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きっと、面白いものが見られるわよ。

 ニーベルゲンの呪い。


 今から、約千年前、ニーダーラント王国の王であったザイフリートは、ニーベルゲンの財宝を手中に収めるべく、ニーベルゲン族の国へと攻め入った。激しい攻防の末、財宝を護っていた竜が討ち倒され、ニーベルゲンの財宝は、ザイフリートの手に渡った。


 竜の血を浴びたザイフリートは、不死の力を得ることとなり、竜を屠った剣には、膨大な竜の魔力が宿った。


 不死王ザイフリートと、屠竜武器ドラゴンキラーバルムンクの誕生である。


 だが、ザイフリートによって殺された竜は、死に際、自らの命を焼き尽くして、未来永劫、決して消えることのない呪いを、ニーベルゲンの財宝に向けて放った。


 これがニーベルゲンの呪いだ。


 その後、ザイフリートは、当時のブルグント王国の王、グンターによって誅殺され、ニーダーラント王国とブルグント王国の間で戦争が勃発する。


 大陸全土を巻き込んだ巨大な戦火は、やがて多くの魔物を生み出し、世界を森で覆い尽くしていった。


 まるで世界が、呪いで覆い尽くされていくかのように。


 クリームヒルト。


 かつてのブルグント王国の王、グンターの妹である。


 子供の絵本に出てくるような伝説のお姫様だ。


 本物かどうかは分からない。


 なぜ、この映画館に、観客としているのかも分からない。


 そして、これが夢なのかさえも分からない。


 それほどまでに、俺は混乱していた。


「クリームヒルト……」


 俺は続けた。


「ザイフリートの奥さん、か?」


 クリームヒルトが、婉然と笑った。


「へえ、私のこと知っているの?」


「ああ、知っている。俺の職場に、アンタにそっくりな同僚がいるからな」


「へえ、私のように美しい人間がいるなんて、信じられないわね」


「それ、自分で言うんだな。まあ、そいつはハーフエルフだけどな」


「ふうん、エルフ族の血が混じっているのね。それなら考えられるわね」


 クリームヒルトは、婉然と微笑んだ。


 クリームヒルトは、ザイフリートの妻であり、この千年に渡る戦争を引き起こした張本人である。


「ずいぶん前だが、その同僚が、アンタと間違えられて、大変な目にあったことがあるんだ」


 この世界の歴史に興味を持つようになったのも、この事件がきっかけだ。


 まあ、この事件の詳細は、別の機会にしておく。


「へえ、それは災難だったわね。まあ、私の夫は、方々から恨みを買っていたから、仕方ないと言えば、仕方ないわね。私と似ているというだけで、本当に不憫なエルフね」


 クリームヒルトは、ルピナスに引けを取らないほどに美しい。


 まさに絶世の美女という言葉が相応しい。


 だが、ルピナスのような温かさや柔らかさは一切ない。冷たく硬い刃で覆われているような危うさしか感じない。


 そっくりな二人だが、その雰囲気は、不気味なほどに真逆だ。


 離れた席に座っているにも関わらず、背筋にうすら寒さを覚える。


「アンタは、どうして俺の夢の中にいるんだ?」


 クリームヒルトが小首を傾げた。


「夢?」


 彼女が続ける。


「これは夢ではなく、貴方が創り出した魔法空間よ」


「魔法空間?」


「へえ、無意識で、これだけの魔法空間を創り出すなんて凄いわね。人知を超えた魔力がなければ不可能よ。もしかして貴方、勇者なの? いや、それとも魔王かしら?」


「どっちでもない。ただの人間だ」


「ふうん、でも、この魔法空間は、人間の魔力で創り出すことはできないわ。自覚がないみたいだけど、貴方、たぶん人間じゃないわよ」


 確かに、俺は、この世界の人間ではない。


 その時、何の前触れもなく、スクリーンに映像が映し出された。


「へえ、この大きな布に、記憶が映し出されるのね」


 クリームヒルトが、興味津々にスクリーンを見つめる。


 スクリーンには、広い部屋が映し出され、その中心には、大きなベッドが置かれていた。


 俺は、反吐が出そうになった。


 ベッドの真ん中で、全裸の勇者が、大の字で、大きないびきをかきながら眠っていた。


 そんな勇者の両脇には、戦士と魔導士が眠り、魔導士の隣には、僧侶が眠っていた。


 彼女らも全裸で、勇者の傍らで、窮屈そうに、身を丸めて眠っている。


「これは、貴方の記憶じゃないのね?」


「これは記憶じゃない。残留思念だ」


「残留思念?」


「人や物にくっついた誰かの感情みたいなもんだ。恐らくこれは、魔導士か、バルムンクにへばりついている残留思念だろう」


「へえ、本当に、おもしろい魔法ね」


 嬉々とするクリームヒルト。


「つまり、あの時の光景が、そのまま、この大きな布に映し出されるってことなのね」


「あの時の光景?」


 とんでもなく嫌な予感がする。


 クリームヒルトが、こちらへ顔を向け、婉然と笑った。


「きっと、面白いものが見られるわよ」

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