずつ笑顔を見せるようになった。
笑いながら泣いたり、泣きながら笑ったり、そんな不思議な日々の中で、美鈴はしみじみと思うのだった。
「ホンマ、生きててよかったなぁ……。優馬と出会えて、笑って泣けて、こんなかわいい子たちに囲まれて」
優馬が美鈴の手を握って言う。
「オレも。美鈴とツッコミあいながら、娘たちにもコチョコチョしながら、一生笑っていたい」
その言葉に、美鈴はぷいっと顔を背ける。
「……キザなこと言うときに限って、鼻毛出とるで」
「えぇっ!? 嘘っ!? ホンマに!?」
「嘘やっ!」
──バチン!!
今夜も見事なチョップが決まった。
──この家族に、沈黙なんて似合わない。
ツッコミとボケ、笑いと愛情の中で、きっとこれからも賑やかに過ごしていくのだろう。