表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/132

呪いの剣

「魔力を吸い取る剣?」


 俺は、ルピナスと顔を見合わせた。


「ふむ、バルムンクは、装備した者の魔力を吸い取る剣じゃ。この娘の魔力が枯渇しておるのは、そのせいじゃな」


 力なく座り込んでいる魔導士へ、視線が集中する。


 虚ろな眼差しを浮かべ、糸の切れた人形のように動かない。


「バルムンクを握ったら、勝手に魔力が吸い取られていくってことか?」


「うむ、そうじゃ。それも凄まじい勢いでな。恐らく、一振りするだけでも、化け物じみた魔力が必要となるじゃろう」


「そうか、勇者が使いこなせていたのは、奴が、化け物じみた魔力を持っていたせいか」


「そういうことじゃな」


 俺は、夢の記憶を思い出す。


 そう言えば、竜との戦闘以外で、勇者がバルムンクを装備しているところは、一度も見たことがない。いつも、戦闘の直前に、部下に持って来させ、戦闘が終わると、部下たちに回収させていた。


 俺は、てっきり、とんでもなく重い剣なのだと思っていた。


 なぜなら、バルムンクを運ぶ際、戦士と僧侶と魔導士の三人掛かりで運ぶことが多かったからだ。しかも運んでいる最中、彼女らがふらつく場面を何度も見た。


 まさか魔力を吸い取る剣だったとは思いもしなかった。


 戦闘の直前まで、勇者がバルムンクを装備しなかったのは、魔力を吸い取られたくなかったからだ。そして、戦士と僧侶と魔導士が、三人掛かりでバルムンクを運んでいたのは、魔力を吸い取られ、力が抜けてしまうのを互いに補うためだ。


 なるほど合点がいった。


「しかし、おかしいのう、不死王ザイフリートの伝承において、バルムンクが、魔力を吸い取る剣など、一切、伝わっておらんし、文献にも記録されておらん。これほどまでに奇異な事象が、歴史的に抜け落ちるなど考えられんのじゃが……」


 まあ、歴史なんてものは、勝者が都合の良いように捻じ曲げていくものだ。竜を倒した伝説の聖剣の正体が、魔力を吸い尽くす魔剣であったとなれば、あまり恰好の良いものではない。


 英雄に相応しくない要素として、歴史から消し去ったのだろう。


「んで、なんでコイツは、半裸でバルムンクを抱きしめているんだ?」


 魔導士は、魔法式服ローブを羽織っているだけで、その内側は全裸だ。


 なまめかしい白い肌が、陽光に照らされている。


 すかさず、ルピナスが、彼女の前に立ち、俺を睨んだ。


「ちょっと、なに、いやらしい目で見てんのよ!」


「アホか、俺はコイツに、二回も殺されかけたんだぞ。エロい感情なんぞ湧くか!」


「それとこれとは別でしょ!」


「なに怒ってんだよ!」


「怒ってないわよ!」


「怒ってんだろ!」


「怒ってない!」


「よさんかっ!」


 睨み合う俺とルピナスの間に、ミーネが割って入った。


「痴話げんかは後でせいっ!」


「ち、痴話げんかっ?」


 ルピナスの顔が、一瞬にして紅潮した。


 何とも微妙な空気の中、ミーネが魔導士へと近づく。


「このまま魔力が枯渇し続けたら、この(ムスメ)は確実に死ぬぞ」


 ミーネの鋭い視線が向けられる。


「ああ、もうかなりマズいんじゃないか?」


 バルムンクから強制的に魔力を吸い取られ続けているため、表面の魔力はおろか、内面の魔力までなくなってしまっている。しかも、バルムンクに触れている限り、魔力を吸い取られ続けるため、魔力を回復することができない。このまま、魔力が枯渇した状態が続けば、精神と肉体は完全に崩壊し、最悪、死に至るだろう。


 この世界においてMP0は、死を意味しているのだ。


 俺は、ルピナスの背後で放たれる黄金の光に目を細めた。


 バルムンク。


 竜を倒した伝説の聖剣であり、魔力を吸い尽くす魔剣。


 まさに呪いの剣。


「ワシらでは、この娘からバルムンクを取り上げることはできん。あっという間に魔力を吸い取られ、動けんくなってしまう」


「まあ、そうだな……」


 ミーネの言いたいことは分かった。


「つまり、この俺に、バルムンクを取れってことだな」


 ミーネが小さく頷いた。


「おぬしの魔力であれば、可能なはずじゃ」


 ルピナスとシュタインも、静かに頷いた。


 俺は嘆息した。


 つくづく、お人好しな奴らだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ