表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/132

こりゃあ、とんでもない魔剣じゃな。

「おいおい、なんでコイツが、こんなところにいるんだ?」


 地面に座り込み、ぼーっと、一点を見つめ続けている魔導士。


 魔法式服ローブの下は裸で、太腿の辺りには、白い布切れが巻かれている。怪我をしているのか、布にはうっすらと血が滲んでいる。


 そんな彼女は、虚ろな表情を浮かべたまま、何かを抱きかかえていた。


 まるで精気を感じない彼女だが、それだけは、しっかりと抱きかかえられていた。


 黄金の輝きを放つ、長大な剣。


 俺たちの意識は、一気に、その剣へと引っ張られた。


「コイツが抱えている剣って、まさか……」


 俺たちは、顔を見合わせた。


「うむ、バルムンクじゃな……」


 静寂が落ちる。


「なんでコイツが、バルムンクを持ってんだ? あのクソ勇者はどこに行ったんだ?」


 無論、どこを見渡しても、勇者の姿はない。


 そもそも、魔力探知にさえ、一度も引っかかってこない。


 あの膨大で禍々しい魔力は、この都市には存在していない。


「ん?」


 ふと、違和感を覚えた。


「ちょっと待てよ、どうしてコイツは、俺の魔力探知に引っかからなかったんだ?」


 糸の切れた人形のように座り込む魔導士を、ミーネがジロジロと見渡した。


「これは、魔力切れじゃな」


「魔力切れ?」


「こやつの魔力はカラッポじゃ。こんな状態では、魔力探知にも引っかからん」


赤帽子レッドキャップと戦って、魔力を使い果たしたのか?」


「うむ、かもしれんが、どうにも不可解なことがある」


「不可解なこと?」


 ミーネが眉根にシワを寄せた。


「本来であれば、魔力が底を尽きても、時間が経てば、徐々に、魔力は回復していくはずなのじゃが、こやつの魔力は、一度も探知できんかったんじゃろ? おぬしが魔力探知を開始して、少なくとも、一時間以上が経過しておる。ある程度の魔力は、回復しておっても、おかしくないはずなのじゃが……」


「ああ、確かにそうだな、いくら俺の魔力探知が超低性能でも、コイツレベルの魔力なら、さすがに、すぐ探知できるはずだからな。しかも、こうやって目の前にいるのに、コイツからは、微塵の魔力も感じないぞ」


 ミーネが、魔導士に近づき、舐めるように彼女の様子を窺った。


「こりゃあ、下手すると、表面の魔力だけではなく、内面の魔力まで使い果たしておる可能性があるな」


 表面の魔力とは、皮膚から滲み出ている魔力のことだ。俺たちは、この魔力を使用して、魔法を生み出している。そして、内面の魔力とは、体内に内包されている魔力のことで、精神と肉体を維持するために使用されているため、魔法に転用することは禁じられている。


「じゃあ、コイツが廃人みたいになってるのは……」


「内面の魔力も使い果たしたからじゃろう」


 魔導士は、虚ろな眼差しのまま、糸の切れた人形のように座り込んでいる。


 バルムンクを抱え込んだまま。


 周囲に静寂が広がる。


「じゃが、これは千載一遇のチャンスじゃな……」


「ああ、これさえあれば、赤帽子の王(レッドロード)にも、対抗できるな……」


 俺たちの視線がバルムンクへと集中する。


 世界最強の屠竜武器(ドラゴンキラー)バルムンク。


「悪いけど、バルムンクは、あたしたちが貰うわ……」


 そう言うと、ルピナスは、魔導士の元へ足早に近づき、バルムンクの柄に手を掛けた。


 と、次の瞬間、彼女の身体がふらっと揺れると、そのまま、勢いよく地面に尻もちをついた。


「おいっ、どうしたんだ!」


 俺が叫ぶと、ルピナスが驚いた表情でこちらを見上げた。


「ち、ちからが、まったく入らないの……」


「力が、入らない?」


 一体、何が起こっているのか。


「ルピナスっ! すぐにバルムンクから手を放せっ!」


 ミーネが叫ぶと、ルピナスはバルムンクの柄から、パッと手を放した。


「あ、あれ?」


 手のひらを握ったり広げたりするルピナス。


「力が、入るようになった」


「ふむ……」


 おもむろに、魔導士の元へと近寄るミーネ。


 そして、静かに、バルムンクの柄を握った。


 瞬間、ミーネの表情が苦悶に歪んだ。


「おいっ、どうしたんだっ?」


 俺が訊くと、ミーネが口の端をつり上げた。


「こりゃあ、とんでもない魔剣じゃな」


 ミーネが続ける。


「バルムンクは、装備した者の魔力を吸い取る剣じゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ