人間はね、絶滅するまで、呪いの渦の中で、踊り続けることになるの。
あの異質な赤帽子。
クリームヒルトが、英雄と呼んでいた赤帽子。
ミーネの言っていた赤帽子の王とは、紛れもなくアイツのことだろう。
スクリーンの映像は、バルムンクを持ったまま、倒れ込んでいる魔導士から、再び、中央広場へと移っていった。
そこは、地獄絵図と化していた。
都市を警備していた警使も、都市を守護していた騎士も、皆、無残に食い散らかされており、この都市で、まともに戦える人間は残っていなかった。
赤帽子たちは、狂喜乱舞しながら、中央広場から、居住区へと散らばっていった。
人々の悲鳴が、中央広場まで響き渡った。
中央広場に残った赤帽子たちは、大聖堂や教会、貴族の屋敷に侵入していき、建物の中にいる人々を生け捕りにして、中央広場に戻って来た。そして、捕らえられた聖職者や貴族たちは、赤帽子たちに抱えられ、そのまま都市の外へと運ばれていってしまった。
想像したくもない、おぞましい光景が目に浮かんだ。
「勇者のように、棲み処に持って帰るつもりか?」
「そう、魔力の高い、聖職者や貴族は、魔物にとって、ご馳走だから。でも可哀想ね。魔力が高いってだけで、魔物にいたぶり殺されるのだから。でもね、生まれてから、ずっと何不自由なく暮らしてこられたのだから、迎えた最期が地獄でも、受け入れるしかないわね。だって、人生って、必ず、どこかで帳尻が合うものだから」
クリームヒルトは、どこか諦観めいた表情で、スクリーンを見つめていた。
俺は、その表情が、一瞬、ルピナスと重なった。
赤帽子たちは、聖職者や貴族たちを、死なない程度に斬りつけ、動けなくして、棲み処に持って帰るつもりなのだろう。
スクリーンには、ひときわ豪奢な衣装に包まれた老人が、赤帽子たちに運ばれているのが見えた。見覚えのある尖った冠をかぶっている。恐らく大司教だろう。この巨大都市を統治している大司教が、まるで宅配の荷物のように運ばれている。どれほどの権威と威光があっても、所詮、それらが通用するのは、人間の社会だけだ。集団では強固な力を発揮することができる人間だが、集団が崩れて、個となった途端、脆弱さが露呈する。
弱い生き物は、強い生き物に捕食される。
それが、自然の摂理だ。
当然のことである。
だが、それを素直に受け入れることができるほど、俺は成熟していない。
スクリーンには、次々と、都市の外へと運び出される人々の姿が映っていた。
老人、女、子供、関係なく、荷物として運び出されている。
荘厳な衣装に身を包んだ聖職者たち。煌びやかな衣装に身を包んだ貴族たち。老若男女の絶望が入り混じり、悪夢のような慟哭が奏でられている。
スクリーンの映像は、阿鼻叫喚に満ちていた。
俺は、嘔吐しそうになり、スクリーンから目を背けた。
「千年経った今も、ニーベルゲンの呪いは続いているのね……」
クリームヒルトが小さく呟いた。
スクリーンで流れ続ける地獄の映像を、クリームヒルトは目を反らすことなく、見続けていた。
ニーベルゲンの呪い。
不死王ザイフリートに殺され、財宝を奪われた竜の呪い。
竜の呪い。
俺は、背筋が寒くなった。
《竜骨生物群集帯》は、紛れもなく竜の呪いだ。
「人間はね、絶滅するまで、呪いの渦の中で、踊り続けることになるの」